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始動!とびらプロジェクト

こんにちは。「美術検定」事務局です。
今年も残すところ、あと1月となりました。早いですね。

今回は、2月にアートナビゲーター鈴木由紀さんがレポートくださった東京都美術館×東京藝術大学の共同プロジェクト「とびらプロジェクト」に再びスポットをあてます。


とびらプロジェクトとは

8月に「建築ツアー」で本格始動した「とびらプロジェクト」。
先のレポートから時間がたってしまったので、まずは「とびらプロジェクト」とは何か、ということから振り返りたいと思います。

まず、このプロジェクトは、一般的にいわれる美術館の教育普及プログラムとは一線を画しています。プロジェクトに先立って「とびラー」候補生と呼ばれるボランティア募集がありましたが、この「とびラー」はプロジェクトを美術館とともに支える、美術館とユーザーとの架け橋的存在であり、プロジェクトを構成するスタッフであり、また、プログラムも創る“能動的な”美術館ユーザーです。
現在登録している「とびラー」候補生は約90名に上るそうです。


今回はこのプロジェクトのプロジェクトマネージャである、東京藝術大学特任助教、伊藤達矢さんにお話を伺いました。

「このプロジェクトの主眼は、人々のライフスタイルの「場」=「家」と「勤務先/学校」の2つに、第3の場として「美術館」を加えていこう、というものです。とはいえ現状の美術館のままでは“第3の場”となり得ない。美術館が人々の活動の変化するプラットフォームにならないと難しい。そのために人々自身の手も借りて、美術館の新しい機能を創り、変幻自在のプラットフォームを創造する。これがとびらプロジェクトなのです」

とはいえ外野がみると、同プロジェクトの事業は、ハンディキャップのある人々へ向けたアクセスプログラムや、一般ユーザー向けの建築ツアー、学校との連携プログラムと、同館や他館がやってきた教育普及プログラムと同様に見えます。とびラーもその事業を現場で支援するボランティアではないかと思ってしまいます。

「とびラーは確かにボランタリーな活動ですが、他館のボランティアとの違いは、彼らがプログラムの内容そのものも創る立場にあることです。普通なら美術館の普及担当者がプログラムの内容や進行を決め、ボランティアさんにこうしてください、と方向性を示し、研修などをすると思います。また、通常のボランティアであれば、ほぼ全員同じような活動と活動時間が必須になることもあるでしょう。とびラーの場合は、その人のライフスタイルに合った活動を創っていくことを心がけます。一人ひとりが都美と人々を結ぶ1つの扉であって、その扉サイズはその人に決めてもらう、という考え方です」


地下茎型組織を基本にするプロジェクト

たくさんの人が動く場合、そこに組織が存在します。日本であればツリー型といわれる組織形態が一般的です。美術館の普及事業でも、まず美術館があってリーダーや責任者がおり、そこにボランティアさんたちがぶら下がる形の組織のあり方が多かったと思われます。しかし、とびらプロジェクトの組織は、じゃがいものような地下茎型に近いようです。とびラー一人ひとりが独立した存在であり、その人が活動に投資できる時間や社会経験、知識、自分の指向を資源として、美術館ともとびラー仲間ともゆるい連携を結びながら活動する組織形態を創ろうとしています。連携のあり方はその時々で変化してタテにもヨコにもナナメにも伸びてよく、常に運動する組織を目指しているようです。

こういった組織のあり方は、一時期話題になったかつてのGoogle社の開発エンジニアチームの組織をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。同社では、マネージャーは調整役として存在するが、個々のエンジニアは参加したい開発プロジェクトを自分で決め、途中でプロジェクトを去ることも自分で決めていました。ツリー型組織のように人事権を持つ人が業務分担を決定することはなかったのです。開発プロジェクトもエンジニアたちの意見によって継続、中止を決定することにより、結果的に価値あるプロジェクトだけが残るシステムができあがっていったといいます。エンジニアに対する評価もいわゆる上司がするのではなく、同僚であるエンジニアが行うため非常に納得度が高かったとか。この組織のあり方を可能にしたのは、徹底した情報開示と情報共有チャネルの存在といわれています。

とびらプロジェクトの場合、Google 社と近しい組織のあり方への思想を持ちながら、3つの事業が柱となっています。これにより活動内容はおのずと決まってくるのではないかという疑問もわいてきます。

3つの事業は、東京都美術館のプログラムの中で以前から好評だった建築ツアー、美術館の社会教育機能を果たすスクールマンデー、来館者からのニーズに応えるアクセスプログラムという構成。これらは同館の意思表示でもあり、いわば木の幹の部分です。枝はとびラーによってさまざまな形に伸び、さまざまな大きさや色、形の葉や実をつけてほしいのです。骨格があることで、とびラーのアイデアもひきたつ、という考えに基づいています」


とびラー組織を横断する情報共有チャネル

活動のための資源も個人差があるとびラー個々のアイデアをうまく引き出すためには、仕組みも必要になります。この点についても伊藤さんに伺いました。

「情報共有が非常に重要になります。そのためにとびラー間のコミュニケーションボード的な2つの情報共有チャネルを設けました。1つは連絡事項を伝達する掲示板、もう1つはとびラー同士でブレーンストーミングもできる[ホワイトボード]です。これらをWeb上に設け、たとえある活動に参加できなかったとびラーも、その日に何があったのか、ほかのとびラーが活動を通じてどんなことを考えたのかを公開された情報からわかる仕組みをとっています。
ホワイトボード]は、とびラーがこんな活動をやってみたらどうかというアイデアの提案、それに対してほかのとびラーが課題の指摘やアドバイスを積み重ねることで1つのプロジェクトを創るために大きな役割を果たします。このホワイトボード上のコミュニケーションは、建築ツアーで実際に1つのプロジェクトを創り実現しています」
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左/Web上の[ホワイトボード]で創られたプロジェクトを実現化するための
  プロセスを明らかにするため、物理的なホワイトボードに概要を転記
右/プロジェクトでは美術館外への情報発信も重要となる。
  そのためのWebサイト構築案



とびラーを育てる研修

とびらプロジェクトは、美術を視座にすえた人々による社会運動体を創るところにその目的があるように感じられます。そこで重要になるのが前述した組織創造であり、組織がうまく働くようになる仕組みです。しかし一番重要なのはそれを動かすとびラーである個人。今までと全く違う組織のあり方にポンと放り込まれた人は何をすればいいのか途方にくれることでしょう。そのためにこのプロジェクトでは、とびラーを育てるための研修を重視しており、6回にわたる基礎講座のほか、各事業に沿った研修が多く設けられています。では、どのような研修が行われているのでしょうか。「スクールマンデー※」の1研修の様子をのぞいてきました。

※「スクールマンデー」は来年から本格稼働する事業です。同事業のとびラーは、鑑賞ファシリテーターとして、学校との調整から鑑賞授業の内容決定・現場でのファシリテーションまで担当することになるそうです。

gallery見学に伺った日は、「マウリッツハイス展」を題材に中学校の鑑賞授業が行われました。子供たちをファシリテートしたのは4名の教育普及担当の学芸員たちで、とびラーは4グループに分かれて鑑賞授業の様子を見学し、子供たちが帰った後にファシリテーターとともに「振り返り」を行いました。

画像/ファシリテーターによる鑑賞授業の様子。
子供たちのうしろでその様子を熱心に見学するとびラーたち



「振り返り」で行われたこと

「振り返り」は次のようなステップで行われていました。

①プロジェクトの担当学芸員(同日のファシリテーター兼任)が、今回の学校の先生たちと相談して決定した鑑賞プログラムの内容とその前提をとびらーに説明

②共有した情報をもとに、各グループで「プログラムについての質問」「よかった点」「気づいた点」「改善した方がよいと思われる点」などを各ファシリテーターとともに意見交換

③各グループ間で出た意見などをまとめ、[ホワイトボード]への報告内容を確認


同日の授業では、時間通りに学校が到着しなかった、事前授業の内容がファシリテーターと教師間で決められたものと異なっていた、というアクシデントが起こりました。そのため、意見交換の場では「急な変更への対応はどうするのか」「なぜ対話による鑑賞方法をとらなかったのか」「学校の先生が考える鑑賞とは」といった内容を中心に、多方向からの意見が交わされることになったのです。また、子供たちの誘導や動線についての提案や鑑賞授業に有効なツールについてといった実務的な面まで意見が登場し、参加とびラー全員が共有していました。
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振り返りの様子

この研修のキーは、自分たちがファシリテーターとなったときの課題を発見すること、すべきことを確認すること、考えることはなにか……といった「気付き」をとびラー自身が能動的に体験することにあるのでしょう。この「気付き」がとびラーの思考を促し、アイデアを創造する源となるからです。

意見も気づきもまとめて、とびラー専用[ホワイトボード]でシェアする。その回に参加していないとびラー、あるいは他の事業に参加しているとびラーも、ホワイトボードの内容から、現場で何が起こったのか、どんなアイデアが飛び出したのかを知り、そこから課題を発見し、解決方法を考え、必要な内容を追加したりする。何かを「教わる」のではなく、実例から「学ぶ」場を拓くために[ホワイトボード]が機能しているのです。

各回の研修は参加して終わりではなく、[ホワイトボード]の存在によって継続的で横断的なものとなっていました。


*****

aftermtgこの研修を担当したファシリテーターたちもまた、研修終了後、自分が担当した子供たちグループでの鑑賞ツアー、とびらーグループでの振り返りについて、反省会で報告をしていました。そして次回への課題を発見し、研修の内容を見直し、修正を加える。この作業をくり返していたのです。

画像/ファシリテーターたちのミーティングの様子


取材・文=染谷ヒロコ(本ブログ編集)




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