視覚障がい者との鑑賞体験記
はじめまして。横浜在住アートナビゲーターのたかなです。
今回は今年2月下旬に横浜美術館で行われた、「視覚に障がいのある人と一 緒につくる収蔵品鑑賞サポートプラン」で使用する「収蔵作品鑑賞サポートシート」を使った鑑賞に、モニター参加した体験をレポートします。
これは、横浜美術館で平成22年より三年計画で行われている文化庁の支援事業「様々な人に開かれた美術館を目指して」の中でも、視覚障がい者向けのプログラム作りのためのものです。
今回は今年2月下旬に横浜美術館で行われた、「視覚に障がいのある人と一 緒につくる収蔵品鑑賞サポートプラン」で使用する「収蔵作品鑑賞サポートシート」を使った鑑賞に、モニター参加した体験をレポートします。
これは、横浜美術館で平成22年より三年計画で行われている文化庁の支援事業「様々な人に開かれた美術館を目指して」の中でも、視覚障がい者向けのプログラム作りのためのものです。
このときの鑑賞方法は、次のような内容でした。
横浜美術館の1万点を超える所蔵作品の中から選ばれた立体作品や油絵など10点について、それぞれA4サイズの「収蔵品鑑賞サポートシート」が一枚、晴眼者に渡されます。
そこには作品ごとに、鑑賞する上でヒントになる10問以上の問いかけが書かれており、問いかけの順番に従って視覚に障がいのある方と晴眼者が2人でペアになり言葉を交わし、一緒に体感し一緒に考えながら、お互いの心のなかに作品のイメージを作り上げていく、というものでした。
当日は晴眼者の参加人数が多かったため、私は晴眼者同士でペアを組み、交代でアイマスクをすることに。一般の来館者や参加者の盲導犬にも気をつけて展示室へ向かいます。
私がアイマスクをして問いかけを受ける作品はルネ・マグリットの《青春の泉》です。持ち時間は約20分。
はじめに制作年や大きさなどの作品の基本情報が読み上げられます。
この作品の大きさは縦97センチ×横130センチ。
それを体感できるよう実際に手を広げて大きさを体感してみるよう促されました。
次に、いよいよシートに書かれた問いかけがなされます。抜粋してご紹介しますね。
①《青春の泉》というタイトルから思い浮かぶイメージを伝えあってください。
②季節はいつだと思いますか、また、どのような天気で何時頃だと思いますか。
③作品の掛けてある展示室の印象を伝えあってください。
さあ、皆さんなら、どんな言葉でどんな会話をしますか?
何が描かれているかの説明を一方的にされるものではないので、問いかけごとに楽しく会話が弾むものの、しまった、時間が足りない!
鑑賞後にはいくつかのポイントで課題や反省点をしみじみと考えることとなりました。マグリット作品については、例えば次の2つです。
●画面の大部分を占める石碑に書かれた文字の意味
「石碑に書かれた単語はフランス語で、発音が画中のモチーフやタイトルと呼応している」、といった作品に関する情報を問いかける側がうろ覚えだと、その絵をもっと楽しめるはずの情報をお伝えすることができなくなります。作品についての知識がぼんやりしたものではだめなんですね。
●タイトルからは想像しがたい、画面全体を包む決して明るくない雰囲気や背景の空の様子
普段の生活で晴眼者が「見て知っている夕日や朝焼けの空」を、明るさや色でなく感覚で共有するには、「肌寒さ」をはじめ、視覚障がいのある方も体感できる言葉で表現しないと伝わらないことを実感しました。美術作品を「体感できるもの」として表現できる言葉に普段から敏感であれ、ということでしょうか。
また、参加者の障がいの程度はさまざまです。
視力の全くない方、作品のキャプションぐらいなら読める方、多少なら色の判別がつくという方。さらに、その方が人生のどの時点で障がいを持つことになったのか--生まれた時から視覚が奪われていた、または大人になって障がいを持つようになった--など。
例えば絵画の鑑賞以前の課題として照明のあて方に言及された方もいらっしゃいました。照明のあて方によっては視界がギラついてしまい、大変疲れるそうです。人生の半ばで視力を失ったこの方は、以前は美術館によくいらしたとのことでしたが、この照明のギラつきのせいで足が遠のいたそうです。
また、生まれた時から視力のない方は、美術鑑賞自体が自分とは縁のないものと思っていたから「油彩」どころか「絵画」という概念自体がよくわからないとおっしゃっていました。作品についての問いかけをする側としても、赤っぽい画面だから暖かいとか、青っぽいから肌寒いと言い切ってしまっていいのか、という葛藤も生まれます。
とはいえ、視覚障がいのある方が「美術館でアート鑑賞を楽しんでこよう」とお出かけになった日は、帰宅するときに「想像していた以上に楽しかったからまた行こう」と感じていただきたい。そのためには鑑賞サポートシートの充実はもちろん、床面の段差をなくす、盲導犬を連れて歩いても十分な通路の広さを確保する、展示の仕上げともいえる照明のあて方など、今後もさまざまな角度での調整が必要だと感じました。
*****
これらの活動の初年度(平成22年)の報告書となる、「様々な人に開かれた美術館を目指して」報告書『みんなの“みたい”を考える』は、横浜美術館美術情報センターの他、横浜市内の市立図書館、全国県立図書館でも閲覧できます。参加者の感想も載っていますのでぜひご覧下さい。
さて、横浜美術館では7月14日(土)から奈良美智「君や 僕に ちょっと似ている」が始まります。会期中はアーティスト・トークや閉館後の夜のアートクルーズ、小・中学生から参加できるワークショップなどイベントもありますよ。
美術館を楽しんでいただいたその後は横浜の街歩きも楽しんで下さいね。
夏の横浜港の開放的な空気の中、旅心をそそる大型客船の汽笛も聞けるかもしれません。
プロフィール/アート鑑賞は好きでも、なかなか美術館へ足を運べないでいた2010年、ふと目にした「美術検定」の文字に「何かが変わるかも」と引き寄せられるように受験、2011年に1級合格。まずは自分の周りから美術ファンを増殖させるべく、「横浜トリエンナーレ」のボランティアや中学校の美術部で外部講師をしています。
「美術検定」受験に際し、問題集・参考書、ネット上の美術関連の記事、テレビ各局で放送されている美術関連の番組をたくさん見ました。特にBSテレビは多くの作品、作家、キーワード、歴史などの関連付けに役立ちました。
横浜美術館の1万点を超える所蔵作品の中から選ばれた立体作品や油絵など10点について、それぞれA4サイズの「収蔵品鑑賞サポートシート」が一枚、晴眼者に渡されます。
そこには作品ごとに、鑑賞する上でヒントになる10問以上の問いかけが書かれており、問いかけの順番に従って視覚に障がいのある方と晴眼者が2人でペアになり言葉を交わし、一緒に体感し一緒に考えながら、お互いの心のなかに作品のイメージを作り上げていく、というものでした。
当日は晴眼者の参加人数が多かったため、私は晴眼者同士でペアを組み、交代でアイマスクをすることに。一般の来館者や参加者の盲導犬にも気をつけて展示室へ向かいます。
私がアイマスクをして問いかけを受ける作品はルネ・マグリットの《青春の泉》です。持ち時間は約20分。
はじめに制作年や大きさなどの作品の基本情報が読み上げられます。
この作品の大きさは縦97センチ×横130センチ。
それを体感できるよう実際に手を広げて大きさを体感してみるよう促されました。
次に、いよいよシートに書かれた問いかけがなされます。抜粋してご紹介しますね。
①《青春の泉》というタイトルから思い浮かぶイメージを伝えあってください。
②季節はいつだと思いますか、また、どのような天気で何時頃だと思いますか。
③作品の掛けてある展示室の印象を伝えあってください。
さあ、皆さんなら、どんな言葉でどんな会話をしますか?
何が描かれているかの説明を一方的にされるものではないので、問いかけごとに楽しく会話が弾むものの、しまった、時間が足りない!
鑑賞後にはいくつかのポイントで課題や反省点をしみじみと考えることとなりました。マグリット作品については、例えば次の2つです。
●画面の大部分を占める石碑に書かれた文字の意味
「石碑に書かれた単語はフランス語で、発音が画中のモチーフやタイトルと呼応している」、といった作品に関する情報を問いかける側がうろ覚えだと、その絵をもっと楽しめるはずの情報をお伝えすることができなくなります。作品についての知識がぼんやりしたものではだめなんですね。
●タイトルからは想像しがたい、画面全体を包む決して明るくない雰囲気や背景の空の様子
普段の生活で晴眼者が「見て知っている夕日や朝焼けの空」を、明るさや色でなく感覚で共有するには、「肌寒さ」をはじめ、視覚障がいのある方も体感できる言葉で表現しないと伝わらないことを実感しました。美術作品を「体感できるもの」として表現できる言葉に普段から敏感であれ、ということでしょうか。
また、参加者の障がいの程度はさまざまです。
視力の全くない方、作品のキャプションぐらいなら読める方、多少なら色の判別がつくという方。さらに、その方が人生のどの時点で障がいを持つことになったのか--生まれた時から視覚が奪われていた、または大人になって障がいを持つようになった--など。
例えば絵画の鑑賞以前の課題として照明のあて方に言及された方もいらっしゃいました。照明のあて方によっては視界がギラついてしまい、大変疲れるそうです。人生の半ばで視力を失ったこの方は、以前は美術館によくいらしたとのことでしたが、この照明のギラつきのせいで足が遠のいたそうです。
また、生まれた時から視力のない方は、美術鑑賞自体が自分とは縁のないものと思っていたから「油彩」どころか「絵画」という概念自体がよくわからないとおっしゃっていました。作品についての問いかけをする側としても、赤っぽい画面だから暖かいとか、青っぽいから肌寒いと言い切ってしまっていいのか、という葛藤も生まれます。
とはいえ、視覚障がいのある方が「美術館でアート鑑賞を楽しんでこよう」とお出かけになった日は、帰宅するときに「想像していた以上に楽しかったからまた行こう」と感じていただきたい。そのためには鑑賞サポートシートの充実はもちろん、床面の段差をなくす、盲導犬を連れて歩いても十分な通路の広さを確保する、展示の仕上げともいえる照明のあて方など、今後もさまざまな角度での調整が必要だと感じました。
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これらの活動の初年度(平成22年)の報告書となる、「様々な人に開かれた美術館を目指して」報告書『みんなの“みたい”を考える』は、横浜美術館美術情報センターの他、横浜市内の市立図書館、全国県立図書館でも閲覧できます。参加者の感想も載っていますのでぜひご覧下さい。
さて、横浜美術館では7月14日(土)から奈良美智「君や 僕に ちょっと似ている」が始まります。会期中はアーティスト・トークや閉館後の夜のアートクルーズ、小・中学生から参加できるワークショップなどイベントもありますよ。
美術館を楽しんでいただいたその後は横浜の街歩きも楽しんで下さいね。
夏の横浜港の開放的な空気の中、旅心をそそる大型客船の汽笛も聞けるかもしれません。

「美術検定」受験に際し、問題集・参考書、ネット上の美術関連の記事、テレビ各局で放送されている美術関連の番組をたくさん見ました。特にBSテレビは多くの作品、作家、キーワード、歴史などの関連付けに役立ちました。
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