第1回に引き続き、知識と美術鑑賞との関係について検討しよう。2011年はアートカードの出版が相次ぎ、そのゲーム性を考えるなら、さながら「アートゲーム元年」の様相を呈している。そこで今回はアートゲームを取り上げ、知識がどのように用いられているか考えてみたい。
「マッチング・ゲーム」自分のカードと目の前に出されたカードの共通点を見付けるゲーム。人数に応じて1対1で対戦したり、数人で絵合わせをしたりする。このゲームのポイントは「1度使った理由を2度使えないこと」。ゲームの参加者は「色が同じ」「構図が似ている」「どっちも彫刻」など次々と共通点を探すことになる。
「美術館づくり」たくさんのアートカードの中から複数を選び、順番やテーマなどを考えて「仮想美術館」としてまとめるゲーム。四つ切画用紙にカードを貼って簡単に解説を書き加えるタイプや、模造紙の上に数人で話し合いながら美術館をつくるタイプなどがある。参加者は「ほっとする美術館」「人生美術館」など、作品から伝わる感情やテーマなどをもとに構成する。起承転結を考えて順路を工夫したり、平面図をつくったりする場合もある。
いずれの場合も、参加者は、色や形、構図、主題や心情、ジャンル、時代などの様々な知識を活用してゲームを進行させる。それは「正解」的な知識ではない。参加者の経験から持ち込まれたり、他者と協同して見つけられたりするものだ。
また、その知識は「美術鑑賞の視点」にもなるので、そのまま美術館での鑑賞活動に役立つ。例えば鑑賞の事前学習としてアートゲームを取り入れると美術館で「色や形に着目して作品を見る」「実物と印刷物の違いに気付く」ようになる。
このようにアートゲームにおいて、知識は作品と自分の経験を結び付ける道具、あるいは作品を新しい視点で見直す材料として活用されている。作品と鑑賞者の間にあり、活動に応じて働いている。ただし、それは生活や社会を含んだ幅広い知識であって、「美術の知識」と限定できるものではない。
次回はもう少し絞って、具体的な作品名、作家名、材料、美術史などの美術的な知識がどのように鑑賞に用いられているのか、それは美術鑑賞に有効に働くのか、働くとすればどのようなときなのかなどについて検討したい。
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奥村高明(おくむら・たかあき)
聖徳大学 児童学部 児童学科教授 芸術学博士(筑波大学)
小中学校教諭、宮崎県立美術館学芸員、文部科学省教科調査官を経て今年4月より現職に着任。
近著は『子どもの絵の見方―子どもの世界を鑑賞するまなざし』(東洋館出版社)など。