JR紀勢線串本駅で下車し、駅前の道を1kmほど南下した市街地の中に、
無量寺という小さな禅寺があります。その無量寺の敷地内、寺の門をくぐると右手に串本応挙芦雪館が現れます。ここに江戸時代の画家、円山応挙とその弟子長沢芦雪らの力作が収蔵展示されています。
無量寺の門と串本応挙芦雪館の入口もとの無量寺は津波で流されたのですが、天明6年(1786年)に再建されました。その時の住職である愚海和尚と、京都時代に友人であった円山応挙が、新築祝いのため本堂を飾る障壁画12面などを描き、弟子の長沢芦雪に託しました。師匠の障壁画を携えて串本にやってきた芦雪も、無量寺で腕をふるうことになりました。彼は付近の寺や旧家のため、約270点もの作品をわずか1年未満の間に描き上げたのです。
この無量寺における代表的な展示作品としては、なんといっても重要文化財の長沢芦雪「龍虎図」です。本堂室中の間の西は「虎」、東側は「龍」で描かれています。襖3面いっぱいに獲物をねらう虎の姿勢を豪快一気、のびのびと描いた作品ですが、虎の表情にはむしろ愛くるしさを感じます。印章は芦雪の朱文「魚」。「虎図」は、水中の魚の目からみた虎だともいわれています。本堂の展示はデジタル再生画で、撮影も可能です。
本堂に展示されたデジタル再生画の「龍虎図」これらの原画は同じ境内の収蔵庫に収蔵展示されており、雨天時は展示しないなど厳重に管理されています。なお収蔵庫では、本堂の畳に座って鑑賞する時の視点の高さにあわせて鑑賞できるように工夫されています。
「龍虎図」をはじめとした所蔵品の原画が展示されている収蔵庫本堂には他に、応挙の「波上群仙図」や「山水図」、芦雪の「薔薇図」、「唐子遊図」、「群鶴図」のデジタル再生画が展示されており、撮影可能です。「波上群仙図」は、波の上に孔子や老子などが描かれた奇抜な図柄です。「薔薇図」は、一見どこに薔薇があるのかわかりにくいのですが、私たちが日ごろ見慣れている西洋の薔薇ではなく、日本古来の長く伸びた枝にトゲのある小木の野薔薇が描かれているのを発見できます。「唐子遊図」には、寺子屋で子供たちが無邪気に遊んでいる様子が描かれていて、可愛らしい子犬とともに温かい雰囲気を味わうことができます。
これらの作品も収蔵庫に原画が保管展示されていますが、収蔵庫で私の一押しの作品は芦雪の「猿廻し図」です。もともと一枚の絵でしたが、現在は衝立に表装されています。表には困り顔の猿廻し、これだけ見て立ち去らずに是非とも裏にまわって裏絵を見て下さいね。楽しい演出がみられます。
そして本館にも、力強い筆致で有名な白隠慧鶴の「大燈国師像」や「達磨像」など、多数の作品が収蔵展示されています。なんといっても、息がかかるぐらいに近接して鑑賞できるのが、串本応挙芦雪館の素晴らしいところだと思います。
交通不便な田舎の町ですが、是非皆様にも訪れて頂きたいと思います。暖かい紀州の地が、皆様のお越しをお待ちしております。
■串本応挙芦雪館〒649-3503 和歌山県東牟婁郡串本町串本833
年中無休 9:30~16:30(ただし展示替えその他の都合により臨時休館があります)
Tel.0735-62-6670 Fax.0735-62-6670
Email.info@muryoji.jp
URL.
http://www.muryoji.jp
プロフィール/和歌山県串本町を中心に、地域おこしのためのキャラクター作り、その他デザインやヒトコマ漫画を趣味的にやっております。美術検定は、美術鑑賞や美術史が好きで美術関係のテレビ番組もよく見ていたので、自然に受験しようと思いました。
勉強方法は、特に1級対策はとにかく美術関連書籍を読みまくりました。楽しく勉強したかったので、市販の平明な美術関係の紹介書や入門書を何種類も何度も読むことで、知識が身に付きました。学問に王道なしです。