アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「群馬県立館林美術館」
群馬県立館林美術館〔通称:館美(たてび)〕は、県内で二館目の県立美術館として2001年にオープンしました。館林市のある県南東部の地域は江戸時代より徳川の居城として栄え、その後も利根川の水運を利用して繊維産業などで賑わった地域で、古くから多くの文人の往来のあった土地柄です。
その郊外、白鳥の飛来地で有名な多々良沼公園の一角、自然に恵まれた広々とした敷地の中に、大きく弧を描いて角笛のような形のその美術館はあります。

建築設計は多くの優れた公共建築を生んだ建築家、高橋靗一氏率いる第一工房で、優れた建築に贈られるBCS賞や村野藤吾賞を受賞しています。映画やTVドラマのロケ地としても人気があるので見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
駐車場を抜けて、睡蓮の池を渡り進んでいくと、芝生の丘ではバリー・フラナガンのユーモラスな野兎がまるで林から跳ね出てきたかのように迎えてくれます。

バリー・フラナガン作の野兎がお出迎え
アプローチに沿った水の流れに心を濯がれるように入館すると、エントランスやその先にある展示室のファサードはすべてガラス張りで、屋外の広々とした緑の芝生が目に飛び込んできます。

ガラスを通して外界と室内がニュートラルにつながり、その中に多くの動物彫刻や自然の造形を切り取ったかのような作品の数々、まるで林の中にぽっかり空いた陽だまりに佇んでいるような気分になります。それもそのはず「自然と人間の関わり」、それがこの美術館のコンセプトになっているのです。
コレクションの中核として、20世紀初めに活躍したフランスの彫刻家、フランソワ・ポンポンの作品群があります。ポンポンはそれまでの写実を旨とし細密に再現されることが主流だった動物彫刻を、細部にとらわれることなく滑らかでシンプルな形とし、その革新的で洗練された造形はアール・デコ全盛のフランスで人気を博しました。温かみを感じるその造形は、新しい時代の“自然と人間の共生”を宣言しているようです。
ポンポンが一躍脚光を浴びたのは、67才で制作した《シロクマ》でした。彼の《シロクマ》はオルセー美術館の大きな作品がよく知られていますが、館美のアイコン的作品の《シロクマ》は大理石にる長さ45cmのものです。

フランソワ・ポンポン作《シロクマ》
その他にも黒豹やフクロウ、ホロホロ鳥など、その素材も多岐にわたります。また、前述のフラナガン、イサム・ノグチなどの動物彫刻もコレクションされており、地域や種を超えた共演はさながら動物たちのユートピアのようです。
展示室を出て、ガラス張りのギャラリーを行くと、本館奥にまるでフランスの田舎にあるような別館が現れます。

本館奥にある別館展示室
外観は、ポンポンの故郷ブルゴーニュ地方の農家を模した石組みや植栽を備えており、内部には当時パリにあったポンポンのアトリエの写真をもとに、実際のアトリエに由来する家具や道具を含めて再構成された「彫刻家のアトリエ」で、ポンポンの制作技法を知るうえで大切な資料も展示されています。資料の一部は定期的に入れ替わり、日本におけるポンポン研究の最前線となっています。学芸員さんの詳しい解説つきでポンポンの彫刻の秘密に迫るポンポン・ツアーが人気です。
コレクションにはこの他にも、ラウル・デュフィやエドワード・バーン=ジョーンズの版画、県所縁の鶴岡政男、山口薫の油彩や藤牧義夫の版画、小室翠雲、磯部草丘の日本画など940点余りが所蔵されています。さらには、高崎市にある群馬近美こと群馬県立近代美術館の約1900点に及ぶコレクションから展示されることもあるため、より充実した展示が可能となっているのです。
2019年度は、10月5日~12月8日開催の「ピカソ《ゲルニカ》の世界展」(仮称)で、群馬近美のコレクションである《ゲルニカ(タピスリ)》が展示予定です。ピカソが指定した色糸でほぼ原寸大に織りあげられており、長い間国連の安全保障理事会に飾られていたものと同様のタイプで、世界に3点しかないものです。
ミュージアムショップでは、ポンポンのミニチュアや近隣の伝統工芸、クラフト作家によるアクセサリーなど、ここでしか出会えないモノがたくさん。またおしゃれなレストラン「イル・コルネット」もおすすめです!
■群馬県立館林美術館
〒374-0076 群馬県館林市日向町2003
※東武伊勢崎線「多々良」駅から徒歩1.2km(徒歩20分)
※東武伊勢崎線「館林」駅から約4km(タクシー10分)
※東武伊勢崎線「館林」駅西口ロータリーからバス「多々良巡回線」、バス停「県立館林美術館前」からすぐ
開館時間 午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日、ただし4月29日から5月5日までの間及び8月15日を含む週の月曜は開館)
年末年始(12/29~1/3)、臨時休館日
特別展入館料 展覧会によって異なります。詳細はこちら→http://www.gmat.pref.gunma.jp/ex/schedule.html
TEL.0276-72-8188 FAX. 0276-72-8338
http://www.gmat.pref.gunma.jp/index.html
プロフィール
2007年に美術検定1級を取得、県内の美術館、芸術祭などでボランティアをしています。近年は、対話型鑑賞を軸に仲間とワークショップを企画運営し、参加者とおしゃべりしながら作品を観る活動をしています。
思えば2005年に本屋さんで偶然出会った「アートナビゲーター検定」の本が全ての始まりで、元々興味の赴くままに見ていた展覧会の点と点がつながって線になり、楽しくなってもっとアートの世界を知りたいと検定関係の書籍をもとに勉強しました。
さらに、『世界美術大全集』(小学館)、三浦篤著『まなざしのレッスン』(東京大学出版会)、アメリア・アレナス著『なぜ、これがアートなの?』(淡交社)等がアートの世界を広げてくれました。
その郊外、白鳥の飛来地で有名な多々良沼公園の一角、自然に恵まれた広々とした敷地の中に、大きく弧を描いて角笛のような形のその美術館はあります。

建築設計は多くの優れた公共建築を生んだ建築家、高橋靗一氏率いる第一工房で、優れた建築に贈られるBCS賞や村野藤吾賞を受賞しています。映画やTVドラマのロケ地としても人気があるので見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
駐車場を抜けて、睡蓮の池を渡り進んでいくと、芝生の丘ではバリー・フラナガンのユーモラスな野兎がまるで林から跳ね出てきたかのように迎えてくれます。

バリー・フラナガン作の野兎がお出迎え
アプローチに沿った水の流れに心を濯がれるように入館すると、エントランスやその先にある展示室のファサードはすべてガラス張りで、屋外の広々とした緑の芝生が目に飛び込んできます。

ガラスを通して外界と室内がニュートラルにつながり、その中に多くの動物彫刻や自然の造形を切り取ったかのような作品の数々、まるで林の中にぽっかり空いた陽だまりに佇んでいるような気分になります。それもそのはず「自然と人間の関わり」、それがこの美術館のコンセプトになっているのです。
コレクションの中核として、20世紀初めに活躍したフランスの彫刻家、フランソワ・ポンポンの作品群があります。ポンポンはそれまでの写実を旨とし細密に再現されることが主流だった動物彫刻を、細部にとらわれることなく滑らかでシンプルな形とし、その革新的で洗練された造形はアール・デコ全盛のフランスで人気を博しました。温かみを感じるその造形は、新しい時代の“自然と人間の共生”を宣言しているようです。
ポンポンが一躍脚光を浴びたのは、67才で制作した《シロクマ》でした。彼の《シロクマ》はオルセー美術館の大きな作品がよく知られていますが、館美のアイコン的作品の《シロクマ》は大理石にる長さ45cmのものです。

フランソワ・ポンポン作《シロクマ》
その他にも黒豹やフクロウ、ホロホロ鳥など、その素材も多岐にわたります。また、前述のフラナガン、イサム・ノグチなどの動物彫刻もコレクションされており、地域や種を超えた共演はさながら動物たちのユートピアのようです。
展示室を出て、ガラス張りのギャラリーを行くと、本館奥にまるでフランスの田舎にあるような別館が現れます。

本館奥にある別館展示室
外観は、ポンポンの故郷ブルゴーニュ地方の農家を模した石組みや植栽を備えており、内部には当時パリにあったポンポンのアトリエの写真をもとに、実際のアトリエに由来する家具や道具を含めて再構成された「彫刻家のアトリエ」で、ポンポンの制作技法を知るうえで大切な資料も展示されています。資料の一部は定期的に入れ替わり、日本におけるポンポン研究の最前線となっています。学芸員さんの詳しい解説つきでポンポンの彫刻の秘密に迫るポンポン・ツアーが人気です。
コレクションにはこの他にも、ラウル・デュフィやエドワード・バーン=ジョーンズの版画、県所縁の鶴岡政男、山口薫の油彩や藤牧義夫の版画、小室翠雲、磯部草丘の日本画など940点余りが所蔵されています。さらには、高崎市にある群馬近美こと群馬県立近代美術館の約1900点に及ぶコレクションから展示されることもあるため、より充実した展示が可能となっているのです。
2019年度は、10月5日~12月8日開催の「ピカソ《ゲルニカ》の世界展」(仮称)で、群馬近美のコレクションである《ゲルニカ(タピスリ)》が展示予定です。ピカソが指定した色糸でほぼ原寸大に織りあげられており、長い間国連の安全保障理事会に飾られていたものと同様のタイプで、世界に3点しかないものです。
ミュージアムショップでは、ポンポンのミニチュアや近隣の伝統工芸、クラフト作家によるアクセサリーなど、ここでしか出会えないモノがたくさん。またおしゃれなレストラン「イル・コルネット」もおすすめです!
■群馬県立館林美術館
〒374-0076 群馬県館林市日向町2003
※東武伊勢崎線「多々良」駅から徒歩1.2km(徒歩20分)
※東武伊勢崎線「館林」駅から約4km(タクシー10分)
※東武伊勢崎線「館林」駅西口ロータリーからバス「多々良巡回線」、バス停「県立館林美術館前」からすぐ
開館時間 午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日、ただし4月29日から5月5日までの間及び8月15日を含む週の月曜は開館)
年末年始(12/29~1/3)、臨時休館日
特別展入館料 展覧会によって異なります。詳細はこちら→http://www.gmat.pref.gunma.jp/ex/schedule.html
TEL.0276-72-8188 FAX. 0276-72-8338
http://www.gmat.pref.gunma.jp/index.html

2007年に美術検定1級を取得、県内の美術館、芸術祭などでボランティアをしています。近年は、対話型鑑賞を軸に仲間とワークショップを企画運営し、参加者とおしゃべりしながら作品を観る活動をしています。
思えば2005年に本屋さんで偶然出会った「アートナビゲーター検定」の本が全ての始まりで、元々興味の赴くままに見ていた展覧会の点と点がつながって線になり、楽しくなってもっとアートの世界を知りたいと検定関係の書籍をもとに勉強しました。
さらに、『世界美術大全集』(小学館)、三浦篤著『まなざしのレッスン』(東京大学出版会)、アメリア・アレナス著『なぜ、これがアートなの?』(淡交社)等がアートの世界を広げてくれました。
| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 09:00 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑