「美術検定ナイト~語る、伝える、作ることで学ぶ美術の歴史〜」レポート・前篇
アートナビゲーターの山本ゆうじです。2012年に「美術史学習にITツールはこう使おう!」、2013年に「アート感想文のテクニックと記述問題攻略法」で書かせていただいてからずいぶん久しぶりです。
今回は、2016年9月1日に行われた「美術検定ナイト~語る、伝える、作ることで学ぶ美術の歴史〜」のレポートを、2回に分けてお届けします。
今回は、2016年9月1日に行われた「美術検定ナイト~語る、伝える、作ることで学ぶ美術の歴史〜」のレポートを、2回に分けてお届けします。
ユニークな会場 ブックカフェ6次元
会場は荻窪駅近くの、ランプや村上春樹作品の並ぶ本棚が知的な雰囲気を醸し出すブックカフェ「6次元」。アートや文学に関係するさまざまなイベントをされており、新聞記事などでも紹介されています。
「美術検定ナイト」には、35名ほどの方が参加されました。

「美術検定ナイト」の会場となった6次元
今回は、「アートを語る」東孝彦さん、「アートを伝える」Tak(中村剛士)さん、「アートを作る」三杉レンジさんという3つの立場のパネリストにお話しいただきました。司会は、「美術検定」実行委員会事務局の高橋紀子さんです。
「アートを語る」 アートナビゲーター東孝彦さん
まずはパネリストの自己紹介から。「アートを語る」東孝彦さんは、美術ボランティアです。2008年に美術検定1級を取得されました。東京都現代美術館コレクション展、東京都写真美術館ワークショップでボランティアをされました。またアートフェア東京やキヤノン・ミュージアム・キャンパスでガイドをされたほか、画廊の夜会、アフタヌーン・ギャラリーズでのツアーガイドや、あいちトリエンナーレでもツアコンを予定されているとのこと。この他にも多数活動されていますが、東さんは基本的には、美術館来館者の方と直接、対話をされるお立場です。
東さんは、美術館でのツアーの方法を以下のように分類されています。
1. 作品や作家の情報を伝える
2. 参加者の言葉を時折たずねる
3. 参加者の発言をメインに必要に応じて情報を伝える
4. 情報は一切伝えず参加者の発言をつなげる
東さんご自身は3番目の方法が好きだそうです。

「アートを語る」東さん。
「アートを伝える」 アートブロガーTak(中村剛士)さん
アートブロガーTak(中村剛士)さんは、「弐代目・青い日記帳」という美術館ブログを2004年から12年にわたって毎日書かれています。美術館や美術関係者に注目され、『美術展の手帖』(小学館)という書籍も出版されています。これまで3000以上の展覧会を鑑賞されたそうです。美術鑑賞をはじめたきっかけは大学生時代、先生から東京は芸術鑑賞に適した場所だと言われて刺激され、国立西洋美術館を訪れたこと。当初は先入観を持たず、とにかくあらゆる展覧会を見ようと決めていたそうです。まんべんなく見るのがポリシーとのことですが、最初は日本美術には興味がなかったそうです(私も美術検定で日本美術について学ぶまでそうでした)。Takさんが日本美術に関心を持ったのは、展覧会を見る中で古田織部、浮世絵や伊万里焼などの西洋への影響を面白く感じたのがきっかけだそうです。ブログを拝見すると分かりやすい言葉で書かれてはいますが、それでも「やさしく書きすぎると読者は読まない」とのこと。読者は、やはりなにか新しい情報を期待して読むようです。

「アートを伝える」Tak(中村剛士)さんと、ブログ「弐代目・青い日記帳」。
「アートを作る」 アーティスト三杉レンジさん
三杉レンジさんは、絵画教室ルカノーズ主宰。池袋コミュニティカレッジでも教えられています。以前は中学・高校でも美術教師をされていました。テレビドラマで使われる絵を描かれることもあります。最近では、東日本大震災の仮設住宅に住む被災者の方に仏像を描いてもらう「千人仏プロジェクト」に関わられています。これは東京表具経師内装文化協会の協力で掛け軸になりました。

「アートを作る」三杉レンジさんと、「千人仏プロジェクト」の展示風景。
「アートを分かりやすく説明する」こと15年。私は、翻訳者としての仕事がら日本語を分かりやすく書くということに関心があるので、言葉の話かと思ったのですが、なんと「美術史の進化を折り紙で説明する」ということをされていました。ピカソ、セザンヌなどの作品を、鶴、リンゴ、カブトなどの折り紙で表現することで、美術史を学ぶユニークな試みです。アーティストが「描線や遠近法をあえて壊して表現する」ことも折り紙で再現しています。アートで、昔、流行ったテーマや画風が復活することも、一見同じに見える折り紙を繰り返すことで表せます。たとえば、ずっと見ているとちょっと退屈に思われた古典的な画風も、適切な時期に改めて見ると新鮮に感じられます。この折り紙のコレクション自体がアートになっています。また、三杉さんは、参加者が年表に美術作品の図版を貼っていき、自ら美術史の年表を完成させることで美術の歴史を学ぶ、という試みもされているそうです。自分で手を動かして作るとよく覚えられそうですね。「最近の美大生は美術史を知らない」とのことですが、確かに美術史全体をみっちり学べるのは美術検定のほうだと同感です。食わず嫌いせずにまんべんなく知ることで初めて見えてくること、親しみのなかった種類のアートとの出会いがありそうです。

アートの進化を折り紙で表現した作品と、自らの手で完成させる美術史年表。
次回はいよいよトークセッションの内容をご紹介します。
プロフィール
秋桜舎代表。言語・翻訳コンサルタントとして企業向けに翻訳・日本語・英語を指導し、240件の記事執筆を手がける。著書に『IT時代の実務日本語スタイルブック』(ベレ出版、2012年)。2010年に1級を取得しアートナビゲーターへ。「アート エクスプローラー『美術館に行こう!』」https://www.facebook.com/binobouken、モダン「いき」プロジェクトhttp://iki.cosmoshouse.comも主宰。
会場は荻窪駅近くの、ランプや村上春樹作品の並ぶ本棚が知的な雰囲気を醸し出すブックカフェ「6次元」。アートや文学に関係するさまざまなイベントをされており、新聞記事などでも紹介されています。
「美術検定ナイト」には、35名ほどの方が参加されました。

「美術検定ナイト」の会場となった6次元
今回は、「アートを語る」東孝彦さん、「アートを伝える」Tak(中村剛士)さん、「アートを作る」三杉レンジさんという3つの立場のパネリストにお話しいただきました。司会は、「美術検定」実行委員会事務局の高橋紀子さんです。
「アートを語る」 アートナビゲーター東孝彦さん
まずはパネリストの自己紹介から。「アートを語る」東孝彦さんは、美術ボランティアです。2008年に美術検定1級を取得されました。東京都現代美術館コレクション展、東京都写真美術館ワークショップでボランティアをされました。またアートフェア東京やキヤノン・ミュージアム・キャンパスでガイドをされたほか、画廊の夜会、アフタヌーン・ギャラリーズでのツアーガイドや、あいちトリエンナーレでもツアコンを予定されているとのこと。この他にも多数活動されていますが、東さんは基本的には、美術館来館者の方と直接、対話をされるお立場です。
東さんは、美術館でのツアーの方法を以下のように分類されています。
1. 作品や作家の情報を伝える
2. 参加者の言葉を時折たずねる
3. 参加者の発言をメインに必要に応じて情報を伝える
4. 情報は一切伝えず参加者の発言をつなげる
東さんご自身は3番目の方法が好きだそうです。


「アートを語る」東さん。
「アートを伝える」 アートブロガーTak(中村剛士)さん
アートブロガーTak(中村剛士)さんは、「弐代目・青い日記帳」という美術館ブログを2004年から12年にわたって毎日書かれています。美術館や美術関係者に注目され、『美術展の手帖』(小学館)という書籍も出版されています。これまで3000以上の展覧会を鑑賞されたそうです。美術鑑賞をはじめたきっかけは大学生時代、先生から東京は芸術鑑賞に適した場所だと言われて刺激され、国立西洋美術館を訪れたこと。当初は先入観を持たず、とにかくあらゆる展覧会を見ようと決めていたそうです。まんべんなく見るのがポリシーとのことですが、最初は日本美術には興味がなかったそうです(私も美術検定で日本美術について学ぶまでそうでした)。Takさんが日本美術に関心を持ったのは、展覧会を見る中で古田織部、浮世絵や伊万里焼などの西洋への影響を面白く感じたのがきっかけだそうです。ブログを拝見すると分かりやすい言葉で書かれてはいますが、それでも「やさしく書きすぎると読者は読まない」とのこと。読者は、やはりなにか新しい情報を期待して読むようです。


「アートを伝える」Tak(中村剛士)さんと、ブログ「弐代目・青い日記帳」。
「アートを作る」 アーティスト三杉レンジさん
三杉レンジさんは、絵画教室ルカノーズ主宰。池袋コミュニティカレッジでも教えられています。以前は中学・高校でも美術教師をされていました。テレビドラマで使われる絵を描かれることもあります。最近では、東日本大震災の仮設住宅に住む被災者の方に仏像を描いてもらう「千人仏プロジェクト」に関わられています。これは東京表具経師内装文化協会の協力で掛け軸になりました。


「アートを作る」三杉レンジさんと、「千人仏プロジェクト」の展示風景。
「アートを分かりやすく説明する」こと15年。私は、翻訳者としての仕事がら日本語を分かりやすく書くということに関心があるので、言葉の話かと思ったのですが、なんと「美術史の進化を折り紙で説明する」ということをされていました。ピカソ、セザンヌなどの作品を、鶴、リンゴ、カブトなどの折り紙で表現することで、美術史を学ぶユニークな試みです。アーティストが「描線や遠近法をあえて壊して表現する」ことも折り紙で再現しています。アートで、昔、流行ったテーマや画風が復活することも、一見同じに見える折り紙を繰り返すことで表せます。たとえば、ずっと見ているとちょっと退屈に思われた古典的な画風も、適切な時期に改めて見ると新鮮に感じられます。この折り紙のコレクション自体がアートになっています。また、三杉さんは、参加者が年表に美術作品の図版を貼っていき、自ら美術史の年表を完成させることで美術の歴史を学ぶ、という試みもされているそうです。自分で手を動かして作るとよく覚えられそうですね。「最近の美大生は美術史を知らない」とのことですが、確かに美術史全体をみっちり学べるのは美術検定のほうだと同感です。食わず嫌いせずにまんべんなく知ることで初めて見えてくること、親しみのなかった種類のアートとの出会いがありそうです。


アートの進化を折り紙で表現した作品と、自らの手で完成させる美術史年表。
次回はいよいよトークセッションの内容をご紹介します。

秋桜舎代表。言語・翻訳コンサルタントとして企業向けに翻訳・日本語・英語を指導し、240件の記事執筆を手がける。著書に『IT時代の実務日本語スタイルブック』(ベレ出版、2012年)。2010年に1級を取得しアートナビゲーターへ。「アート エクスプローラー『美術館に行こう!』」https://www.facebook.com/binobouken、モダン「いき」プロジェクトhttp://iki.cosmoshouse.comも主宰。
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