今回の鑑賞イベントは、飯館村から避難した900世帯以上(2011年12月現在)が滞在する福島市で、避難された方々に向けて4回にわたり開催されたアートワークショップの最終回として行われました。もともとは避難先のみなさんに「見て、触って、感じ取って、制作もできる」といった時間の共有してもらえれば、と企画されたワークショップの最終回だったそうです。しかし、急激な寒波と大雪に見舞われた直後だったこともあり、年配の方々の参加が難しく、小学校1年生前後の子供たち7名、地元の先生たちを中心に10名ほどの大人が参加した鑑賞会になりました。

この日、ファシリテーターを務めたのは、アメリア・アレナス氏と上野行一氏(帝京科学大学教授)のお2人。鑑賞会の会場はホテルの1広間で、壁に8点ほどの作品が立てかけられ、1点は天井から吊るす、1点は床に置いてありました。参加者が床に座って作品をみながら、ファシリテーターを介して作品から発見したことを話す、というスタイルで鑑賞が進められました。
参加者の構成からと思われますが、前半では、アレナス氏は1つの作品を子供たちにみせ、子供たちの発言を促し、その様子を大人にみせるという方法と、まずは大人が先に鑑賞し、その後子供たちの鑑賞の様子を大人がみるという方法の2つをくり返しました。

床に置かれた浅見俊哉の《またたき》という組写真作品は、作品に触っても乗ってもよいという作品で、子供たちは抽象的な水の表現の中に、たくさんの発見をしていきます。
それまで口を開かなかった子供も次第に、鑑賞の和に入っていきました。会場には作家の浅見さんも来ており、アレナス氏は子供たちに向けた作品解説を作家に任せ、その間、大人を他の作品の鑑賞へと導いていきます。

木村晋の《無題》(ハンセン氏病患者の詩人、桜井哲夫さんを描いた作品)でも、大人と子供それぞれが作品を鑑賞した後に木村さんからモデルとなった人物に関する情報が渡され、木村さんが子供たちからの質問を受ける時間も設けられました。
後半では、上野氏が子供たちのファシリテーションを、アレナス氏が大人へのファシリテーションと2つのグループに分かれた鑑賞が行われました。大人グループでの鑑賞は、特に児童教育に携わる教師向けに、ある作品についての子供の意見や反応を例にとり、年齢にあったファシリテーションのコツを伝授するための時間だったと思います。同時に、子供の成長過程に応じた作品選びの重要性や子供たちが話し始めることを待つことの大切さを参加者に伝えようとしていたと受け取れました。
鑑賞会後に上野氏にお話を伺いましたが、「被災地の子供たちに美術鑑賞がどのような働きをするのかはわからないけれども、少なくとも子供たちがのびのびと思いを話せる機会になったのではないか。大切なのは、教師や親が短気を起こさず、子供たちが話し始めるのをじっと待つことだと思う」と仰っていました。
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今回の鑑賞会は、当日になってEASが予測した参加者と異なる層に向けたものになったと思われます。
しかし、主催者・ファシリテーターが参加者の状況に臨機応変に対応してこの進行と内容を仕立てたと感じられるものでした。これもまた、被災地から離れた私達が知る日常とは少し違う状況によるものなのかもしれません。
被災地で支援活動を続ける人たちの柔軟な姿勢がうかがえる鑑賞会でした。
※3月24日(土)にEASが「原発災害にどう立ち向かうか-飯館村広報支援活動報告会」を東京で開催します。詳しくは
こちらから。
(画像提供=EAS 取材・文=染谷ヒロコ 本ブログ編集)