アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「宮川香山眞葛ミュージアム」
2010年にできたこの新しいミュージアムは、管理・運営をしている横浜の老舗洋菓子販売店の社長さんが個人的に収集したコレクションを、社会貢献事業の一環として公開しています。
横浜で生まれながら、一度は世界に散逸してしまった「マクズ ウエア」と呼ばれる初代宮川香山の作品が、大型の花瓶を中心に香炉や水盤など、初期から遺作まで展示されています。
宮川香山(みやがわこうざん・初代)は、19世紀中ごろに京都で生まれた陶工で、30歳を前に横浜移り住みました。「高浮彫(たかうきぼり)」と呼ばれる精緻な技法を極めるために、お庭で鷹や熊などの動物を飼ったとか!35歳の時にフィラデルフィア万国博覧会に出品した作品がきっかけで、その名が世界に知られることとなりました。
横浜駅から徒歩8分、商業施設と連結通路を通れば雨の日でもほとんど濡れずに到着できますし、車利用の場合でも地下駐車場を利用できます。港を近くに感じながらミュージアムへ向かう道は、横浜は海外から文化を取り入れるばかりでなく、海外へ文化を発信する街でもあったのだなぁと思い起こさせるものとなっています。

ミュージアムへ向かう橋からは横浜港が一望できる
入口は商業施設の1階にあり、宮川香山作品の写真が目に入ります。敷地面積がほぼ50㎡という小さな美術館内には、どんな世界が広がっているでしょう。

商業施設の一角にある宮川香山眞葛ミュージアム
さて皆さん、宮川香山の作品が「幻のやきもの」と呼ばれているのをご存知ですか?
なぜ「まぼろし」なのか。
もともとは京都で生まれた真葛焼を、初代宮川香山が外国人向けに横浜で始めたのが明治4年。
この時代、宮川のすばらしい作品は海外で大人気、みな外国人が購入し海外へ渡ってしまったため、ほとんど日本に残っていませんでした。さらに戦争で後継者を失ったため、その美を目にする機会がなくなってしまいました。
このミュージアムにある作品も、90%ほどが海外から里帰りさせたものだとか。
その「まぼろし」といわれる作品、いよいよ本物に会いに中に進みたいのですが、受付のすぐ脇に一抱えもある大きな花瓶が対で置いてあり、この段階でついついじっくり鑑賞してしまい、なかなか展示室へ入れません。
宮川香山の眞葛焼、特に高浮彫は現代でも製法が完全には判明しておらず3度も焼きを入れたといわれていますが、それに耐えた鳥の薄い翼、人の小指の先ほどの小さなくちばしの中の舌までも欠けずに彩色まで施されていることに、目を奪われてその場を離れがたい気持ちになります。
それでもゆっくり中へ進んでいよいよ多くの作品に相対すると…
宮川作品の魅力のうちのひとつ、その「精緻なリアリティ」にただただ圧倒されます。
作品の裏側も見られるよう、背後の壁に鏡を配された状態で約70点ほど並んだ作品は、あるものは柔らかく、かと思えば吸い込まれそうな力強さ、ときにユーモアにあふれ…その表現の豊かさと物語性に、作家の人柄へも想像が膨らみます。
歩みを進め、掌に収まるサイズの香炉や小さな置物が展示されたコーナーから右へ目を転じれば、靴を脱いで上がれる常設の畳の間、和室スペースがあります。そこでは、おそらくこうして持ち主は見たはずであったろうという趣で、優しい柔らかな表現の花瓶を間近にみることができます。宮川香山の代名詞ともいえる高浮き彫りではありませんが、細かな描写はやはり圧巻です。また、珍しい水墨画の展示(「大黒天ニ茶碗の画」)もあります。お椀の絵である大黒様の打ち出の小槌が茶碗から出てきてしまったという画です。
さらに奥へ進めば、暗い展示室に、いよいよ高浮き彫りの作品がたくさん並んでいます。
多くが花瓶ですが、もはや小宇宙の趣。滝が流れる下流ではクマの親子がじゃれ遊び(「崖に鷹大花瓶」)、桜が咲き誇って(「高浮彫桜二群鳩花瓶一対」)います。動かないのが不思議なくらい…。
暗い展示室内でスポットライトの当たった作品と向き合い、静かな興奮と感嘆に包まれながら鑑賞を堪能したら出口へ。自分で引き戸を開いて展示室から出ると、明るい日曜日の日差しに照らされました。
ミュージアムのHPでも、作品の一部を写真で鑑賞することができます。
http://kozan-makuzu.com/gallery.html
しかしながら、美術館に足を運んで本物の作品に対峙することは、とても濃厚で楽しい時間旅行のようなものです。
画集やHPなどから、作品の大きさや高精度の画像を「情報」として得られますが、作品を見上げる、のぞき込む、ありとあらゆる角度から自分自身の体感として鑑賞すると、制作時の作家の気持ちに思いを馳せずにはいられません。作家がその目で作品を見、その手で触れ、思いが体現できた時の笑みまでも想像でき、まさにその場所へ移動してしまったように感じられますよ。
現在は「初代宮川香山 技と美の饗宴」展を開催中です。
没後101年目となる今年、ぜひ作品の世界観を堪能してくださいね。
■宮川香山 眞葛ミュージアム
〒221-0052 神奈川県横浜市神奈川区栄町6-1 ヨコハマポートサイド ロア参番館1F-2
土曜日、日曜日のみ開館 (但し、年末年始など休館あります)
開館時間 10:00~16:00
入館料:大人 500円 、中・高校生 200円 、小学生以下 無料
Tel.045-534-6853
URL:http://kozan-makuzu.com/
プロフィール/アート鑑賞は好きでも、なかなか美術館へ足を運べないでいた2010年、ふと目にした「美術検定」の文字に「何かが変わるかも」と引き寄せられるように受験、2011年に1級合格。まずは自分の周りから美術ファンを増殖させるべく、「横浜トリエンナーレ」のサポーター、中学校の美術部外部講師もしました。
「美術検定」受験に際し、問題集・参考書、ネット上の美術関連の記事、テレビ各局で放送されている美術関連の番組をたくさん見ました。録画して繰り返し見ることが、多くの作品、作家、キーワード、歴史などの関連付けに役立ちました。
横浜で生まれながら、一度は世界に散逸してしまった「マクズ ウエア」と呼ばれる初代宮川香山の作品が、大型の花瓶を中心に香炉や水盤など、初期から遺作まで展示されています。
宮川香山(みやがわこうざん・初代)は、19世紀中ごろに京都で生まれた陶工で、30歳を前に横浜移り住みました。「高浮彫(たかうきぼり)」と呼ばれる精緻な技法を極めるために、お庭で鷹や熊などの動物を飼ったとか!35歳の時にフィラデルフィア万国博覧会に出品した作品がきっかけで、その名が世界に知られることとなりました。
横浜駅から徒歩8分、商業施設と連結通路を通れば雨の日でもほとんど濡れずに到着できますし、車利用の場合でも地下駐車場を利用できます。港を近くに感じながらミュージアムへ向かう道は、横浜は海外から文化を取り入れるばかりでなく、海外へ文化を発信する街でもあったのだなぁと思い起こさせるものとなっています。

ミュージアムへ向かう橋からは横浜港が一望できる
入口は商業施設の1階にあり、宮川香山作品の写真が目に入ります。敷地面積がほぼ50㎡という小さな美術館内には、どんな世界が広がっているでしょう。

商業施設の一角にある宮川香山眞葛ミュージアム
さて皆さん、宮川香山の作品が「幻のやきもの」と呼ばれているのをご存知ですか?
なぜ「まぼろし」なのか。
もともとは京都で生まれた真葛焼を、初代宮川香山が外国人向けに横浜で始めたのが明治4年。
この時代、宮川のすばらしい作品は海外で大人気、みな外国人が購入し海外へ渡ってしまったため、ほとんど日本に残っていませんでした。さらに戦争で後継者を失ったため、その美を目にする機会がなくなってしまいました。
このミュージアムにある作品も、90%ほどが海外から里帰りさせたものだとか。
その「まぼろし」といわれる作品、いよいよ本物に会いに中に進みたいのですが、受付のすぐ脇に一抱えもある大きな花瓶が対で置いてあり、この段階でついついじっくり鑑賞してしまい、なかなか展示室へ入れません。
宮川香山の眞葛焼、特に高浮彫は現代でも製法が完全には判明しておらず3度も焼きを入れたといわれていますが、それに耐えた鳥の薄い翼、人の小指の先ほどの小さなくちばしの中の舌までも欠けずに彩色まで施されていることに、目を奪われてその場を離れがたい気持ちになります。
それでもゆっくり中へ進んでいよいよ多くの作品に相対すると…
宮川作品の魅力のうちのひとつ、その「精緻なリアリティ」にただただ圧倒されます。
作品の裏側も見られるよう、背後の壁に鏡を配された状態で約70点ほど並んだ作品は、あるものは柔らかく、かと思えば吸い込まれそうな力強さ、ときにユーモアにあふれ…その表現の豊かさと物語性に、作家の人柄へも想像が膨らみます。
歩みを進め、掌に収まるサイズの香炉や小さな置物が展示されたコーナーから右へ目を転じれば、靴を脱いで上がれる常設の畳の間、和室スペースがあります。そこでは、おそらくこうして持ち主は見たはずであったろうという趣で、優しい柔らかな表現の花瓶を間近にみることができます。宮川香山の代名詞ともいえる高浮き彫りではありませんが、細かな描写はやはり圧巻です。また、珍しい水墨画の展示(「大黒天ニ茶碗の画」)もあります。お椀の絵である大黒様の打ち出の小槌が茶碗から出てきてしまったという画です。
さらに奥へ進めば、暗い展示室に、いよいよ高浮き彫りの作品がたくさん並んでいます。
多くが花瓶ですが、もはや小宇宙の趣。滝が流れる下流ではクマの親子がじゃれ遊び(「崖に鷹大花瓶」)、桜が咲き誇って(「高浮彫桜二群鳩花瓶一対」)います。動かないのが不思議なくらい…。
暗い展示室内でスポットライトの当たった作品と向き合い、静かな興奮と感嘆に包まれながら鑑賞を堪能したら出口へ。自分で引き戸を開いて展示室から出ると、明るい日曜日の日差しに照らされました。
ミュージアムのHPでも、作品の一部を写真で鑑賞することができます。
http://kozan-makuzu.com/gallery.html
しかしながら、美術館に足を運んで本物の作品に対峙することは、とても濃厚で楽しい時間旅行のようなものです。
画集やHPなどから、作品の大きさや高精度の画像を「情報」として得られますが、作品を見上げる、のぞき込む、ありとあらゆる角度から自分自身の体感として鑑賞すると、制作時の作家の気持ちに思いを馳せずにはいられません。作家がその目で作品を見、その手で触れ、思いが体現できた時の笑みまでも想像でき、まさにその場所へ移動してしまったように感じられますよ。
現在は「初代宮川香山 技と美の饗宴」展を開催中です。
没後101年目となる今年、ぜひ作品の世界観を堪能してくださいね。
■宮川香山 眞葛ミュージアム
〒221-0052 神奈川県横浜市神奈川区栄町6-1 ヨコハマポートサイド ロア参番館1F-2
土曜日、日曜日のみ開館 (但し、年末年始など休館あります)
開館時間 10:00~16:00
入館料:大人 500円 、中・高校生 200円 、小学生以下 無料
Tel.045-534-6853
URL:http://kozan-makuzu.com/

「美術検定」受験に際し、問題集・参考書、ネット上の美術関連の記事、テレビ各局で放送されている美術関連の番組をたくさん見ました。録画して繰り返し見ることが、多くの作品、作家、キーワード、歴史などの関連付けに役立ちました。
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