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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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ART LABO+美術検定事務局共同企画セミナー「展覧会チラシの活用方法~チラシの今とこれから~」レポート

こんにちは、「美術検定」実行委員会事務局です。
今回は、去る5月31日(土)に美術アカデミー&スクールが運営するART TRANSITの定期勉強会「ART LABO」と、「美術検定」実行委員会事務局が共同企画したセミナー「展覧会チラシの活用方法~チラシの今とこれから~」をレポートします。


このセミナーは、美術検定1級を取得したアートナビゲーターやART TRANSIT会員を中心に、美術をとりまく環境や現場についてさらに学べるよう企画されたものです。昨年開催されたセミナー「美術館の教育プログラム ニューヨークの美術館では」に続く第二弾として取り上げられたテーマは、“展覧会のチラシ”。元美術館学芸員で現在インディペンデント・キュレーターとして活躍される土方浦歌さんに司会進行いただき、展覧会チラシの役割や活用方法を参加者15名と共に話し合いました。


展覧会チラシの役割とは?


まずは土方さんより、展覧会情報を入手するのにチラシを使うかどうか、という参加者への質問から始まりました。チラシを使う人は約半数で、主に美術館でチラシを入手するとのこと。またチラシを使わない人は、インターネットで情報収集していました。インターネットでも、美術館のHPやアート情報サイトだけでなく、最近ではtwitterやfacebookなどSNSを活用するという声もありました。
その後、展覧会チラシ制作の現状を土方さんよりレクチャーいただきました。チラシの制作が始まるのは展覧会開始の半年前ですが、まだ詳細が決まらないこともあってか、展覧会の開催日や開催場所といった主だった情報のみが掲載されている“プレチラシ”が作られ、詳細情報が掲載される“本チラシ”は2~3ヶ月前に出来上がるのだそうです。その制作には美術館やデザイナーだけでなく、主催者や後援・協賛団体などの意向も反映される、という現場ならではのお話が伺えました。ただし、情報入手方法が紙媒体だけでなくインターネットへと拡大しつつある現在、HP制作やSNSにも力を入れるようになってきているようです。

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参加者それぞれがチラシについて意見を出し合った


展覧会の印象-事前にチラシを見た時と、実際の違いは?


今回は、事前に参加者の方々へ二つの展覧会を観に行ってもらうことを促していました。一つは東京都美術館で開催の「バルテュス」展、そしてもう一つは東京藝術大学大学美術館で開催の「法隆寺-祈りとかたち」展です。時代もジャンルも違う二つの展覧会ですが、チラシと実際の展覧会の印象も、ディスカッションによってそれぞれ違ったものが浮かび上がってきました。
「バルテュス」展は“称賛と誤解だらけの、20世紀最後の巨匠”というキャッチコピーがチラシに大きく書かれていることもあり、展覧会もそのコピーを意識した構成となっていたそうです。チラシに使われていた作品も、展覧会場では展示方法が他の作品と異なるなど注目されやすくなっており、展覧会のイメージが統一されていた感があったということでした。
一方の「法隆寺-祈りとかたち」展は、チラシでは法隆寺金堂の毘沙門天、吉祥天といった国宝をはじめとした法隆寺の至宝が大々的に紹介されていましたが、展覧会場が東京藝術大学大学美術館ということもあり、法隆寺所蔵の文化財保護にかかわってきた東京美術学校(現・東京藝術大学)の存在が強く印象に残ったということでした。また、その頃テレビ放映された美術番組でも、東京美術学校出身の画家、鈴木空如による法隆寺金堂壁画がクローズアップされており、チラシと展覧会場での印象が異なったという感想もありました。


チラシの過去と現在、そして未来は?


こうしてチラシと展覧会場の関係を分析した後、土方さんより参加者の方に「チラシをどのように保存しているか」という質問が投げかけられました。観に行ったものだけでなく観に行っていなくても入手したものは全て保存している方、記憶に残ったものやデザインのよいものだけ保存している方、溜まってきたら捨ててしまう方、と保存するかしないかはそれぞれでしたが、保存する方はその保存方法もスクラップブックにする、フォルダーに入れてファインリングする、あるいはスキャニングしてデータ化する方など多岐に渡っていました。ただ、チラシはアーカイブとして保存するには情報量が少なすぎる、日々溜まっていくチラシをどう片付け保存していくかが悩みどころ、個々人でデータ化したものを集約してオンライン上で閲覧できないか、といった意見も上がりました。
ところで、チラシは美術館ではどのように保存されているのでしょうか。土方さんはチラシ制作の起源をひも解き、現在のチラシの保存の状況をお話しされました。チラシは江戸時代の「引き札」から続く文化で、明治時代の博覧会チラシが展覧会チラシの最初と言われているのだそうです。現在の美術展のチラシは1970年代頃から見られるようになったものの、チラシは宣伝物とみなされ保存していない美術館も少なくないようです。
チラシの未来については、インターネットが普及している今、チラシは情報源としてではなくカタログに近いアーカイブとしての要素が強くなってくるのではないか、という話題になりました。情報としてのチラシから記録としてのチラシへ。そんな考察にまとまったところでセミナーは終了しました。
セミナーを司会進行下さった土方さんは、「展覧会のひとつの解釈を伝える媒体として、チラシはこれからも独自の進化を遂げていくのではないか」とおっしゃっていました。美術にまつわるモノやコトからその役割をひも解くことで、展覧会のあり方や美術鑑賞について掘り下げ学ぶセミナー、今後も継続して企画していきたいと思っています。



文=高橋紀子(「美術検定」実行委員会事務局)

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