アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「広島県立美術館」
広島県立美術館は、中四国地方で最初の公立美術館として、1968年に開館しました。1996年に現在の建物に建て替えられ、2018年の秋に開館50周年を迎えます。JR広島駅からほぼ1㎞、縮景園(広島浅野藩初代藩主によって作庭された大名庭園)に隣接する好立地にあります。

美術館の外観。館内からは隣接する縮景園の景色も楽しめる
美術館コレクションの収集方針として、“広島県ゆかりの美術”、“1920~1930年代の美術”、“日本及びアジアの工芸品”を掲げ、現在コレクションの総数は約5000点を数えます。国内の他館ではなかなか目にする事ができない、バウハウスで教鞭も執ったドイツ系アメリカ人の作家ライオネル・ファイニンガーや、ナチスドイツによって「退廃芸術」の烙印を押された作家アレクサンダー・カーノルトの作品をはじめ、質量共に国内外有数のコレクションとされる中央アジアのトルクメンジュエリー等々、特に近代絵画と工芸作品が充実しています。これらのコレクションを様々なテーマで捉え、年間4期に分けて所蔵作品展が開催されています。
今回は、一年を通して展示されています、サルバドール・ダリの《ヴィーナスの夢》、《伊万里柿右衛門様式色絵馬》をご紹介します。
サルバドール・ダリ 《ヴィーナスの夢》 1939年作
http://www.hpam.jp/musecom/sakuhin_shosai?action=load&id=3078
この作品は、1939年にニューヨーク万国博覧会において、ダリが手掛けたパビリオン「ヴィーナスの夢」の内部に、背景画として描かれた、縦2.4m、横4.8mの大きな作品です。ニューヨーク近代美術館が所蔵する、美術検定でもおなじみの《記憶の固執》が原型となっている画面には、柔らかい時計、群がる蟻、燃えるキリンなど、ダリの世界を特徴づけるモチーフが数多く登場しています。当時、この作品の前には、こうもり傘や長さ10mの巨大な赤いサテンのベッドや水槽などが置かれ、人魚に扮したダンサーが踊り、泳ぎ、半裸の女性がタイプライターを叩き…パビリオンの内部は、生身の人間を使ったインスタレーションとして構成されていました。美術館の展示室では、その時の様子を写した写真パネルが、キャプションに添えられています。ニューヨーク万国博覧会のただ中に第二次世界大戦が勃発しています。唯一残った"背景画"を前に、奇抜なダリの世界を味わい、同時に、不穏な時代の空気を感じ取ってみてはいかがでしょうか?
《伊万里柿右衛門様式色絵馬》 江戸時代作
http://www.hpam.jp/musecom/sakuhin_shosai?action=load&id=550
佐賀県有田町で17世紀後半に輸出用として作られ、300余年の歳月を経てフランスから里帰りした、柿右衛門様式と呼ばれる色絵磁器の優品です。どっしりとした重量感のある作品ですが、馬具の部分には鮮やかな色に加え、金泥も使われ、胴部の装飾には松葉文や唐草文があしらわれて、豪華な雰囲気に仕上がっています。注文主であった当時のヨーロッパの人達のセンスと、それに応えた陶工達の力量が、見事に発揮されている作品です。馬をモチーフにした伊万里焼は珍しく、世界で5体しか確認されていないそうです。広島県立美術館はその内の2体を所蔵しており、所蔵品の「顔」とも言える存在になっています。(※他の3体は栃木県足利市栗田美術館、パリのギメ美術館、アメリカのピーボディ・エセックス博物館がそれぞれ1体ずつ所蔵)
広島の市街地はとてもコンパクトながら、なんと美術館が3館もあります!広島県立美術館の他に、印象派を中心とした巨匠の作品を楽しめるひろしま美術館、第二次世界大戦以降の作品を展示する広島市現代美術館と、3館を巡ると近代以降の美術の流れを楽しむことができます。また、市内では美術館巡りに便利な市内循環バス「めいぷる~ぷ」も走っています。
カープだけじゃない、芸術の街・広島へも是非お越しください。
広島より郷土愛をこめて。
■広島県立美術館
〒730-0014 広島県広島市中区上幟町2-22
開館時間 9:00~17:00 (金曜日は19:00まで延長、但し4月から10月にかけては20:00まで 要確認)
休館日 月曜日・年末年始休館 ※特別展会期中、祝日、振替休日を除く
所蔵作品展入館料 一般:510円 大学生:310円 高校生以下:無料
Tel:082-221-6246 Fax:082-223-1444
http://www.hpam.jp/
プロフィール/広島市出身・在住のアートナビゲーター1期生です。2017年まで11年間、広島市現代美術館に“アートナビゲーター”として勤務し、特別展と所蔵作品展の解説をしていました。現在は、広島県立美術館で所蔵作品展のボランティアガイドをしています。何度か東京の美術館でもガイドをさせて頂き、その時の経験と、他のアートナビゲーターの方々とお知り合いになれた事が、大切な財産になっています。


美術館の外観。館内からは隣接する縮景園の景色も楽しめる
美術館コレクションの収集方針として、“広島県ゆかりの美術”、“1920~1930年代の美術”、“日本及びアジアの工芸品”を掲げ、現在コレクションの総数は約5000点を数えます。国内の他館ではなかなか目にする事ができない、バウハウスで教鞭も執ったドイツ系アメリカ人の作家ライオネル・ファイニンガーや、ナチスドイツによって「退廃芸術」の烙印を押された作家アレクサンダー・カーノルトの作品をはじめ、質量共に国内外有数のコレクションとされる中央アジアのトルクメンジュエリー等々、特に近代絵画と工芸作品が充実しています。これらのコレクションを様々なテーマで捉え、年間4期に分けて所蔵作品展が開催されています。
今回は、一年を通して展示されています、サルバドール・ダリの《ヴィーナスの夢》、《伊万里柿右衛門様式色絵馬》をご紹介します。
サルバドール・ダリ 《ヴィーナスの夢》 1939年作
http://www.hpam.jp/musecom/sakuhin_shosai?action=load&id=3078
この作品は、1939年にニューヨーク万国博覧会において、ダリが手掛けたパビリオン「ヴィーナスの夢」の内部に、背景画として描かれた、縦2.4m、横4.8mの大きな作品です。ニューヨーク近代美術館が所蔵する、美術検定でもおなじみの《記憶の固執》が原型となっている画面には、柔らかい時計、群がる蟻、燃えるキリンなど、ダリの世界を特徴づけるモチーフが数多く登場しています。当時、この作品の前には、こうもり傘や長さ10mの巨大な赤いサテンのベッドや水槽などが置かれ、人魚に扮したダンサーが踊り、泳ぎ、半裸の女性がタイプライターを叩き…パビリオンの内部は、生身の人間を使ったインスタレーションとして構成されていました。美術館の展示室では、その時の様子を写した写真パネルが、キャプションに添えられています。ニューヨーク万国博覧会のただ中に第二次世界大戦が勃発しています。唯一残った"背景画"を前に、奇抜なダリの世界を味わい、同時に、不穏な時代の空気を感じ取ってみてはいかがでしょうか?
《伊万里柿右衛門様式色絵馬》 江戸時代作
http://www.hpam.jp/musecom/sakuhin_shosai?action=load&id=550
佐賀県有田町で17世紀後半に輸出用として作られ、300余年の歳月を経てフランスから里帰りした、柿右衛門様式と呼ばれる色絵磁器の優品です。どっしりとした重量感のある作品ですが、馬具の部分には鮮やかな色に加え、金泥も使われ、胴部の装飾には松葉文や唐草文があしらわれて、豪華な雰囲気に仕上がっています。注文主であった当時のヨーロッパの人達のセンスと、それに応えた陶工達の力量が、見事に発揮されている作品です。馬をモチーフにした伊万里焼は珍しく、世界で5体しか確認されていないそうです。広島県立美術館はその内の2体を所蔵しており、所蔵品の「顔」とも言える存在になっています。(※他の3体は栃木県足利市栗田美術館、パリのギメ美術館、アメリカのピーボディ・エセックス博物館がそれぞれ1体ずつ所蔵)
広島の市街地はとてもコンパクトながら、なんと美術館が3館もあります!広島県立美術館の他に、印象派を中心とした巨匠の作品を楽しめるひろしま美術館、第二次世界大戦以降の作品を展示する広島市現代美術館と、3館を巡ると近代以降の美術の流れを楽しむことができます。また、市内では美術館巡りに便利な市内循環バス「めいぷる~ぷ」も走っています。
カープだけじゃない、芸術の街・広島へも是非お越しください。
広島より郷土愛をこめて。
■広島県立美術館
〒730-0014 広島県広島市中区上幟町2-22
開館時間 9:00~17:00 (金曜日は19:00まで延長、但し4月から10月にかけては20:00まで 要確認)
休館日 月曜日・年末年始休館 ※特別展会期中、祝日、振替休日を除く
所蔵作品展入館料 一般:510円 大学生:310円 高校生以下:無料
Tel:082-221-6246 Fax:082-223-1444
http://www.hpam.jp/

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