CINEMAウォッチ「ミケランジェロ・プロジェクト」「黄金のアデーレ 名画の帰還」
こんにちは。アートナビゲーターの深津優希です。久しぶりの「CINEMAウォッチ」、戦時中ナチスがユダヤ人から略奪した膨大な量の美術品に関する、実話に基づいた映画を二本ご紹介します。どちらも劇場公開中です!
盗まれた名作を追ってソルト・マインへ! 「ミケランジェロ・プロジェクト」
ジョージ・クルーニー主演の「ミケランジェロ・プロジェクト」は、ナチスによって奪われた500万点ともいわれる美術品を、米軍のとあるチームが救い出すというストーリーです。美術専門家によるチーム(ただし戦闘経験なし!)を結成し、美術品を追跡、奪還、元あった場所に戻すところまでを描いています。仲間同士からかいあう場面があったり、新兵訓練でひいひい言ったり、行く先々で上官に「命がけで戦っているのに、美術品のことなんか知るか!」と協力を拒否されたり、前線で戦う兵士とは異なる苦労が一部コミカルに描かれます。しかし作戦の途中で仲間が亡くなったり、たまたまみつけた負傷兵を救護テントに運んだものの怪我がひどすぎて助けられなかったり、やはり容赦なく人が殺される戦争のまっただ中にいるのだということを、チームのメンバーも、映画を観る者も、思い知らされます。
映画の日本語タイトルは、ブルージュのミケランジェロ作《聖母子像》からきています。物語では、この像の他に、ファン・エイク兄弟作《ヘントの祭壇画》が亡くなったメンバーの思い入れのある大切な作品として描かれます。美術品の隠し場所としてつきとめたソルト・マイン(岩塩鉱山)の中で、ぎりぎりまで粘ってなんとか奪還しようとします。祭壇画はソルト・マインに置かれていたことによる損傷をうけましたが、のちに修復されています。
美しい叔母の肖像画はオーストリアのモナ・リザ?「黄金のアデーレ 名画の帰還」
一方、アカデミー賞女優ヘレン・ミレン出演の「黄金のアデーレ 名画の帰還」は、戦時中ナチスによって不当に持ち去られた絵画を、戦後60年以上たってから取り戻すお話です。ミレン演じる主人公マリアは、グスタフ・クリムトが描いた叔母アデーレの肖像画を、正規の手続きなしにオーストリアが国の財産としていることに対し異議を申立て、返還を求め裁判を起こします。家族ぐるみの付き合いをしてきた友人の息子が弁護士だったことを思い出し、助けを求めます。この駆け出し弁護士の若者が、マリア同様に戦時中ナチスから逃れてアメリカに亡命した作曲家シェーンベルクの孫!というので音楽ファンもびっくりです。
叔母アデーレの肖像画の所有権はマリアにあるとされ、“オーストリアのモナ・リザ”とまでいわれた名作がアメリカに渡ることとなり、現在はニューヨークのノイエギャラリーに展示されています。美術作品はモノであり、所有者の意向でこうして移動することもあります。ウィーンで観るのと、ニューヨークで観るのと、この名画に何か違いはうまれるでしょうか?そんなことも考えさせられる映画です。
*****
実話に基づく映画二本、どちらもナチスが略奪した美術品を取り戻すお話を紹介しました。奪われた美術品の総数はあまりに膨大であり、ここに描かれたように無事に持ち主(の親族)に返された例は一部です。焼かれてしまったり、紛失したり、持ち逃げされて近年アパートからごっそり発見されたりもしました。美術史上の名作の中にはこうして数奇な運命をたどったものが多くあり、今も観ることのできる状態にあることは奇跡のように思えます。「戦争は人間の命を奪うだけではなく、人間が築いてきた文明をも破壊する」といった内容の言葉(ジョージ・クルーニーがプロジェクトのプレゼンで言っていますよ)が、頭に残っています。
◆映画オフィシャルサイト
「ミケランジェロ・プロジェクト」 http://miche-project.com/
「黄金のアデーレ 名画の帰還」 http://golden.gaga.ne.jp/
プロフィール
美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師など、色々なかたちでアートに関わっています。このブログではアートナビゲーターの活動記録のほか、アートが題材となった映画をご紹介しています。2016年は美術検定も再開するようです。楽しく準備しましょう~。
ジョージ・クルーニー主演の「ミケランジェロ・プロジェクト」は、ナチスによって奪われた500万点ともいわれる美術品を、米軍のとあるチームが救い出すというストーリーです。美術専門家によるチーム(ただし戦闘経験なし!)を結成し、美術品を追跡、奪還、元あった場所に戻すところまでを描いています。仲間同士からかいあう場面があったり、新兵訓練でひいひい言ったり、行く先々で上官に「命がけで戦っているのに、美術品のことなんか知るか!」と協力を拒否されたり、前線で戦う兵士とは異なる苦労が一部コミカルに描かれます。しかし作戦の途中で仲間が亡くなったり、たまたまみつけた負傷兵を救護テントに運んだものの怪我がひどすぎて助けられなかったり、やはり容赦なく人が殺される戦争のまっただ中にいるのだということを、チームのメンバーも、映画を観る者も、思い知らされます。
映画の日本語タイトルは、ブルージュのミケランジェロ作《聖母子像》からきています。物語では、この像の他に、ファン・エイク兄弟作《ヘントの祭壇画》が亡くなったメンバーの思い入れのある大切な作品として描かれます。美術品の隠し場所としてつきとめたソルト・マイン(岩塩鉱山)の中で、ぎりぎりまで粘ってなんとか奪還しようとします。祭壇画はソルト・マインに置かれていたことによる損傷をうけましたが、のちに修復されています。
美しい叔母の肖像画はオーストリアのモナ・リザ?「黄金のアデーレ 名画の帰還」
一方、アカデミー賞女優ヘレン・ミレン出演の「黄金のアデーレ 名画の帰還」は、戦時中ナチスによって不当に持ち去られた絵画を、戦後60年以上たってから取り戻すお話です。ミレン演じる主人公マリアは、グスタフ・クリムトが描いた叔母アデーレの肖像画を、正規の手続きなしにオーストリアが国の財産としていることに対し異議を申立て、返還を求め裁判を起こします。家族ぐるみの付き合いをしてきた友人の息子が弁護士だったことを思い出し、助けを求めます。この駆け出し弁護士の若者が、マリア同様に戦時中ナチスから逃れてアメリカに亡命した作曲家シェーンベルクの孫!というので音楽ファンもびっくりです。
叔母アデーレの肖像画の所有権はマリアにあるとされ、“オーストリアのモナ・リザ”とまでいわれた名作がアメリカに渡ることとなり、現在はニューヨークのノイエギャラリーに展示されています。美術作品はモノであり、所有者の意向でこうして移動することもあります。ウィーンで観るのと、ニューヨークで観るのと、この名画に何か違いはうまれるでしょうか?そんなことも考えさせられる映画です。
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実話に基づく映画二本、どちらもナチスが略奪した美術品を取り戻すお話を紹介しました。奪われた美術品の総数はあまりに膨大であり、ここに描かれたように無事に持ち主(の親族)に返された例は一部です。焼かれてしまったり、紛失したり、持ち逃げされて近年アパートからごっそり発見されたりもしました。美術史上の名作の中にはこうして数奇な運命をたどったものが多くあり、今も観ることのできる状態にあることは奇跡のように思えます。「戦争は人間の命を奪うだけではなく、人間が築いてきた文明をも破壊する」といった内容の言葉(ジョージ・クルーニーがプロジェクトのプレゼンで言っていますよ)が、頭に残っています。
◆映画オフィシャルサイト
「ミケランジェロ・プロジェクト」 http://miche-project.com/
「黄金のアデーレ 名画の帰還」 http://golden.gaga.ne.jp/

美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師など、色々なかたちでアートに関わっています。このブログではアートナビゲーターの活動記録のほか、アートが題材となった映画をご紹介しています。2016年は美術検定も再開するようです。楽しく準備しましょう~。
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