美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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ART LABO+美術検定事務局共同企画セミナー「美術館の教育プログラム ニューヨークの美術館では」レポート

こんにちは、美術検定事務局です。
今回は、去る4月6日(土)に美術アカデミー&スクールが運営するART TRANSITの定期勉強会「ART LABO」と、「美術検定」事務局が共同企画したセミナー「美術館の教育プログラム ニューヨークの美術館では」をレポートします。

このセミナーは、美術検定1級を取得したアートナビゲーターやART TRANSIT会員を中心に、美術をとりまく環境や現場についてさらに学べるよう企画したものです。
今回は海外の美術館における教育普及活動を切り口に、美術館の意味を考えるきっかけになればと、昨年ニューヨークに1ヶ月滞在し、現地の美術館で行われている教育プログラムを視察調査された東京都庭園美術館学芸員・八巻香澄さんをゲスト・スピーカーに迎えました。また、かつて同地で美術館学を修めた「美術検定」事務局の高橋紀子がインタビュアーを務めています。


セミナーには、アートナビゲーターやART TRANSIT会員など約25名が参加しました。スピーカーの八巻さんの意向で、冒頭から参加者も自分の考えや持っている情報の積極的な開示を求められる、対話的な雰囲気のなかで進められました。


美術館とはどんなところ?

pictureセミナーは、バーバラ・レーマン著『ミュージアム・トリップ』という1冊の絵本を参加者全員でみることから始まりました。美術館に来た少年が、1人で展示作品に夢中になっていくストーリーです。みた後には「絵本から美術館はどんなところだと思いましたか?」「美術館の人は何をしていましたか?」といったことが八巻さんから参加者に問われました。セリフが一切ない本ですが、「美術館とはなにか、どんなところか」ということを個人の経験と照らし合わせて改めて考えられる絵本で、八巻さんは「美術館はモノと自分が対話する空間です。でも教育プログラムは、モノの代弁をしようと、ついつい饒舌になりすぎてしまうことがあるようにも感じます。この絵本のように、黙って来館者に寄り添うということが、一番大切なのかもしれませんね」と説明されました。
(画像は参加者に絵本を見せる八巻さん)

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ニューヨークの美術館が行っていること

導入後はニューヨークの美術館で行われている教育プログラムの現状報告です。あるときは国内の美術館との比較から、あるときは具体的な事例をはさみながら、そして参加者からの質問も織り交ぜて続きました。この日大きく採り上げられたのは、以下の3事項と具体例(抜粋)です。


1)ニューヨークの美術館の教育プログラムのあり方
・外部の人から「何をしているのか」がわかりやすい情報発信
・プログラムの対象が明確な構成
・プログラムごとにスポンサーをつけるシステム
 →日本では税制の違いや運営母体の違いがあり、実現が困難


2)ニューヨークの美術館を担うたくさんの人々
美術館の成立背景が違い、教育機関(学びの場)としての美術館の役割が開館当初から徹底している館が多い。

・プログラムを作るエデュケーターの存在
教育普及の専門スタッフ。普及プログラムの開発や運営、スタッフのトレーニングなどを担当
→明確な雇用契約の下でキャリアパスを築きやすいシステムも影響

・プレイヤーとして来館者の前に立つエデュケーターの存在
レクチャラー(lecturer)、インストラクター(instructor)、アーティスト・ティーチャー(artist teacher)ら。
プログラムの講師や作品解説・ガイド担当する美術のプロフェッショナル(若手の研究者や美術家)
→美術館が若手の育成機関として機能する

[プロフェッショナルスタッフ起用の具体例]
テネメント博物館
ニューヨークの移民時代を紹介する博物館。プログラムによっては、本物の役者が当時の生活について演技をしながら案内する。


3)さまざまな人の声を聴く美術館
ニューヨークには、一部の好事家や専門家以外に門戸を広げるための工夫、美術館内外の人にとってそれぞれの立ち位置で美術館との結びつきが作れる工夫をしている館がいくつかある。

[具体例]
MET connections
メトロポリタン美術館で働くさまざまな人たち(キュレーターとは限らない)が、自分が館内で好きな作品と自分史とを関連づけて語る動画コレクションをwebで公開したもの。

Open Studio Program
イベントとしてのオープン・スタジオとは異なり、作家の生体展示ともいえる美術館のプログラム。入館者は作品制作中の作家と自由に話したり、作品についての説明を受けることができる。

Access Program
視覚や聴覚障害をはじめとした身体的な障害を持つ人々、発達障害のある人やがん患者などに向けたプログラムが、展覧会毎などではなく常に用意されている。その告知はwebサイトや美術館のリーフレットで恒常的にされている。
「Meet Me」
ニューヨーク近代美術館のアルツハイマー病患者とその介護者のためのプログラム。
「 Sights & Scents」
メトロポリタン美術館分館のクロイスターズ美術館の、アルツハイマー型認知症患者とその介護者のためのプログラム

programme
10代の若者のためのプログラムについて説明をする八巻さん

セミナーのテーブルには、多くの美術館のリーフレットや鑑賞ガイドなども準備され、参加者はそれらを自由にみながら報告を聞くことができました。「ニューヨークの美術館では、展覧会ごとのフライヤーは見かけませんでした。あるのは、ここにあるような館の説明リーフレットやプログラムごとの印刷物なんですよね」という八巻さんの言葉を受け、参加者から「アメリカの美術館では展覧会チラシに必要性を感じないのでは? それは文化の違いからくるものではないか。他の国はどうなんだろう?」という考えが交わされたり、「私がボランティアをしている館ではこういう制度があります」「日本でもアルツハイマー患者向けの鑑賞プログラムが始まっていて…」という情報が提供されたり。参加者も積極的に発言しながら、セミナーは進行しました。

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終わりに

最後に八巻さんは、ニューヨークの美術館の視察から考えたことを、次のように締めくくられました。
「社会背景や制度の違いから美術館の存在意義の違い、美術館が提供できるプログラムの違いを知る機会となりました。見習いたい部分もある一方で、造形ワークショップにしても、対話による作品鑑賞にしても、日本のプログラムがいかに細やかに考えて作られているかと、日本にもいいところはたくさんあると実感しました。今後は、私たちの強みをもっと引き出せる美術館プログラムを作っていけるよう努力したい。その実現に向けては、来館者や、アートナビゲーターさんやボランティアさんなど、美術館と来館者の間にいる人たちを巻き込んでいきたいですね」

(取材・文/染谷ヒロコ=本ブログ編集)

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