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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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魅力発見!「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」レポート

アートナビゲーターのいけだまさのりです。2016年9月17日から始まった「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」で見つけた魅力についてお伝えします。



本芸術祭は2016年の本年初めて開催され、県北の豊かな自然・歴史との対話と同時に、最先端の科学技術との協働がコンセプトになっています。
開催地域は、A.海側の北茨城・高萩エリア、B.海・山両方の日立・常陸太田エリア、C.山側の常陸大宮・大子エリアの3つに分けられます。3エリアを丁寧に回るのには3日がお勧めです。広い地域ですが、土日祝日であればエリア内で6方面をそれぞれ回る会場周遊バス(無料)、3エリアをそれぞれコンパクトに回るダイジェストツアーバス(有料)の利用が便利です。
会期当初で人気のエリアは、チームラボ作品展示の天心記念五浦美術館のあるAエリアで、次が日本三名瀑・袋田の滝があるCエリア、やや取り残されているのがBエリア、との現地ガイドの話です。今回は、A・Cエリアは未訪のためというのもありますが、まだ人気の出ていないBエリアを回って出会った思わぬ魅力をお伝えします。

最初に回ったのは、常陸国最古霊山の御岩神社です。最近はパワースポットとして注目されているようで、総祭神188柱には驚きます。明治の廃仏毀釈でいくつか御堂は壊されたものの、今も仏像が大事に残されているのが珍しく、御岩神社内にある斎神社には大日如来像、阿弥陀如来像が安置されています。
そんな斎神社の天井に、岡村美紀が寺院の法堂によく描かれる雲龍図をダイナミックに描き込んでいるのには一見の価値ありです。また、神社の森に透明な素材が浮遊する森山茜の作品は、古代から伝わる霊気を可視化させるかのようです。

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斎神社の天井に描かれた岡村美紀「御岩山雲龍図」

次に向かったのが日鉱記念館です。1981年に閉山した日立鉱山の歴史をとどめるために1985年に開館し、戦前からの鉱山機械や建物が残されているのと同時に、コンクリート造りの水平なラインが美しい本館は昭和のモダニズムの香りです。
その館内に展示されたタクシナー・ピピトゥクルの組み立て作品は、ガラス越しに見える残された鉱山重機の存在を浮き立たせていました。

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タクシナー・ピピトゥクル「Playable Sculpture」

また常設展示で、ヤマの暮らしで鉱夫たちの互助制度であった山中友子(※1)が紹介されています。これが、後述のアートハッカソンKMSIの作品制作のインスピレーションを生み出します。

次は、水府地区松平町休耕地に多数設置された井上信太の動物パネル作品です。周囲から岬状に浮き上がった土地に動物たちがあちこち闊歩し、取り囲む地形のパノラマに視野が広がります。この県北一帯は茨城県北ジオパークになっており、日本最古の5億年前の古生代の地層から中生代、新生代まで、段丘や低地、台地、山地など様々な地層が積み重なっています。四半世紀前の1991年に、クリスト&ジャンヌ=クロードがこの常陸太田の地形に着目し、アンブレラ・プロジェクトが行われたとの逸話も偲ばれます (そのアンブレラ・プロジェクトのドキュメンテーション展「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」は、12月4日まで水戸芸術館で開催中)。

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井上信太「ART ZOO」:サファリパークプロジェクトin 常陸太田

また旧常陸太田市自然休養村管理センターの建物も、昭和モダンのコンクリートの造形に目を魅かれます。館内では、納豆に代表される発酵文化をテーマにバイオアートの作品がいくつか展示され、改めて生命と物質との関係を考えさせられます。

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旧常陸太田市自然休養村管理センターの外観

さらに、やはり戦前に建てられた常陸太田市郷土資料館梅津会館(旧太田町役場)では、深澤孝史が想像上の自治体「常陸佐竹市」を構想するプロジェクト「佐竹力・常陸佐竹市宣言展示」に惹きこまれます。平安末期まで遡り常陸守護であった佐竹氏が、関ケ原の戦いに敗れ秋田に転封された後も、今につながるその影響力の歴史をフィーチャーしています。佐竹氏といえば秋田佐竹藩、秋田蘭画と連想してしまうのですが、その前史に常陸があったのは目からウロコです。
転じて、常陸多賀駅前商店街の空きビルスペースに、前述のKMSIが「A Wonder Lasts but Nine Days-友子の噂-」と題して、旧塙山キャバレーを介して鉱山に生活を求めた人々の記憶を掘り起こしています。
この他、日立駅周辺の米谷健+ジュリアのシャンデリア、テア・マキパーのバイオトープバス、村上史明の風景幻灯機など、自然科学、生命科学とアートの豊かな出会いを感じる作品に出会えます。

以上のように、Bエリアだけでも、歴史、科学、自然の様々な視点から県北地域の魅力をアーティストが掘り起こし、作品化しているのにワクワクさせられます。エリアを絞って1日だけでも十分楽しめます。なお、公式ガイドブックが芸術祭のコンセプトや個々の作品鑑賞の手がかりにとても参考になります。気持ちのよい秋の季節、ぜひお出かけください。

(※1) 徒弟制度と共済制度とをあわせもったもので、友子の免状を持つ者は他の鉱山、炭鉱に行っても、一定の作法に従って挨拶をすれば、そこでの就職斡旋、旅費、見舞金などを受けることができた。


「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭 ~海か、山か、芸術か?~」
会期:2016年9月17日(土)~11月20日(日) [65日間]
開催市町:北茨城市、高萩市、日立市、常陸太田市、常陸大宮市、大子町
詳細URL:https://kenpoku-art.jp/



プロフィール
2005年に第1回目のアートナビゲーター1級(美術検定1級の前身)に合格。会社員の傍ら週末は美術館に通っていたので試験にチャレンジ。合格後は、都内の美術館で現代美術のボランティアガイドに挑戦したり、アートを通して現在の仕事(社内教育関係)にも多様な視点を得て取り組み中です。

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