福岡アジア美術館を飛び出して~ボランティア研修での「台湾ARTの旅 報告会」に至るまで
アートナビゲーターの音(おと)です。福岡アジア美術館(以下、アジ美)でボランティアとして活動を始めて3年が経ちます。今回は、今年2015年8月にボランティア向けの研修で私がお話しした、「台湾ARTの旅 報告会」についてレポートします。
(アジ美とそのボランティア活動については以下をご覧下さい)
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-156.html
国内の美術館には、学生の頃から夏休みなどを利用して足を運んでいました。が、アジ美にいるとやはり海外の美術館にも実際に行ってみたくなりまして…笑。そして今回、福岡からなら直行便も多く、2時間半で行ける台湾へ行ってきました。行き先を台湾に決めたのは、まったく初めての海外の美術館巡りだったこともあり、比較的安全な国か地域にと考えたからです。現地では右往左往することも多々ありましたが、台湾へ訪れた日本人が必ずと言っていいほど口にする、人の温かさや親しみやすい雰囲気が美術館にも漂っていたことにまず驚きました。観客と作品との距離がとても近いように見え、美術館の監視員でさえも日常の一部として美術を享受し、私のような慣れない観客にも自然に気を配ってくれる…そんな印象を受けました。そのほか、現地に滞在していた友人の助けもあり、台湾グルメはもちろん、アジ美でレジデンス経験を持つ作家にも会うこともでき、存分に楽しんだ旅行でした。

研修で使用した画像の一部/アート台北2014の様子 (筆者撮影)

台北市立美術館(左上)、夜市(右上)、孔子廟(左下)、關渡(グァンドゥ)美術館(右下)など (筆者撮影)
ボランティア向けの研修で旅行の報告をしようと思ったのは、渡航後、思いのほか何人もの人に「報告会はしないの?」と聞かれたからです。今後の自身の活動の助けになればと、現地では写真をたくさん撮っていました。ただ、トークイベントなどを聴講することはあっても、これまで逆の立場の経験は実はまったくありませんでした。随分悩みましたが、自分の体験を話すことで、ボランティアの人々が美術の豊かさや面白さに改めて気付き、今後のボランティア活動の幅をさらに広げるきっかけになるのなら、私は喜んで話したい、伝えたいと思い、報告会をすることになりました。
研修での報告会の準備にあたり、企画に携わって下さった活動支援ボランティアの方のアドバイスが大変参考になりました。アジ美は、私が所属する案内・解説の他にも多様な活動グループがあり、ボランティア活動に応募したきっかけも、日頃から展覧会へよく出かける方から、絵本や子供、アジアの特定の国や地域が大好きな方まで、実にさまざまな方々と出会えるからです。ボランティアという同じ立場であっても興味や関心が異なること。こうした多種多様なボランティアの人々が、この台湾ARTの旅の報告を通して、例えば、気になった場所や作家について自発的に調べる、またあるいは、旅行を趣味とする方が渡航先で開催されるアートフェアや芸術祭の情報を自ら集め、旅行を計画する、などの具体的な行動に至るにはどうすればよいか。それらをヒントに、展覧会や作品の解説、説明を補う資料を決めていきました。

配布した資料~美術館名や展覧会名を一覧化したもの ※画像はクリックで拡大
例えば「アート台北」の報告では、「アートフェアって何?」という話から始めました。実際アートフェアに行ったことがあるか挙手をお願いしたら、ほとんど手が挙がらなかったんですね。報告会用の画像は、「アート台北」で個人的に印象に残った作品よりも、このフェアに出展していて、なおかつ当時開催中だった「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」や常設展で目にした作家を中心に準備し、解説を加えました。この時、作品と合わせて、「アート台北」の会場内のキャプションや画廊名を撮影したことが役に立ちました。アジ美でよく耳にする所蔵作家でも、収蔵当初とは作風が変化していたり、同じシリーズでもアートフェアの開催地や特性を踏まえた展示作品だったりと、渡航前に想像していた以上に数多くの作品を出会うことができました。もちろん、作家名が分からなかった作品もありましたから、研修の準備に際し、出展画廊のウェブサイトなどで調べた上でアジ美の学芸員にも確認し、できる限りどの国や地域のギャラリーで、どの作家が出品していたかを明確に伝え、今後のボランティア活動に役立ててもらえるように努めました。それらに加え、日本の画廊と九州を拠点に活動している地元作家も取り上げ、国内の展示情報なども交えながら紹介しました。研修に出席された方々は熱心に耳を傾けて下さり、特に所蔵作家の最近の作品には多くの方が大変興味深く拝見下さったようです。

研修風景 (写真提供:福岡アジア美術館)
台湾で撮影不可だった展示については、インターネットの配信動画で補いました。これは効果的だったようで、「自分でももっと探したい」と研修の感想に書いて下さった方もいました。そのほか渡航前に参考にしたガイドブックや現地で入手した図録、フライヤーを同会場内に設置しました。実際に自分の手に取ることで、「観たい」「知りたい」という動機の後押しにしたいと考えたのです。

ガイドブックや図録の設置した様子 (写真提供:福岡アジア美術館)
そして旅の話を終えた後に、9月4日から6日に福岡で初めて開催されたアートフェア、「ART FAIR ASIA / FUKUOKA 2015」について紹介しました。これは本当に偶然だったのですが、研修のなんと1週間後にこのフェアの開催が控えていたのです。「ART FAIR ASIA / FUKUOKA 2015」の企画に携わっていた地元作家の協力もあり、それまでの台湾ARTの旅の話から自然に関連付ける形で、告知を行なうことができました。最後は、「アジアの作家は近年、国内外を問わず紹介される場がますます増えている。ぜひ家族や友人とも一緒に足を運び、自分の肌で体感する機会を持ってほしい」という言葉でこの報告会をしめくくりました。
研修に出席された方々は本当に楽しんで下さったようです。研修の2時間で、日本に居ながらにしてすっかり台湾を旅した気分になった方も。中には、「次回旅行へ行く際は、アートフェアや芸術祭の情報もぜひチェックしたい」「堅い話ではなく身近な知り合いが話してくれた感じで、自分も行ってみたくなった」と感想を述べて下さった方もいました。
私自身も今回このような機会をいただいて、「鑑賞者」という立ち位置のままでも何か役割を担えるということを実感できたような気がします。一般のお客様と同じ目線で、自分が美術から得た喜びや感動を言葉に置き換え伝えるという役割。そういう人がもっと増えたらいいなとも思います。
私が報告会をするか迷っていた時、「音さんがしたいように自由にやっていいのよ」と背中を押して下さった学芸員の方に今でも心から感謝しています。これからも、「鑑賞者」という目線でお客様に寄り添い、作家や作品とつなげるお手伝いがさらに様々な形で広げられるように、自分自身の活動も模索を続けていければ幸いです。
プロフィール
高校、大学ともに美術系で、卒業後おさらいも兼ねて2009年から「美術検定」に挑戦し、2012年1級に合格。検定受験のためにそれまで苦手だった日本美術など様々な展覧会に足を運び、何を観ても面白いところを見つけられるようになりました。ちなみに所定の養成研修を終え、私がアジ美の案内・解説ボランティアとしてデビューしたのは2013年4月。仕事との両立が大変な面もありますが先輩ボランティアの方々はじめ、多くの人に励ましてもらいながら頑張っています。
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-156.html
国内の美術館には、学生の頃から夏休みなどを利用して足を運んでいました。が、アジ美にいるとやはり海外の美術館にも実際に行ってみたくなりまして…笑。そして今回、福岡からなら直行便も多く、2時間半で行ける台湾へ行ってきました。行き先を台湾に決めたのは、まったく初めての海外の美術館巡りだったこともあり、比較的安全な国か地域にと考えたからです。現地では右往左往することも多々ありましたが、台湾へ訪れた日本人が必ずと言っていいほど口にする、人の温かさや親しみやすい雰囲気が美術館にも漂っていたことにまず驚きました。観客と作品との距離がとても近いように見え、美術館の監視員でさえも日常の一部として美術を享受し、私のような慣れない観客にも自然に気を配ってくれる…そんな印象を受けました。そのほか、現地に滞在していた友人の助けもあり、台湾グルメはもちろん、アジ美でレジデンス経験を持つ作家にも会うこともでき、存分に楽しんだ旅行でした。

研修で使用した画像の一部/アート台北2014の様子 (筆者撮影)

台北市立美術館(左上)、夜市(右上)、孔子廟(左下)、關渡(グァンドゥ)美術館(右下)など (筆者撮影)
ボランティア向けの研修で旅行の報告をしようと思ったのは、渡航後、思いのほか何人もの人に「報告会はしないの?」と聞かれたからです。今後の自身の活動の助けになればと、現地では写真をたくさん撮っていました。ただ、トークイベントなどを聴講することはあっても、これまで逆の立場の経験は実はまったくありませんでした。随分悩みましたが、自分の体験を話すことで、ボランティアの人々が美術の豊かさや面白さに改めて気付き、今後のボランティア活動の幅をさらに広げるきっかけになるのなら、私は喜んで話したい、伝えたいと思い、報告会をすることになりました。
研修での報告会の準備にあたり、企画に携わって下さった活動支援ボランティアの方のアドバイスが大変参考になりました。アジ美は、私が所属する案内・解説の他にも多様な活動グループがあり、ボランティア活動に応募したきっかけも、日頃から展覧会へよく出かける方から、絵本や子供、アジアの特定の国や地域が大好きな方まで、実にさまざまな方々と出会えるからです。ボランティアという同じ立場であっても興味や関心が異なること。こうした多種多様なボランティアの人々が、この台湾ARTの旅の報告を通して、例えば、気になった場所や作家について自発的に調べる、またあるいは、旅行を趣味とする方が渡航先で開催されるアートフェアや芸術祭の情報を自ら集め、旅行を計画する、などの具体的な行動に至るにはどうすればよいか。それらをヒントに、展覧会や作品の解説、説明を補う資料を決めていきました。

配布した資料~美術館名や展覧会名を一覧化したもの ※画像はクリックで拡大
例えば「アート台北」の報告では、「アートフェアって何?」という話から始めました。実際アートフェアに行ったことがあるか挙手をお願いしたら、ほとんど手が挙がらなかったんですね。報告会用の画像は、「アート台北」で個人的に印象に残った作品よりも、このフェアに出展していて、なおかつ当時開催中だった「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」や常設展で目にした作家を中心に準備し、解説を加えました。この時、作品と合わせて、「アート台北」の会場内のキャプションや画廊名を撮影したことが役に立ちました。アジ美でよく耳にする所蔵作家でも、収蔵当初とは作風が変化していたり、同じシリーズでもアートフェアの開催地や特性を踏まえた展示作品だったりと、渡航前に想像していた以上に数多くの作品を出会うことができました。もちろん、作家名が分からなかった作品もありましたから、研修の準備に際し、出展画廊のウェブサイトなどで調べた上でアジ美の学芸員にも確認し、できる限りどの国や地域のギャラリーで、どの作家が出品していたかを明確に伝え、今後のボランティア活動に役立ててもらえるように努めました。それらに加え、日本の画廊と九州を拠点に活動している地元作家も取り上げ、国内の展示情報なども交えながら紹介しました。研修に出席された方々は熱心に耳を傾けて下さり、特に所蔵作家の最近の作品には多くの方が大変興味深く拝見下さったようです。

研修風景 (写真提供:福岡アジア美術館)
台湾で撮影不可だった展示については、インターネットの配信動画で補いました。これは効果的だったようで、「自分でももっと探したい」と研修の感想に書いて下さった方もいました。そのほか渡航前に参考にしたガイドブックや現地で入手した図録、フライヤーを同会場内に設置しました。実際に自分の手に取ることで、「観たい」「知りたい」という動機の後押しにしたいと考えたのです。

ガイドブックや図録の設置した様子 (写真提供:福岡アジア美術館)
そして旅の話を終えた後に、9月4日から6日に福岡で初めて開催されたアートフェア、「ART FAIR ASIA / FUKUOKA 2015」について紹介しました。これは本当に偶然だったのですが、研修のなんと1週間後にこのフェアの開催が控えていたのです。「ART FAIR ASIA / FUKUOKA 2015」の企画に携わっていた地元作家の協力もあり、それまでの台湾ARTの旅の話から自然に関連付ける形で、告知を行なうことができました。最後は、「アジアの作家は近年、国内外を問わず紹介される場がますます増えている。ぜひ家族や友人とも一緒に足を運び、自分の肌で体感する機会を持ってほしい」という言葉でこの報告会をしめくくりました。
研修に出席された方々は本当に楽しんで下さったようです。研修の2時間で、日本に居ながらにしてすっかり台湾を旅した気分になった方も。中には、「次回旅行へ行く際は、アートフェアや芸術祭の情報もぜひチェックしたい」「堅い話ではなく身近な知り合いが話してくれた感じで、自分も行ってみたくなった」と感想を述べて下さった方もいました。
私自身も今回このような機会をいただいて、「鑑賞者」という立ち位置のままでも何か役割を担えるということを実感できたような気がします。一般のお客様と同じ目線で、自分が美術から得た喜びや感動を言葉に置き換え伝えるという役割。そういう人がもっと増えたらいいなとも思います。
私が報告会をするか迷っていた時、「音さんがしたいように自由にやっていいのよ」と背中を押して下さった学芸員の方に今でも心から感謝しています。これからも、「鑑賞者」という目線でお客様に寄り添い、作家や作品とつなげるお手伝いがさらに様々な形で広げられるように、自分自身の活動も模索を続けていければ幸いです。

高校、大学ともに美術系で、卒業後おさらいも兼ねて2009年から「美術検定」に挑戦し、2012年1級に合格。検定受験のためにそれまで苦手だった日本美術など様々な展覧会に足を運び、何を観ても面白いところを見つけられるようになりました。ちなみに所定の養成研修を終え、私がアジ美の案内・解説ボランティアとしてデビューしたのは2013年4月。仕事との両立が大変な面もありますが先輩ボランティアの方々はじめ、多くの人に励ましてもらいながら頑張っています。
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