「市民キュレーターワークショップ」参加レポート~一般市民が現代アートの実物作品を使って展覧会をキュレーション
こんにちは!大阪在住のアートナビゲーター武藤祐二です。2015年3月に「PARASOPHIA京都国際現代芸術祭2015」のボランティア活動をレポートして以来、久しぶりに近況をご報告いたします。今回は2015年10月から12月にかけて参加した、「市民キュレーターワークショップ」についてご紹介します。
市民キュレーターワークショップは、大阪新美術館建設準備室と大阪府立江之子島文化芸術創造センター(愛称:enoco)が連携して実施しているものです。このワークショップは、一般の大阪府市民が自分で現代美術の展覧会を作る(キュレーション)もので、企画、作品選び、作品展示など一貫したプロセスが実体験できます。普段は展覧会を見るだけの立場の一般市民が「市民キュレーター」として、大阪府が所有する「大阪府20世紀美術コレクション」7800点の中から作品を自由に選んで企画できます。
5回目となる今回は、私も含め5人の市民キュレーターが公募で選ばれました。5人がそれぞれ思い思いの展覧会を作り上げながら、展覧会の裏側を体験できるめったにない機会でした(文字どおり、作品の裏側も見られました!)。会場はenocoの4階の展示室で、一人当たり約5メートル四方に区切られた空間を使いました。
ワークショップの流れは次のとおり進みました。
・10月17日:開講式・オリエンテーション
後日、自分の展覧会のコンセプト、出品作品選びなどについて、5人が個別に学芸員さんに相談しながら企画を進めました。

オリエンテーションの光景(展示場所のくじ引きじゃんけん)

学芸員さんとデータベースを検索しながら作品選びの面談
・11月7日:中間発表(企画プレゼンテーション)
5人の市民キュレーターがそれぞれ発表し、学芸員さんにアドバイスをいただきました。
この間に、各自、タイトル・テーマや出品作品の決定、レイアウトの作成、掲示パネル等の原稿作成を行いました。

中間発表(学芸員さんにマケットを見せながらプレゼンテーション)
・12月13日、14日:展示作業(作業は専門業者さんが行い、市民キュレーターは指示を出しました)

展示作業、左が私のブース(黒い作品:上前智祐、赤い作品:吉原治良)
・そして、いよいよ展覧会の開幕です。12月15日~26日の11日間展示しました。12月23日には市民キュレーター自身がギャラリートークを行い、自分の展示を解説しました。

ギャラリートーク
・12月27日:撤去作業、修了式
*
私は、「シンプル~作品は見る人によってできあがる」というテーマで、3点の油彩の抽象画と1点の焼き物を選びました。大阪の戦後現代美術を代表する具体美術協会のリーダー吉原治良とその弟子の上前智祐、それとほぼ同世代の津高和一のそれぞれ幅約1m半から2mの大作を、3面の壁面にひとつずつ掛けました。ただ、それだけではなんとなく物足りないかなと感じ、悩みに悩んで、現代丹波焼の清水千代市の壺を、句読点を打つように置き、まさにシンプルに仕上げました。
他の4人の市民キュレーターの方々は、それぞれ8点から23点と多数の作品をテーマ性豊かに構成し、それぞれの個性が対比的に際立った展覧会となりました。展覧会全体のタイトルは5人でアイデアを出し合って、「あなたをうつす5つの鏡」と決めました。
展覧会を作ることは、ある意味で自己表現です。自分が伝えたい内容を良く練り上げることが最も重要ですが、いかに伝えるかということに腐心することも同じぐらい大切だと感じました。そのためには、様々なことに神経を配ることが必要です。例えば、告知フライヤーや、会場の説明パネルの文章、ハンドアウトなどにも、見やすさや読みやすさといった工夫が求められます。
一方、作品レイアウトも重要な表現要素です。そこで、50分の1の縮尺のマケットを作成しながら検討しました。もちろん、作品の搬入から搬出までの安全などにも細心の注意を払わなくてはなりません。それだけに、選んだ作品との対面は感激もひとしおです。私は大きな作品を選んだこともあり、その迫力と重量感に圧倒されました(特に上前智祐の作品は文字どおり重い!)。
フライヤーのデザインは専門の方に依頼しましたが、それぞれのテーマの趣旨文や説明パネル、ハンドアウトの文章は、市民キュレーターが練りに練って書きます。美術館の学芸員さんの苦労と楽しさが少しわかったような気がしました。また、私の場合で言えば、1970年代の大阪の現代アートシーンを勉強する良いきっかけともなりました。
それに最も重要なことは、一般市民がこういう形で郷土の美術コレクションと関わることは、開かれた美術館、市民とのコミュニティの強化、醸成といった面でも今後ますます大切になる取り組みだということです。
今回のような実物のコレクションを使った一般市民向けのワークショップは、全国的にもほとんどないように思います。同様の取り組みが全国のあちこちに広がれば、その地域のシビックプライドを醸成するという意味においても美術館の新しい役割になるのではないでしょうか。それと同時に、美術館とは(特に公立美術館とは)市民にとって何なのか、そのコレクションを本当に市民のものと感じるためにはどうしたら良いかを考える良い契機になると思いました。
最後にこの場をお借りして、大変お世話になった学芸員等の方々、ご来場の府市民の皆様に厚く御礼申し上げます。
「市民キュレーターワークショップ」サイト
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000332018.html
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000024032.html
プロフィール
2010年2級、2015年1級取得。1956年東京生まれ、1979年某美術専門学校卒(当時の恩師の一人は「もの派」の方)。1984年宣伝会議コピーライター講座卒。職業は美術とは全く関係なく、転勤族で現在大阪市在住。定年が近づく中、アートマネジメント講座に参加したり、Webで発信したり、まれに公募展に出品したりしています。アートは日展系から現代アートまで、美術の多様性を大切にして鑑賞しています。
《個人のSNS一覧》
https://twitter.com/forimalist
http://www.facebook.com/yuhji.mutoh
http://loplop-eggs.blogspot.jp/
http://blog.goo.ne.jp/forimalitsuto
5回目となる今回は、私も含め5人の市民キュレーターが公募で選ばれました。5人がそれぞれ思い思いの展覧会を作り上げながら、展覧会の裏側を体験できるめったにない機会でした(文字どおり、作品の裏側も見られました!)。会場はenocoの4階の展示室で、一人当たり約5メートル四方に区切られた空間を使いました。
ワークショップの流れは次のとおり進みました。
・10月17日:開講式・オリエンテーション
後日、自分の展覧会のコンセプト、出品作品選びなどについて、5人が個別に学芸員さんに相談しながら企画を進めました。

オリエンテーションの光景(展示場所のくじ引きじゃんけん)

学芸員さんとデータベースを検索しながら作品選びの面談
・11月7日:中間発表(企画プレゼンテーション)
5人の市民キュレーターがそれぞれ発表し、学芸員さんにアドバイスをいただきました。
この間に、各自、タイトル・テーマや出品作品の決定、レイアウトの作成、掲示パネル等の原稿作成を行いました。

中間発表(学芸員さんにマケットを見せながらプレゼンテーション)
・12月13日、14日:展示作業(作業は専門業者さんが行い、市民キュレーターは指示を出しました)

展示作業、左が私のブース(黒い作品:上前智祐、赤い作品:吉原治良)
・そして、いよいよ展覧会の開幕です。12月15日~26日の11日間展示しました。12月23日には市民キュレーター自身がギャラリートークを行い、自分の展示を解説しました。

ギャラリートーク
・12月27日:撤去作業、修了式
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私は、「シンプル~作品は見る人によってできあがる」というテーマで、3点の油彩の抽象画と1点の焼き物を選びました。大阪の戦後現代美術を代表する具体美術協会のリーダー吉原治良とその弟子の上前智祐、それとほぼ同世代の津高和一のそれぞれ幅約1m半から2mの大作を、3面の壁面にひとつずつ掛けました。ただ、それだけではなんとなく物足りないかなと感じ、悩みに悩んで、現代丹波焼の清水千代市の壺を、句読点を打つように置き、まさにシンプルに仕上げました。
他の4人の市民キュレーターの方々は、それぞれ8点から23点と多数の作品をテーマ性豊かに構成し、それぞれの個性が対比的に際立った展覧会となりました。展覧会全体のタイトルは5人でアイデアを出し合って、「あなたをうつす5つの鏡」と決めました。
展覧会を作ることは、ある意味で自己表現です。自分が伝えたい内容を良く練り上げることが最も重要ですが、いかに伝えるかということに腐心することも同じぐらい大切だと感じました。そのためには、様々なことに神経を配ることが必要です。例えば、告知フライヤーや、会場の説明パネルの文章、ハンドアウトなどにも、見やすさや読みやすさといった工夫が求められます。
一方、作品レイアウトも重要な表現要素です。そこで、50分の1の縮尺のマケットを作成しながら検討しました。もちろん、作品の搬入から搬出までの安全などにも細心の注意を払わなくてはなりません。それだけに、選んだ作品との対面は感激もひとしおです。私は大きな作品を選んだこともあり、その迫力と重量感に圧倒されました(特に上前智祐の作品は文字どおり重い!)。
フライヤーのデザインは専門の方に依頼しましたが、それぞれのテーマの趣旨文や説明パネル、ハンドアウトの文章は、市民キュレーターが練りに練って書きます。美術館の学芸員さんの苦労と楽しさが少しわかったような気がしました。また、私の場合で言えば、1970年代の大阪の現代アートシーンを勉強する良いきっかけともなりました。
それに最も重要なことは、一般市民がこういう形で郷土の美術コレクションと関わることは、開かれた美術館、市民とのコミュニティの強化、醸成といった面でも今後ますます大切になる取り組みだということです。
今回のような実物のコレクションを使った一般市民向けのワークショップは、全国的にもほとんどないように思います。同様の取り組みが全国のあちこちに広がれば、その地域のシビックプライドを醸成するという意味においても美術館の新しい役割になるのではないでしょうか。それと同時に、美術館とは(特に公立美術館とは)市民にとって何なのか、そのコレクションを本当に市民のものと感じるためにはどうしたら良いかを考える良い契機になると思いました。
最後にこの場をお借りして、大変お世話になった学芸員等の方々、ご来場の府市民の皆様に厚く御礼申し上げます。
「市民キュレーターワークショップ」サイト
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000332018.html
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000024032.html

2010年2級、2015年1級取得。1956年東京生まれ、1979年某美術専門学校卒(当時の恩師の一人は「もの派」の方)。1984年宣伝会議コピーライター講座卒。職業は美術とは全く関係なく、転勤族で現在大阪市在住。定年が近づく中、アートマネジメント講座に参加したり、Webで発信したり、まれに公募展に出品したりしています。アートは日展系から現代アートまで、美術の多様性を大切にして鑑賞しています。
《個人のSNS一覧》
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http://www.facebook.com/yuhji.mutoh
http://loplop-eggs.blogspot.jp/
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