渋谷から井の頭線で2駅目。駒場東大前駅では多くの学生が乗り降りしています。改札を下りるとすぐに、東大駒場校舎の門があります。大人のお散歩の手始めは
東京大学の駒場博物館から。

ヴォールトがおもしろい
展示室では、イタリアの文筆家の生誕150年を記念した「ダンヌンツィオに夢中だった頃」を開催中でした。独自の審美的スタイルを持つダンヌンツィオのパネルや書簡、愛用の品々が並ぶ生真面目な展示は、まさに博物学。ケースの中の細身で美しい靴の展示にウットリしながらも飾り気のない空間に何だか真摯な気持ちになります。
ちょっと意外な感じですが、ここにはマルセル・デュシャンの《花嫁は独身者達によって裸にされて、さえも》のレプリカ、通称《大ガラス》「東京ヴァージョン」もあります。
*****
博物館を出ると、東大構内は年月を感じさせる大きな木が多く、銀杏の並木道を歩いているだけで少し頭がよくなったような(?)うれしい錯覚に陥ります。葉っぱはまだ緑色でしたが、これからの季節、鮮やかな黄色い道になることでしょう。自然の造形やカラーセンスには何物もかないません。「あっ、どんぐり発見!」

小さな門を抜け、通りを渡るとすぐに駒場公園へ続く南門があります。何やら由緒ありげな石灯篭を横目に、鳥の声と木洩れ日の道を進むと、明るい芝生の広場に出ます。タイムスリップしたような景色。目の前には「
旧前田侯爵家駒場本邸」が優雅にして堂々と建っています。今年8月に、国の重要文化財に指定されたばかりです。
ここは建立当初の1929年には東洋一の邸宅と称されたというだけあって、チューダー様式の外観とともに、館内は緋色の絨毯、緩やかにカーブした大階段、ステンドグラスからマントルピースの装飾に至るまで見所満載です。曜日によってはボランティアによるガイドも受けられます。40分ほどで丁寧に案内してくれます。

館内にあるカフェ・マルキスで一休み。ちょうどこの日は隣室で無料のサロンコンサートが開かれていて、BGM付の優雅なお茶の時間になりました。
隣接する書院造の和館では、縁側に座り、美しい日本庭園をながめてのんびり。
*****

すっかり落ち着いた気分で前田邸をあとにして、「
日本民藝館」へ。ちょうど「柳宗理の見てきたもの」展が開催されていました。
大谷石がモダンに配された玄関ホールからスリッパにはきかえると、手すりの印象的な中央階段が正面にドーンと現れます。民芸運動を推進した思想家の柳宗悦によって設計されたこの館は住宅のような造りをしています。たくさんの展示品は以前からそこにあったかのように自然体で溶け込んでいます。

説明書きが少ないのは、知識ではなく直感で物を見ることが肝要という、宗悦の見識によるものとのことです。チベットの毛織衣装、コートジボワールの洗濯台、福岡県産の壺、山東省のお城の石。世界中から柳の審美眼を通して集められたものは、どれも手の中で何度も慈しんだような丸みを帯びています。

館内にはところどころに椅子があり、木目の美しい大テーブルをかこんで冊子を眺めることもできます。白い石の上に置かれた様々な壺、壁に掛かるユーモラスな仮面、甕から無造作に伸びるハスの葉、窓からのぞくリズミカルな屋根瓦まで、どこにも全く隙はない。それなのに人を緊張させないあたたかみがあるのは何故?

宗悦から宗理へと時間をかけて培われた美意識が、至る所で来館者をおもてなししているように思いました。丁重な暮らしの中にある美を堪能しました。
向かいに建つ西館(旧柳宗悦邸)にも行き、秋の日の大人のお散歩を終わりました。
ちなみにこの日の歩数計のトータルは13236歩、距離にして約7.3km消費カロリーは300Kcalでした。
さぁ、美しい暮らしへの憧れが消えないうちに、家の中も私自身もシェイプアップしなくては!
*****
プロフィール/もともとイラストレーターをしていたので、美術は大好き。美術館にもよく足を運んでいました。そこで見つけた美術検定のチラシのイラストに惹かれて受験。2008年に1級取得。現在は損保ジャパン東郷青児美術館でガイドスタッフとして活動しています。
「美術検定」に向けては、テキストの図版に吹き出しを付けて覚えたいことをメモ書きしたり、カラフルな美術年表を手作りして手帳に挟んで持ち歩いたり、実際の作品や美術書の図版、写真をたくさん見るといったビジュアル勉強法(?)を実践していました。