展示は、これまでの成果展示、現在進行形のプロジェクト、未来への提言、という3つの構成になっていましたが、その中で注目したのが、未来への提言として提示されている「コロガル公園」というスペースでした。
室内いっぱいに波打った床が作られた展示室は、こどもたちが駆け回る遊び場と化しています。遊び場といっても特に遊具があるわけではありません。これは「プレーパーク」という、遊具のない公園、そこで遊ぶこどもたち自身が遊具を作る、落とし穴を掘る、滑り台を作るという公園からの発想だそうです。「コロガル公園」は、「子どもあそびばミーティング」というイベントに参加したこどもたちがどんどん育てていきます。そして、こどもたちが描いた遊び場のアイデアスケッチを、ミーティングに参加したこどもたちが解読して具体的なアイデアにし、大人はそれを実現するための手助けをして一緒になって実際の形に作り上げていきます。

たとえば写真の「G」の文字。 これは公園内のある場所からしか見えないものですが、この元になったアイデアスケッチは「あ」と書かれていただけ!みんなのアイデアに、みんなが互いに力を貸していけば、頭の中に隠れている何か新しい形ができていく。そんな実験の場でもあるのです。
「コロガル公園」に書かれた「G」の文字 YCAMは、いわゆる展覧会場だけではなく、いろいろな「ワークショップ」的な活動を通じて、新しいメディア・アートや現代アートの見方、楽しみ方を訓練する場所のようです。スタッフの方によれば「新しいアートの分野に正しいものの見方はないので、教習すべき鑑賞方法、クロールのような決まった泳ぎ方はなく、むしろ体をほぐすためのストレッチを覚えておく方が、アートの海でおぼれないためには大事」ということです。また、「体験の共有」というのもテーマの一つで、たとえば「映画を2回観る会」というイベントもあります。これは、YCAMにある映画館で一度映画を観た後みんなで意見交換し、さらにもう一度観るというものです。

このほか、YCAMがつくったオリジナルワークショップ「walking around surround」、「ケータイ・スパイ・大作戦」、「パスタ建築」などいろいろな種類の出張ワークショップもやっています。国内はもちろん、海外などからもオファーがあるそうです。
音を聴くことに焦点を当てたワークショップ
「Walking around surround」
他にYCAM館内で聴くことのできるミニラジオ局などもあるのですが、こうしたワークショップをはじめとしたYCAMの教育普及活動の多くは、ボランティアのサポートスタッフによって支えられているそうです。今、全国の美術館で課題となっている市民参加ということに、YCAMは10年前の開館から取り組み、実績を積んできていることが今回の取材で分かりました。
こうして築かれた市民との関係を土台に、メディア・アートを活かした山口発の美術・教育普及活動の形を作り出して、全国・全世界にどんどん発信していくことが期待されるYCAMでした。
◆「glitchGROUND」展は、2012年5月19日(土)~8月12日(日) 山口情報芸術センター(YCAM)にて開催。
詳細は→
http://glitchground.ycam.jp/ (取材・文=山口在住アートナビゲーター・H、取材協力=YCAM主任エデュケーター・会田大地)