美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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アート de 近代建築 vol.1

こんにちは、アートナビゲーターのあおいです。
今回はいつものアート鑑賞とは少し趣向を変え、近代建物に目を向けた散策をしていきたいと思います。
東京都心の明治・昭和の建築を、午前中~ランチタイムで巡ります。
コンパクトなコースですから、気が向いたなら好日。
さっそく散策にでかけましょう。


東京国立近代美術館工芸館(月曜定休)

木立を抜けて顔を覗かせるのが、どこか懐かしい赤レンガの工芸館。人によっては、東京駅に似ているなと思うかもしれません。NHKで放送された「ゲゲゲの女房」では、主人公が東京駅へ降り立つシーンでロケに使われました。

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もとは帝国陸軍の近衛師団司令部庁舎(明治43年竣工)であった建物であり、重要文化財に指定されています。内部は損傷が激しかったことや、展示室として使うため、玄関周りと広間以外は改修されたそうですが、意外なところにかつての名残をとどめています。

gobosei それは外壁に見える通風孔。星のデザインの通風孔なんて、なんだか随分ポップですが、五芒星は帝国陸軍の帽章として使われていたもの。それで星があしらってあるのですね。
近代建築の通風孔はこのような凝ったデザインのものが多いので、建物を訪れた際はチェックしてみるとなかなか面白いですよ。

light1・2階ロビーの照明器具は資料が見つからず、同時代の旧日本生命九州支店のものを模して造られています。
本来はもっと簡素なものであったと推測されたものの、工芸美術館という性格を考慮してこのデザインが採用されました。


私が訪れたのは工芸館ガイドスタッフによる「タッチ&トーク」のある日でした(毎週水・土曜日の14:00~開催)。
参加するとガイドが聞けるだけでなく、工芸品に直接、手で触れることが出来ます。これは工芸の美術館ならではの貴重な機会ですね。
この日は人間国宝が手がけた陶磁器を手に取りました。
見ただけでは同じ色に見える2つの器も手触りが違ったり、とても大きな器なのにフワリと軽く持ち上げられてしまったり。見るだけでは感じえない体験ができるひと時でした。是非オススメ!


科学技術館(水曜定休)

工芸館を後にして、ここで早くも寄り道です。
今度は外壁全面に六芒星が並んでいる科学技術館…ではなく、その入口脇のミュージアムショップがお目当て。
こちらで扱っている品は一見、科学を身近に感じてもらうための子供向けグッズなのですが、これがなかなかどうして、大人でも十分楽しめそうなものばかりです(「ブロッコリーのDNA抽出実験キット」とか…)。
また、もはやアートと呼んでもいいような、かっこいい元素記号のTシャツなどもあります。


国立公文書館(土日祝日定休)

もと来た道を戻り、行きは素通りした国立公文書館へ。人の気配もなく冒しがたい雰囲気なのですが、なにしろ無料(!)なので気軽に入ってみましょう。
常設展は古書・古文書が中心でなんだか小難しそうですが、企画展はテーマによっては、小さなアート鑑賞の場になったりもします。
「百年前の教科書」展では当時の教科書の中に棟方志功の版画を発見!
ほか、重要文化財から選ばれた素敵な絵葉書や一筆箋も販売していますし、ソファがあるので休憩もできちゃいます。結構穴場かも?


学士会館・レストラン「ラタン」(月曜定休)

そろそろお腹も空いてきた・・・ということでお待ちかねのランチタイムです。
せっかくのアート散策ですから、食事も文化の香る場所で、と学士会館へ向かいます。

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学士会館(昭和3年竣工)は日本橋高島屋を設計したことでも知られる高橋貞太郎設計の国登録有形文化財です。
建物へ入る前に2階より上の外壁に張り巡らされたスクラッチタイル(引っかき傷を付けた素焼タイル)に注目してみましょう。
傷によってタイルの持つ均一性をあえて壊し、複雑な陰影を生み出すスクラッチタイルは昭和初期に大流行たものです。

その背景には20世紀の3大建築家のひとり、フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテルで、スクラッチれんがが使われたことがあります。旧帝国ホテルの開業日は大正12年9月1日でした。
そう、それは、まさに関東大震災の起こった日。開業早々とんでもない災難に見舞われてしまいましたが、被害自体はそれほどひどくなかったことから建築界では名声が高まり、この大流行をもたらしたと言われています。

もし趣のあるスクラッチタイルの建築に出会ったら、「この建物は昭和初期に建てられたのかな?」などと推測するのも街歩きの楽しみです。

ムンクの「叫び」のような「押」マークの扉をくぐり、いよいよ中へ。door

この建物はもともと、旧帝国大学出身者専用のクラブ施設だったそうですが、今では私たち一般人も利用できます(宿泊もできます。遠方からお越しの方は有形文化財に泊まるのも一興かと)。

latinフレンチレストラン「ラタン」はかつての談話室。ここで教授たちが紫煙をくゆらせていたかと思うと感慨深いものがあります。
天井の小梁、扁平アーチの暖炉といった英国チューダー様式のデザインや柱頭のアカンサス(葉あざみ)の装飾など、重厚感のある落ち着いた雰囲気が漂います。

しかし、料金はまるで反比例するかのようなお値打ち価格。
お昼のラタンコースはオードブル・メイン・パン・デザートにコーヒーまでついて1500円というコストパフォーマンス(ほか1200円と2000円のコースもあり)。

tang毎週火曜日はローストビーフ、金曜日はタンシチューが定番となっているそうで、この日は、いまや名物ともなっているタンシチューをいただきました。
5時間かけて煮込むというタンはとっても柔らか。
いつも12時にはほぼ満員になってしまうラタンが、金曜はさらに混む理由が分かった気がしました(なので早めの入店がベターです)。
料理長によりますとラタンは野菜にも力を入れているそうで、オードブルからしっかりお野菜が取れるメニューでした。
野菜本来の甘みが感じられ、素材からいいものを使われていることが実感できます。


高い天井の開放感、心地よい重みの銀食器にノリタケの器、そして手のかけられたお料理・・・独り占めするにはもったいないほどでしたが、ほかにも女性1人でランチをしているお客様を見かけました。
それはきっと、1人きりの贅沢な過ごし方を知ってる人に違いありません。
1人でふらりとアート散策に出かけたら、そんなランチも素敵ですね。

ついついおいしいものに心を奪われてしまいますが、暖炉の上に飾られている絵画にも心を留めてみてください。美術検定を受ける方であればおそらく知っているであろう(いや、知らなければまずい!)画家の1枚がここにあります。
ヒントは「新印象派」。答えは・・・ラタンにて。
(その絵を見る時は、くれぐれもほかのお客様のお邪魔にならないようご注意くださいね)。

学士会館には天井飾りや壁面装飾など、他にも見所がたくさんあります。
食後は館内めぐりも是非どうぞ。

arch garden
左/2階エレベーター前には立派なロマネスク風のアーチ。
右/5階の屋外庭園。ベンチもあり誰でも利用可能とのこと(ただし飲食不可!)。


*****

今回は近代建築に注目したアート散策でした。
散歩をしていると知らぬ間に歴史ある建物を訪れる機会も多いです。
その折、建物自体にもちょっと目を向けて歩くだけで、また別の世界が広がっていきます。


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プロフィール/学芸員の資格を持っている割に美術のこと、あんまり知らないかも・・・と、美術検定に挑戦。2008年に美術検定1級合格。興味は広範囲でアートといえる近代建築(明治~昭和初期の建物)にあり、ブログ「近代建築レストラン散歩」を作成。この秋から都内の西洋館にてボランティアガイドとしてデビュー予定です。

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