「美術検定」アートナビゲーター懇親会@東京 レポート
こんにちは。「美術検定」実行委員会事務局です。
今回は、去る1月27日に開催された、「アートナビゲーター懇親会」のレポートをお送りいたします。
アートナビゲーターとは、美術検定1級合格者のことです。
首都圏と愛知、大阪から駆けつけてくださった43名がご参加くださいました。
今回は、去る1月27日に開催された、「アートナビゲーター懇親会」のレポートをお送りいたします。
アートナビゲーターとは、美術検定1級合格者のことです。
首都圏と愛知、大阪から駆けつけてくださった43名がご参加くださいました。
今回の懇親会は、美術出版社が入居するビルのスペースで行われました。インフルエンザが流行っていた時期だったこともあり、6名の欠席者がありましたが、多くのアートナビゲーターさんが元気にご参加くださいました。この日のプログラムは、事務局の高橋が進行し、以下の内容で進められました。
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[アートナビゲーター懇親会@東京]プログラム
1 基調講演 テーマ「美術の歴史と今日のアートシーン」
講演者: 深井厚志氏(元 『美術手帖』編集部/現 (公財)現代芸術振興財団アシスタント・ディレクター)
2 ワールドカフェ〜参加者によるグループ・ディスカッション
セッション1「美術史を学ぶとはどういうことか?」
セッション2「どのように美術の魅力を伝えるか?(1)」
セッション3「どのように美術の魅力を伝えるか?(2)」
ふりかえり
3 懇親会
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■基調講演「美術の歴史と今日のアートシーン」
講演は、「美術史をどういうものとしてとらえるか」というお話から始まりました。オーソドックスな美術史は右図のような「芸術動向」の流れをつないでいくものです。
1 美術史はどこで紡がれるのか
オーソドックスな美術史の世界は、ほぼ、アーティスト/パトロン・コレクター/美術館+美術批評家・研究者で成立しています。平たく言うと、美術史はアーティストの歴史と芸術動向の歴史としてとらえているということです。
しかし、深井さんは、現代に生きる我々は美術史を更新していく作業をする立場から、アートの世界を1つの「生態系」としてとらえてみましょうというご提案されました。そこから見えてきたのは、観客やブロガーも含め、前述の4プレイヤー以外に非常に多くの「プレイヤー」たちによって構成されていることでした。
図/『キュビスムと抽象芸術展』図録表紙より(1936年、ニューヨーク近代美術館)
同展キュレーター、アルフレッド・パー・Jr.によってチャート化された近現代美術の流れ
2 美術史はお金で買えるのか?
深井さんはここから、今まで美術史の中でほとんど語られてこなかった「アート・マーケット」「コマーシャル・ギャラリー」が、今日のアートシーンや美術史にどれだけ影響を及ぼしているかということを、実例を交えつつお話を進められました。
まずは、世界で巨大ギャラリーの動向が注目を集めている状況から。
商業ギャラリーの生業は、アーティストをプロモーションし、その作品を売買して利益を得ることです。しかし、今日、巨大ギャラリーには研究機関やライブラリーが加わり、施設が美術館化しています。そのうえ、美術や研究の専門家が美術館などから商業ギャラリーに流れているそうです。さらに巨大ギャラリーは、雑誌の刊行や書店経営という「メディア」を持つことにより、美術史を紡ぎ、アートの価値を担保する動きも起こしているとのこと。また、質の高い「非売品」による展覧会企画も手がけ、コレクターの育成も行っているといいます。
商業ギャラリーの役割は美術館の方向へと変化しており、今や、アカデミーセクター(美術館)と商業セクター(ギャラリー)の境界が崩れつつあるとのことでした。なお、アートの価値を担保する動きは、オークションでも見られるそうです。
3 美術史は書き換えられるのか
これについては、「もの派」の再評価のきっかけとなった商業ギャラリーの展覧会と、アーティストのエステート(Estate/遺産財団)の動向、そしてオークションの高額落札という3つのトピックスから、お話が展開されました。
1つ目は、今まで美術館などのキュレーターや批評家が創り上げていたアートの言説の創り手に、商業ギャラリーが加わったエピソードでした。
2つ目のエステートとは、作家の死後、作品の散逸防止や遺族の相続税対策、そしてアーティストのレガシーを守るために設立される組織です。この組織には、作品の専門的研究や、美術館への作品貸出や収蔵の道筋をつくる役割があり、美術史にも直接関わってきます。このような組織の運営はアートの素人にできるものではなく、多くは商業ギャラリーが代行しているのが現実です。ギャラリーは、代行することによって、その作家の作品販売権を得るのです。欧米ではメガギャラリーが巨匠作家のエステート代行を積極的に行っており、その波は近々日本にも来ると予想されるそうです。
最後は、オークションでの高額落札もまた、美術史を書き換えるきかっけを与えるお話でした。高額で落札される作家には世間の注目が集まることから、キュレーターたちが作家研究を進め、展覧会を企画し始める傾向があるそうです。これにより作家の美術史的な位置づけが変化していくとのことでした。確かに、前澤さんが高額落札されたバスキアは、昨年末のルイ・ヴィトン財団での展覧会を皮切りに、次々に企画されています。
4 美術史はツイートできるのか
大勢の人が集まる展覧会(ブロックバスター展と呼ばれ、アート関係者からはあまりよい評判を得られない)が持つ、可能性についてのお話でした。
2014年にニューヨークで開催された、黒人作家キャラ・ウォーカーの展覧会が例にとられました。この展覧会は、SNSで話題を呼び、13万人の観客を集めましたものです。
深井さんは、「100人のうち1人でも黒人の歴史に興味を持つ、作家への関心が喚起できる、そういった可能性のあるブロックバスター展も有効ではないか」と締めくくられました。
<参考>
●メガギャラリーに興味のあるかたは、こちらをご参照ください。
→美術手帖
→art scape
●「もの派」再評価のきっかけとなった商業ギャラリーや、キャラ・ウォーカーの展覧会について、もっと知りたい方は以下をご参照ください。(英語版)
→BLUM&POEの「もの派」展
→ニューヨーク近代美術館のプロジェクト
→art21プロジェクト
■ワールドカフェ
第2部のワールドカフェでは、基調講演を踏まえて、2つのトピックスについて、アートナビゲーターさんによるグループ・ディスカッションが行われました。1グループ4〜5名で10テーブルに分かれ、1セッション10分単位で席替えをする方式です。3セッション終了後、各テーブルの代表者に、そのテーブルで挙がった意見の発表をしていただきました。
さすが、美術検定1級を取得したアートナビゲーターさんだけに、毎回どのテーブルも非常に活発な討議となっていました。
ここでは、「ふりかえり」で共有した内容をまとめます。
テーマ1:美術史を学ぶとはどういうことか?
このテーマでは、「美術史を学ぶ=歴史を学ぶ」と考える声も複数ありました。美術検定で美術史を学ぶことについては、「最初のうちは暗記が辛いけど、勉強すればするほど、断片的だったことがつながっていくのが面白い」という声も。みなさんの意見は、大きく5項目に集約できる内容でした。
①人間の歴史を学ぶこと/人間を知ること
・文化全体、思想、社会、政治などを横断的に学べるのが美術史
・人の心にどう響いてきたかということの歴史を知ることができる
②今後を知ること
・美術を通して過去を学ぶことで、現在の社会が理解できるようになる。今後への理解にもつながるだろう
・過去の美術を通して、今後のアートの流れを予測することができる
〜拝金主義社会だからこそ、最も縁遠いところに人々は関心を寄せるようになるのでは……など
③ビジュアルを通して学ぶ
・ほかの歴史とは違い、ビジュアルを通して学べるのが美術史。ふだんの生活では限られた視点だったことが、ビジュアルを通してみることでより広い視点で世界を知ることができる
④美術がもっと楽しくなる
・知識を深めること、知識のネットワークを広げることで、作品や作家、アートそのものについてわかってくることがある
・作家の人となり・人生がわかると、作品への理解も深くなる
・作品が制作された社会背景を知ることで、作品への理解が深まる
⑤自己理解/自己分析できる
・作品への興味関心を通じて、気づかなかった自分の好みや考え方の傾向がわかってくる
・美術について学んでいくにつれ、「知らない自分」がいることを理解できるようになる

画像はセッション1で交わされた意見の例
テーマ2:「どのように美術の魅力を伝えるか?」
このテーマについては、美術館やアート・イベントでガイドを務めている方、対話型鑑賞のファシリテーターをされている方、講座や授業で教える立場の方など、アートナビゲーターさんたちの多様な経験も含め、工夫や実践談が飛び出しました。興味深いところでは、東大食堂の壁画廃棄やパブリック・アートに着目したグループでは、「公共の場にある美術の魅力をどう伝えるか」についての意見交換もありました。
みなさんが共通して重視されていたのは、伝える相手と「いかにコミュニケーションを取るか」という点でした。これなしでは、アートの魅力を伝える前に、「アートをみる」という最初の階段を登ってもらえない、とおっしゃっていました。
この2セッションでは、おもに以下の3視点から意見が出ていました。
①コミュニケーションの工夫
・相手との距離(来館者/友人・知人/家族)、アートの知識やアートへの関心によってコミュニケーションの取り方、伝え方が変わる
・アートに無関心な人がいることを前提しておく
②アートを伝えるデバイス/ツールの活用
・SNS…展覧会で始めて知った事実を正確に伝える。展覧会の情報を発信する
・テキスト…ある年齢以上の人には有効で、必要なツールではないか
興味喚起させるだけでなく、アートや作品について考えるきっかけにもなる
・ミュージアム・グッズ/作品グッズ…見せ方で興味をわかせることができる
③身近な人を美術館やアート・イベントに誘うには
・旅行やグルメなど相手の興味の「ついで」に美術館などに連れて行く
・(家族なら)無理やり美術館に連れていき、「場慣れ」してもらう
[具体的な工夫として挙がった例]
・受け手によって伝え方、伝える言葉は変化する
・受け手の興味に重ねて、アートとの接点を作り、伝える
・平易な日本語で伝える
・一方的に解説するのではなく、双方向性をもたせて興味喚起をする
・建築体操のように、体でアートをみる体験をしてもらう
・ゲーム性やキャラクターを導入し、作品を「みる」から「体験する」「参加する」へ方向変更させる工夫をする
・図録や展覧会場、音声ガイドにはないトピックを盛り込んで興味をもってもらう
・身近なデザイン(家具や文具など)からアートへと、話を広げておもしろさを伝える
・ミュージアム・グッズを見せびらかして興味をそそる
・ポストカードなどをみせて、作品に興味をもってもらう
・身近な場でアートとふれあう機会をつくる(知人を集めたレクチャー、子どもたちと美術館で話すツアー、作品マグネットで冷蔵庫美術館をつくる、作品を購入し飾るなど)

画像はセッション2で交換された「伝える工夫」の具体例
総括
最後に総括として、美術検定の学術的な分析を担当する平野智紀さん(内田洋行総合教育研究所研究員)にコメントをいただきました。平野さんは対話型鑑賞の研究や「六本木アートナイト」でのガイドツアー企画などもされています。
平野さんによると、「美術検定の勉強を通じて、より多くの美術館に行くようになっていること」「受験級が上がるについて、多様なジャンルへの関心が広がっていること」「勉強を通じてアートシーンに出会っていること」が、美術検定受験者のアンケート分析から明らかになったとお話されていました。アートナビゲーターの皆さんへは、「アートシーンと普通の人たちとの間にいる存在として、今後もみなさんの活動を広げていってほしい」と激励されました。
今回の懇親会は、参加されたアートナビゲーターさんだけでなく、「美術検定」を運営するスタッフ一同、よい刺激になる機会でした。今後も、みなさんの活動の様子は、本ブログも通じて伝えていけたらと思っております。
ご参加くださったアートナビゲーターの皆さん、ありがとうございました。
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取材・文=染谷ヒロコ(本ブログ編集)
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[アートナビゲーター懇親会@東京]プログラム
1 基調講演 テーマ「美術の歴史と今日のアートシーン」
講演者: 深井厚志氏(元 『美術手帖』編集部/現 (公財)現代芸術振興財団アシスタント・ディレクター)
2 ワールドカフェ〜参加者によるグループ・ディスカッション
セッション1「美術史を学ぶとはどういうことか?」
セッション2「どのように美術の魅力を伝えるか?(1)」
セッション3「どのように美術の魅力を伝えるか?(2)」
ふりかえり
3 懇親会
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■基調講演「美術の歴史と今日のアートシーン」
講演は、「美術史をどういうものとしてとらえるか」というお話から始まりました。オーソドックスな美術史は右図のような「芸術動向」の流れをつないでいくものです。

オーソドックスな美術史の世界は、ほぼ、アーティスト/パトロン・コレクター/美術館+美術批評家・研究者で成立しています。平たく言うと、美術史はアーティストの歴史と芸術動向の歴史としてとらえているということです。
しかし、深井さんは、現代に生きる我々は美術史を更新していく作業をする立場から、アートの世界を1つの「生態系」としてとらえてみましょうというご提案されました。そこから見えてきたのは、観客やブロガーも含め、前述の4プレイヤー以外に非常に多くの「プレイヤー」たちによって構成されていることでした。
図/『キュビスムと抽象芸術展』図録表紙より(1936年、ニューヨーク近代美術館)
同展キュレーター、アルフレッド・パー・Jr.によってチャート化された近現代美術の流れ
2 美術史はお金で買えるのか?
深井さんはここから、今まで美術史の中でほとんど語られてこなかった「アート・マーケット」「コマーシャル・ギャラリー」が、今日のアートシーンや美術史にどれだけ影響を及ぼしているかということを、実例を交えつつお話を進められました。
まずは、世界で巨大ギャラリーの動向が注目を集めている状況から。
商業ギャラリーの生業は、アーティストをプロモーションし、その作品を売買して利益を得ることです。しかし、今日、巨大ギャラリーには研究機関やライブラリーが加わり、施設が美術館化しています。そのうえ、美術や研究の専門家が美術館などから商業ギャラリーに流れているそうです。さらに巨大ギャラリーは、雑誌の刊行や書店経営という「メディア」を持つことにより、美術史を紡ぎ、アートの価値を担保する動きも起こしているとのこと。また、質の高い「非売品」による展覧会企画も手がけ、コレクターの育成も行っているといいます。
商業ギャラリーの役割は美術館の方向へと変化しており、今や、アカデミーセクター(美術館)と商業セクター(ギャラリー)の境界が崩れつつあるとのことでした。なお、アートの価値を担保する動きは、オークションでも見られるそうです。
3 美術史は書き換えられるのか
これについては、「もの派」の再評価のきっかけとなった商業ギャラリーの展覧会と、アーティストのエステート(Estate/遺産財団)の動向、そしてオークションの高額落札という3つのトピックスから、お話が展開されました。
1つ目は、今まで美術館などのキュレーターや批評家が創り上げていたアートの言説の創り手に、商業ギャラリーが加わったエピソードでした。

最後は、オークションでの高額落札もまた、美術史を書き換えるきかっけを与えるお話でした。高額で落札される作家には世間の注目が集まることから、キュレーターたちが作家研究を進め、展覧会を企画し始める傾向があるそうです。これにより作家の美術史的な位置づけが変化していくとのことでした。確かに、前澤さんが高額落札されたバスキアは、昨年末のルイ・ヴィトン財団での展覧会を皮切りに、次々に企画されています。
4 美術史はツイートできるのか
大勢の人が集まる展覧会(ブロックバスター展と呼ばれ、アート関係者からはあまりよい評判を得られない)が持つ、可能性についてのお話でした。
2014年にニューヨークで開催された、黒人作家キャラ・ウォーカーの展覧会が例にとられました。この展覧会は、SNSで話題を呼び、13万人の観客を集めましたものです。
深井さんは、「100人のうち1人でも黒人の歴史に興味を持つ、作家への関心が喚起できる、そういった可能性のあるブロックバスター展も有効ではないか」と締めくくられました。
<参考>
●メガギャラリーに興味のあるかたは、こちらをご参照ください。
→美術手帖
→art scape
●「もの派」再評価のきっかけとなった商業ギャラリーや、キャラ・ウォーカーの展覧会について、もっと知りたい方は以下をご参照ください。(英語版)
→BLUM&POEの「もの派」展
→ニューヨーク近代美術館のプロジェクト
→art21プロジェクト
■ワールドカフェ

さすが、美術検定1級を取得したアートナビゲーターさんだけに、毎回どのテーブルも非常に活発な討議となっていました。
ここでは、「ふりかえり」で共有した内容をまとめます。
テーマ1:美術史を学ぶとはどういうことか?
このテーマでは、「美術史を学ぶ=歴史を学ぶ」と考える声も複数ありました。美術検定で美術史を学ぶことについては、「最初のうちは暗記が辛いけど、勉強すればするほど、断片的だったことがつながっていくのが面白い」という声も。みなさんの意見は、大きく5項目に集約できる内容でした。
①人間の歴史を学ぶこと/人間を知ること
・文化全体、思想、社会、政治などを横断的に学べるのが美術史
・人の心にどう響いてきたかということの歴史を知ることができる
②今後を知ること
・美術を通して過去を学ぶことで、現在の社会が理解できるようになる。今後への理解にもつながるだろう
・過去の美術を通して、今後のアートの流れを予測することができる
〜拝金主義社会だからこそ、最も縁遠いところに人々は関心を寄せるようになるのでは……など
③ビジュアルを通して学ぶ
・ほかの歴史とは違い、ビジュアルを通して学べるのが美術史。ふだんの生活では限られた視点だったことが、ビジュアルを通してみることでより広い視点で世界を知ることができる
④美術がもっと楽しくなる
・知識を深めること、知識のネットワークを広げることで、作品や作家、アートそのものについてわかってくることがある
・作家の人となり・人生がわかると、作品への理解も深くなる
・作品が制作された社会背景を知ることで、作品への理解が深まる
⑤自己理解/自己分析できる
・作品への興味関心を通じて、気づかなかった自分の好みや考え方の傾向がわかってくる
・美術について学んでいくにつれ、「知らない自分」がいることを理解できるようになる

画像はセッション1で交わされた意見の例
テーマ2:「どのように美術の魅力を伝えるか?」
このテーマについては、美術館やアート・イベントでガイドを務めている方、対話型鑑賞のファシリテーターをされている方、講座や授業で教える立場の方など、アートナビゲーターさんたちの多様な経験も含め、工夫や実践談が飛び出しました。興味深いところでは、東大食堂の壁画廃棄やパブリック・アートに着目したグループでは、「公共の場にある美術の魅力をどう伝えるか」についての意見交換もありました。
みなさんが共通して重視されていたのは、伝える相手と「いかにコミュニケーションを取るか」という点でした。これなしでは、アートの魅力を伝える前に、「アートをみる」という最初の階段を登ってもらえない、とおっしゃっていました。
この2セッションでは、おもに以下の3視点から意見が出ていました。
①コミュニケーションの工夫
・相手との距離(来館者/友人・知人/家族)、アートの知識やアートへの関心によってコミュニケーションの取り方、伝え方が変わる
・アートに無関心な人がいることを前提しておく
②アートを伝えるデバイス/ツールの活用
・SNS…展覧会で始めて知った事実を正確に伝える。展覧会の情報を発信する
・テキスト…ある年齢以上の人には有効で、必要なツールではないか
興味喚起させるだけでなく、アートや作品について考えるきっかけにもなる
・ミュージアム・グッズ/作品グッズ…見せ方で興味をわかせることができる
③身近な人を美術館やアート・イベントに誘うには
・旅行やグルメなど相手の興味の「ついで」に美術館などに連れて行く
・(家族なら)無理やり美術館に連れていき、「場慣れ」してもらう
[具体的な工夫として挙がった例]
・受け手によって伝え方、伝える言葉は変化する
・受け手の興味に重ねて、アートとの接点を作り、伝える
・平易な日本語で伝える
・一方的に解説するのではなく、双方向性をもたせて興味喚起をする
・建築体操のように、体でアートをみる体験をしてもらう
・ゲーム性やキャラクターを導入し、作品を「みる」から「体験する」「参加する」へ方向変更させる工夫をする
・図録や展覧会場、音声ガイドにはないトピックを盛り込んで興味をもってもらう
・身近なデザイン(家具や文具など)からアートへと、話を広げておもしろさを伝える
・ミュージアム・グッズを見せびらかして興味をそそる
・ポストカードなどをみせて、作品に興味をもってもらう
・身近な場でアートとふれあう機会をつくる(知人を集めたレクチャー、子どもたちと美術館で話すツアー、作品マグネットで冷蔵庫美術館をつくる、作品を購入し飾るなど)

画像はセッション2で交換された「伝える工夫」の具体例
総括
最後に総括として、美術検定の学術的な分析を担当する平野智紀さん(内田洋行総合教育研究所研究員)にコメントをいただきました。平野さんは対話型鑑賞の研究や「六本木アートナイト」でのガイドツアー企画などもされています。
平野さんによると、「美術検定の勉強を通じて、より多くの美術館に行くようになっていること」「受験級が上がるについて、多様なジャンルへの関心が広がっていること」「勉強を通じてアートシーンに出会っていること」が、美術検定受験者のアンケート分析から明らかになったとお話されていました。アートナビゲーターの皆さんへは、「アートシーンと普通の人たちとの間にいる存在として、今後もみなさんの活動を広げていってほしい」と激励されました。
今回の懇親会は、参加されたアートナビゲーターさんだけでなく、「美術検定」を運営するスタッフ一同、よい刺激になる機会でした。今後も、みなさんの活動の様子は、本ブログも通じて伝えていけたらと思っております。
ご参加くださったアートナビゲーターの皆さん、ありがとうございました。
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取材・文=染谷ヒロコ(本ブログ編集)
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