アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「島根県芸術文化センター グラントワ」
山口県周南市のNodezaroです。2018年のアートナビゲーター・美術館コレクションレポート第一弾は、地元をちょっと飛び出して、お隣の島根県は益田市の「島根県芸術文化センター グラントワ」にお邪魔しました。
2005年に開館した「島根県芸術文化センター グラントワ」は、島根県立石見美術館と島根県立いわみ芸術劇場が一体となった文化複合施設です。建物の設計は、安曇野ちひろ美術館などで有名な建築家・内藤廣が手がけました。回廊に囲われた正方形の水盤を持つ静謐な中庭を取り巻いて建ち並ぶ美術館、ホールなどは、屋根が地元特産の石州瓦12万枚で葺かれただけでなく、壁全面も石州瓦16万枚で覆われ、離れて見ると甍の連なる巨大な家並みのようにも見える、独特の景観を創り出しています。

28万枚の石州瓦が創り出すどこか懐かしい景観
伺った日は、美術館でちょうど企画展「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」(2018年2月5日まで開催)の会期中で、出品者である濱中利信氏のスペシャルギャラリートークが行われていました。そんなお忙しい中、学芸課長の南目氏と総務広報課広報グループリーダーの志田尾氏にお話を伺いました。

(上)スペシャルギャラリートーク中の濱中氏(左)と進行の南目学芸課長(右)
(下)総務広報課広報グループリーダーの志田尾氏。壁には過去に開催された展覧会ポスターが
日本を代表する彫刻家の澄川喜一氏は、島根県出身の縁で文化施設の構想検討委員会に1990年代から関わり、そのまま請われて現在もセンター長を務めていらっしゃいますが、構想当初から思いのほか市民の美術館への思いが熱かったことを知り、感銘を受けたそうです。南目氏のお話では、「それほど市民の美術館を望む気持ちは熱く、現在も10ある市民のボランティアグループは、館内に華やかな生花を飾るなど、それぞれ熱心に活動されている」とのこと。グラントワの随所に、市民ボランティアのサポートによる形跡が伺えます。
作品収集については、2000年に策定された芸術文化センターの整備基本計画の中で、3つの重点領域を持つ収集方針が定められてから始まったそうです。以前から気になっていた、藤田嗣治の100号を超える油絵『アントワープ 港の眺め』、それに黒田清輝の師匠で外光派の画家ラファエル・コランの油絵『若い女性の肖像』も収集しています。
藤田嗣治やラファエル・コランの収集は、美術館の重点領域の1つ、“森鷗外ゆかりの美術家の作品”に基づいています。森鷗外は、文展の審査員も務めた明治美術界の重鎮でもある原田直次郎との交流が有名ですが、鷗外ゆかりの作家を収集すれば、そのまま日本近代洋画史を総覧するコレクションが完成してしまうという、目の付け所が鋭いですね。優秀な学芸員の方々の素晴らしいお仕事が光ります。
2つ目の重点領域の“石見の美術”を代表するのが、2017年に開催され入館者1万人を超えた展覧会「石見の戦国武将」。益田は十三湊などと並んで中世に栄え、その遺構が良く残った街であり、『益田家文書』という中世の第一級の文書資料も残っています。晩年を過ごした山口が近いことから、雪舟とも深いゆかりがあります。
3つ目の重点領域は“ファッション”で、これは島根県出身の森英恵氏とのゆかりによるものです。服飾史のコレクション、ポワレ、フォルチュニィ、ヴィオネ、グレ、ディオール、バレンシアガ、サン=ローラン、クレージュをはじめ、「ガゼット・デュ・ボン・トン」の高級ファッション雑誌など、華麗なコレクションがあります。

開館10周年には森英恵氏がアテンダントの制服デザインを手がけた(右側が採用されたもの)
更にこのテーマから展開されたユニークな企画展の数々、例えば「HANAE MORI HAUTE COUTURE森英恵 仕事とスタイル」展、「アメリカの見た夢」展、「こどもとファッション」展、そして当時の風俗をそのまま取り入れた日本画が衝撃的だった「モダンガールズあらわる。昭和初期の美人画展」。他にも、青森県美術館、静岡県立美術館に巡回した「美少女の美術史」展も話題を呼びました。「これらのコレクションと企画展の数々は、“ザ・美術館”というべき宍道湖の畔の島根県立美術館と鋭い対照を示すグラントワの特徴でしょう。」
島根県立石見美術館は、市民ボランティアに支えられ、オリジナルで好奇心をそそられる企画展が充実した、まさにこれからの美術館に求められる美術館を体現しています。地元、近県の方はもちろん、グラントワから約6kmの萩・石見空港までは東京(羽田)から約1時間30分とアクセスもよいので、遠方の方も今後の企画展をぜひお見逃しなく。
美術館スタッフの南目様、志田尾様、ありがとうございました。今後もワクワクさせられる企画展を期待しています。
■島根県芸術文化センター グラントワ
〒698-0022 島根県益田市有明町5-15
開館時間 8:45~22:00 (島根県芸術文化センター「グラントワ」)
10:00~18:30(展示室への入場は18:00まで) (石見美術館)
9:00~22:00 (いわみ芸術劇場)
休館日 毎月第2火曜日および第4火曜日(美術館は毎週火曜)、年末年始
TEL(グラントワ代表) 0856-31-1860 FAX 0856-31-1884
URL: http://www.grandtoit.jp/
プロフィール/出身地の山口県周南市で美術とはほぼ無縁の公務員をしてる50過ぎのおじさんです。学生の頃は、美術部で油絵描いてました。100号とか描いたこともあります。日本の美術教育の賜物で、美術鑑賞に関心が移るのはようやく社会人になってから、美術検定もその里程標として受けてみました。2010年、2度目の受験で美術検定1級取得、その後の7年間、自分も含め”アート”を取り巻く世の中の環境は随分変わったなー、と感じます。かく言う爺も@Nodezaroでインスタグラムなんてものもやってますので、ご興味のある方、是非、覗いてみてください。

28万枚の石州瓦が創り出すどこか懐かしい景観
伺った日は、美術館でちょうど企画展「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」(2018年2月5日まで開催)の会期中で、出品者である濱中利信氏のスペシャルギャラリートークが行われていました。そんなお忙しい中、学芸課長の南目氏と総務広報課広報グループリーダーの志田尾氏にお話を伺いました。


(上)スペシャルギャラリートーク中の濱中氏(左)と進行の南目学芸課長(右)
(下)総務広報課広報グループリーダーの志田尾氏。壁には過去に開催された展覧会ポスターが
日本を代表する彫刻家の澄川喜一氏は、島根県出身の縁で文化施設の構想検討委員会に1990年代から関わり、そのまま請われて現在もセンター長を務めていらっしゃいますが、構想当初から思いのほか市民の美術館への思いが熱かったことを知り、感銘を受けたそうです。南目氏のお話では、「それほど市民の美術館を望む気持ちは熱く、現在も10ある市民のボランティアグループは、館内に華やかな生花を飾るなど、それぞれ熱心に活動されている」とのこと。グラントワの随所に、市民ボランティアのサポートによる形跡が伺えます。
作品収集については、2000年に策定された芸術文化センターの整備基本計画の中で、3つの重点領域を持つ収集方針が定められてから始まったそうです。以前から気になっていた、藤田嗣治の100号を超える油絵『アントワープ 港の眺め』、それに黒田清輝の師匠で外光派の画家ラファエル・コランの油絵『若い女性の肖像』も収集しています。
藤田嗣治やラファエル・コランの収集は、美術館の重点領域の1つ、“森鷗外ゆかりの美術家の作品”に基づいています。森鷗外は、文展の審査員も務めた明治美術界の重鎮でもある原田直次郎との交流が有名ですが、鷗外ゆかりの作家を収集すれば、そのまま日本近代洋画史を総覧するコレクションが完成してしまうという、目の付け所が鋭いですね。優秀な学芸員の方々の素晴らしいお仕事が光ります。
2つ目の重点領域の“石見の美術”を代表するのが、2017年に開催され入館者1万人を超えた展覧会「石見の戦国武将」。益田は十三湊などと並んで中世に栄え、その遺構が良く残った街であり、『益田家文書』という中世の第一級の文書資料も残っています。晩年を過ごした山口が近いことから、雪舟とも深いゆかりがあります。
3つ目の重点領域は“ファッション”で、これは島根県出身の森英恵氏とのゆかりによるものです。服飾史のコレクション、ポワレ、フォルチュニィ、ヴィオネ、グレ、ディオール、バレンシアガ、サン=ローラン、クレージュをはじめ、「ガゼット・デュ・ボン・トン」の高級ファッション雑誌など、華麗なコレクションがあります。

開館10周年には森英恵氏がアテンダントの制服デザインを手がけた(右側が採用されたもの)
更にこのテーマから展開されたユニークな企画展の数々、例えば「HANAE MORI HAUTE COUTURE森英恵 仕事とスタイル」展、「アメリカの見た夢」展、「こどもとファッション」展、そして当時の風俗をそのまま取り入れた日本画が衝撃的だった「モダンガールズあらわる。昭和初期の美人画展」。他にも、青森県美術館、静岡県立美術館に巡回した「美少女の美術史」展も話題を呼びました。「これらのコレクションと企画展の数々は、“ザ・美術館”というべき宍道湖の畔の島根県立美術館と鋭い対照を示すグラントワの特徴でしょう。」
島根県立石見美術館は、市民ボランティアに支えられ、オリジナルで好奇心をそそられる企画展が充実した、まさにこれからの美術館に求められる美術館を体現しています。地元、近県の方はもちろん、グラントワから約6kmの萩・石見空港までは東京(羽田)から約1時間30分とアクセスもよいので、遠方の方も今後の企画展をぜひお見逃しなく。
美術館スタッフの南目様、志田尾様、ありがとうございました。今後もワクワクさせられる企画展を期待しています。
■島根県芸術文化センター グラントワ
〒698-0022 島根県益田市有明町5-15
開館時間 8:45~22:00 (島根県芸術文化センター「グラントワ」)
10:00~18:30(展示室への入場は18:00まで) (石見美術館)
9:00~22:00 (いわみ芸術劇場)
休館日 毎月第2火曜日および第4火曜日(美術館は毎週火曜)、年末年始
TEL(グラントワ代表) 0856-31-1860 FAX 0856-31-1884
URL: http://www.grandtoit.jp/

| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 09:00 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑