CINEMAウォッチ「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
こんにちは。アートナビゲーターの深津優希です。前回紹介した「みんなのアムステルダム国立美術館へ」はもうご覧になりましたか?そして今回はまたまた美術館モノなのですが、前回のか今回のか、どちらかひとつを劇場で見るならこっち!というおすすめ長編ドキュメンタリーです。
じっくり味わう3時間! 「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
1月17日に日本公開されたばかりの映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」をさっそく観てきました。「パリ・オペラ座のすべて」「クレイジー・ホース・パリ 夜の宝石たち」などの映像が記憶に新しいフレデリック・ワイズマン(監督・編集・録音)によるこのロンドンの美術館を舞台にしたドキュメンタリー映画は、なんと上映時間が3時間!素材としての映像は170時間分あったといいます。撮影に12週間、映像をチェックするだけで7~8週間、映像の断片にランク付けをして使えそうな部分を選んでいくのに6~8か月かかったそうです。制作にかけられた時間は観るものにはそれほど重要ではないかもしれませんし、最近の映画は2時間を超えるものも多くなっています。それにしても、上映時間3時間にはびっくりしました!
みどころ
これだけ長いと、集中力が途切れたり眠くなったりということもありそうですが、一瞬も飽きることなく夢中で観ることができたので、それにも驚きました。
まず、様々な名画に見入る老若男女の横顔が印象に残ります。監督が一番撮りたかったのは、黙って作品と対峙するそうした人々の表情だったのかもしれません。
それとは別にわたしが最も魅力を感じた部分は、学芸員、修復家、教育普及担当、ガイドのひとたちによる熱いトークでした。来館者と作品の距離を近づける役割を果たす彼らの「語り」は本当に面白く、ぐっと引き込まれました。日ごろ、一方通行の解説ではないガイドをしたいと思い、対話を取り入れるようにしてきましたが、こんなふうに「語り」に引き込み、それぞれに想像させ、考えさせることができれば、たとえ言葉を発するのはガイドひとりであっても、決して一方通行とはいえません。ガイドとしてやってみたいことが増えました。
もうひとつ忘れてはならないのが、絵画作品のクローズアップを多用している点です。中世の祭壇画から、ルネサンス絵画、フランドル、オランダ絵画、印象派など、美術史を見渡すようなナショナル・ギャラリーのおなじみのコレクションを、映画館の大画面で眺めるというのは、とても良い体験でした。
具体的に何が出てくるのか、もう少し補足しておきます。撮影当時に開催中だったレオナルド・ダ・ヴィンチ展の作品やその担当学芸員のインタビュー、次の展覧会ターナー展に関連した取材風景のほか、17世紀~18世紀絵画の展示室でのピアノ・リサイタルの様子、ティツィアーノの連作「ポエジア」の展示にあわせた英国ロイヤルバレエ団によるバレエ作品が展示室で披露される様子も収録されています。美術館では静かに眺めるだけではなく、いろんな楽しみ方が提案されていることがわかります。
英国の至宝とは
美術館のメイン・コンテンツは美術作品です。その意味では、映画タイトルにある「英国の至宝」は絵画や彫刻のコレクションを指していると考えるのが当然でしょう。しかしわたしが3時間の映像から感じたことは、価値ある美術コレクションだけでなく、その魅力にとりつかれ人に伝えようとするスタッフ、その話に夢中になり作品を見つめる来館者まで、すべてひっくるめたナショナル・ギャラリーが宝物なのだということでした。とても長いけれど、ぜひ映画館でご覧ください!
◆映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」オフィシャルサイト
http://www.cetera.co.jp/treasure/
◆映画の舞台となった美術館のサイト The National Gallery, London (一部日本語で案内があります)
http://www.nationalgallery.org.uk/visiting/visiting-japanese/
◆美術検定ブログ:CINEMAウォッチ「みんなのアムステルダム国立美術館へ」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-174.html
◆美術検定ブログ:CINEMAウォッチ「パリ・ルーヴル美術館の秘密」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-141.html
プロフィール
美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師など、色々なかたちでアートに関わっています。このブログではアートナビゲーターの活動記録のほか、アートが題材となった映画をご紹介しています。
1月17日に日本公開されたばかりの映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」をさっそく観てきました。「パリ・オペラ座のすべて」「クレイジー・ホース・パリ 夜の宝石たち」などの映像が記憶に新しいフレデリック・ワイズマン(監督・編集・録音)によるこのロンドンの美術館を舞台にしたドキュメンタリー映画は、なんと上映時間が3時間!素材としての映像は170時間分あったといいます。撮影に12週間、映像をチェックするだけで7~8週間、映像の断片にランク付けをして使えそうな部分を選んでいくのに6~8か月かかったそうです。制作にかけられた時間は観るものにはそれほど重要ではないかもしれませんし、最近の映画は2時間を超えるものも多くなっています。それにしても、上映時間3時間にはびっくりしました!
みどころ
これだけ長いと、集中力が途切れたり眠くなったりということもありそうですが、一瞬も飽きることなく夢中で観ることができたので、それにも驚きました。
まず、様々な名画に見入る老若男女の横顔が印象に残ります。監督が一番撮りたかったのは、黙って作品と対峙するそうした人々の表情だったのかもしれません。
それとは別にわたしが最も魅力を感じた部分は、学芸員、修復家、教育普及担当、ガイドのひとたちによる熱いトークでした。来館者と作品の距離を近づける役割を果たす彼らの「語り」は本当に面白く、ぐっと引き込まれました。日ごろ、一方通行の解説ではないガイドをしたいと思い、対話を取り入れるようにしてきましたが、こんなふうに「語り」に引き込み、それぞれに想像させ、考えさせることができれば、たとえ言葉を発するのはガイドひとりであっても、決して一方通行とはいえません。ガイドとしてやってみたいことが増えました。
もうひとつ忘れてはならないのが、絵画作品のクローズアップを多用している点です。中世の祭壇画から、ルネサンス絵画、フランドル、オランダ絵画、印象派など、美術史を見渡すようなナショナル・ギャラリーのおなじみのコレクションを、映画館の大画面で眺めるというのは、とても良い体験でした。
具体的に何が出てくるのか、もう少し補足しておきます。撮影当時に開催中だったレオナルド・ダ・ヴィンチ展の作品やその担当学芸員のインタビュー、次の展覧会ターナー展に関連した取材風景のほか、17世紀~18世紀絵画の展示室でのピアノ・リサイタルの様子、ティツィアーノの連作「ポエジア」の展示にあわせた英国ロイヤルバレエ団によるバレエ作品が展示室で披露される様子も収録されています。美術館では静かに眺めるだけではなく、いろんな楽しみ方が提案されていることがわかります。
英国の至宝とは
美術館のメイン・コンテンツは美術作品です。その意味では、映画タイトルにある「英国の至宝」は絵画や彫刻のコレクションを指していると考えるのが当然でしょう。しかしわたしが3時間の映像から感じたことは、価値ある美術コレクションだけでなく、その魅力にとりつかれ人に伝えようとするスタッフ、その話に夢中になり作品を見つめる来館者まで、すべてひっくるめたナショナル・ギャラリーが宝物なのだということでした。とても長いけれど、ぜひ映画館でご覧ください!
◆映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」オフィシャルサイト
http://www.cetera.co.jp/treasure/
◆映画の舞台となった美術館のサイト The National Gallery, London (一部日本語で案内があります)
http://www.nationalgallery.org.uk/visiting/visiting-japanese/
◆美術検定ブログ:CINEMAウォッチ「みんなのアムステルダム国立美術館へ」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-174.html
◆美術検定ブログ:CINEMAウォッチ「パリ・ルーヴル美術館の秘密」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-141.html

美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師など、色々なかたちでアートに関わっています。このブログではアートナビゲーターの活動記録のほか、アートが題材となった映画をご紹介しています。
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