CINEMAウォッチ「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」
こんにちは。アートナビゲーターの深津優希です。現在公開中の美術館ドキュメンタリー映画「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」をご紹介します。舞台はオーストリアにあるウィーン美術史美術館です。このブログでも、「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」 「みんなのアムステルダム国立美術館へ」「パリ・ルーヴル美術館の秘密」といった美術館ドキュメンタリーを紹介してきました。他にも記憶に新しいところでは、4K3Dの映像で話題となった「ヴァチカン美術館 天国への入り口」などがあります。美術館ドキュメンタリーに共通する魅力についても考えてみました。
世界の美術館にカメラが潜入~行ったつもりで楽しめる
ふだんあまり美術館へ足を運ばない人も、海外旅行先では有名な美術館に行くという話をよく聞きます。重要な観光資源でもある世界の美術館を、日本に居ながらにして美しい映像で体験できることが、美術館ドキュメンタリーの魅力のひとつではないでしょうか。以前に行ったことのある人は懐かしく思い出すことができますし、まだの人はいつか実際に訪ねることを夢見ながら楽しめます。そして前述のアムステルダムやルーヴルの映画と同様、この「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」も、美術館の改装のタイミングで館内にカメラが入り、大掛かりな工事、作品修復、展示替えの作業などを記録しています。つまり普通は入れないようなバックヤードまで覗けるのです。お得でしょう?
魅力的な役者がそろう~働く人々の姿と、作品の姿
お芝居ではなくドキュメンタリーですが、役者はそろっています。美術館で働く様々な職種の人たちの声に耳を傾け、彼らが扱う超一級品の絵画や彫刻、工芸などの姿も様々な角度から眺めることができます。しかも映画館の大画面で、というのが嬉しいですね!
今回私の印象に残ったお仕事シーンをいくつかご紹介すると、まずは馬車博物館館長がオークションに臨むシーン。狙っていたピースを一つも落札できずに悔しがる様子から、予算内で良いものを揃え展示をより豊かに展開することの難しさをうかがい知ることができます。また、「長年働いてきたが、館のクリスマスパーティーなどがあっても他部署の人に紹介されたことは一度もない。リニューアル後は紹介されるのかしら?私たちは最下層なんかじゃなく、一人一人みんな重要なスタッフよ。」というのはお客様係のスタッフによる会議での発言。耳触りのいい「スタッフ一丸となって」みたいなスローガンだけじゃなく、本当にスタッフ同士がつながりをもち尊重しあうことは、どんな職場でも大事なことですね。スタッフの努力に任せるだけでなく、組織として健全な交流が生まれる仕掛けなどを考えたら職場はもっと楽しくなるはず。
それから、リニューアル告知のCMをつくるにあたりスタッフが投げかけた「古いのは建物と収蔵品だけ」という言葉も心に残りました。500年前の作品を現代の私たちが観ることの意味、観た後の人生にどんな変化が起こるだろうか、そんなことを意識して展示を行なうのです(これは観る側としても意識したいと思いました。)具体的には新しい試みとして、ある展示室の照明を現代アーティストのオラファー・エリアソンに発注しており、その意外性にワクワクしました。いつか実際に観てみたいです。
なんといっても絵になる舞台~建物自体の魅力と工夫にあふれた展示空間
先に挙げたようなスタッフの人間模様は面白いとはいえ決して派手なものではありません。それだけだったら正直なところおうちでDVDでもいいかな~というところです。それでも映画館の大画面で観てほしいと思う理由は、やはり豪華な舞台、ウィーン美術史美術館の歴史的な建物を活かした展示空間を、映像によって疑似体験できるからです。天井の高いホールに、現代アーティスト(前述のエリアソン)作のシャンデリアが設置され、その下に収蔵品を展示する様子は、観に行かなくちゃ! と思わせます。
またリニューアル・オープンのイベントでの演奏が吹き抜けの空間に響く様子も、この場所ならではの魅力でした。大画面で作品や展示空間を堪能できる点については、前述の他の美術館ドキュメンタリーについても同じことが言えます。
美術館ドキュメンタリーはいくつもありますが、せっかくなので劇場公開中の「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」を体験してみてはいかがでしょうか?そのあとは、ぜひ他の作品についてもDVDをチェックしてみてくださいね。
◆映画オフィシャルサイト
「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」 http://thegreatmuseum.jp/
◆参考
オラファー・エリアソン http://www.olafureliasson.net/
原美術館(2005~2006年)、東京都現代美術館(2009~2010年)、森美術館(2015年)などで作品が展示されました。映画館に行く前に、エリアソンの作品写真をすこし眺めておくと、「こんな作風があの建物にどうやってなじむのかな?」などと想像が膨らみます。
◆過去の記事
CINEMAウォッチ「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-177.html
CINEMAウォッチ「みんなのアムステルダム国立美術館へ」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-174.html
CINEMAウォッチ「パリ・ルーヴル美術館の秘密」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-141.html
プロフィール
美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。
ふだんあまり美術館へ足を運ばない人も、海外旅行先では有名な美術館に行くという話をよく聞きます。重要な観光資源でもある世界の美術館を、日本に居ながらにして美しい映像で体験できることが、美術館ドキュメンタリーの魅力のひとつではないでしょうか。以前に行ったことのある人は懐かしく思い出すことができますし、まだの人はいつか実際に訪ねることを夢見ながら楽しめます。そして前述のアムステルダムやルーヴルの映画と同様、この「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」も、美術館の改装のタイミングで館内にカメラが入り、大掛かりな工事、作品修復、展示替えの作業などを記録しています。つまり普通は入れないようなバックヤードまで覗けるのです。お得でしょう?
魅力的な役者がそろう~働く人々の姿と、作品の姿
お芝居ではなくドキュメンタリーですが、役者はそろっています。美術館で働く様々な職種の人たちの声に耳を傾け、彼らが扱う超一級品の絵画や彫刻、工芸などの姿も様々な角度から眺めることができます。しかも映画館の大画面で、というのが嬉しいですね!
今回私の印象に残ったお仕事シーンをいくつかご紹介すると、まずは馬車博物館館長がオークションに臨むシーン。狙っていたピースを一つも落札できずに悔しがる様子から、予算内で良いものを揃え展示をより豊かに展開することの難しさをうかがい知ることができます。また、「長年働いてきたが、館のクリスマスパーティーなどがあっても他部署の人に紹介されたことは一度もない。リニューアル後は紹介されるのかしら?私たちは最下層なんかじゃなく、一人一人みんな重要なスタッフよ。」というのはお客様係のスタッフによる会議での発言。耳触りのいい「スタッフ一丸となって」みたいなスローガンだけじゃなく、本当にスタッフ同士がつながりをもち尊重しあうことは、どんな職場でも大事なことですね。スタッフの努力に任せるだけでなく、組織として健全な交流が生まれる仕掛けなどを考えたら職場はもっと楽しくなるはず。
それから、リニューアル告知のCMをつくるにあたりスタッフが投げかけた「古いのは建物と収蔵品だけ」という言葉も心に残りました。500年前の作品を現代の私たちが観ることの意味、観た後の人生にどんな変化が起こるだろうか、そんなことを意識して展示を行なうのです(これは観る側としても意識したいと思いました。)具体的には新しい試みとして、ある展示室の照明を現代アーティストのオラファー・エリアソンに発注しており、その意外性にワクワクしました。いつか実際に観てみたいです。
なんといっても絵になる舞台~建物自体の魅力と工夫にあふれた展示空間
先に挙げたようなスタッフの人間模様は面白いとはいえ決して派手なものではありません。それだけだったら正直なところおうちでDVDでもいいかな~というところです。それでも映画館の大画面で観てほしいと思う理由は、やはり豪華な舞台、ウィーン美術史美術館の歴史的な建物を活かした展示空間を、映像によって疑似体験できるからです。天井の高いホールに、現代アーティスト(前述のエリアソン)作のシャンデリアが設置され、その下に収蔵品を展示する様子は、観に行かなくちゃ! と思わせます。
またリニューアル・オープンのイベントでの演奏が吹き抜けの空間に響く様子も、この場所ならではの魅力でした。大画面で作品や展示空間を堪能できる点については、前述の他の美術館ドキュメンタリーについても同じことが言えます。
美術館ドキュメンタリーはいくつもありますが、せっかくなので劇場公開中の「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」を体験してみてはいかがでしょうか?そのあとは、ぜひ他の作品についてもDVDをチェックしてみてくださいね。
◆映画オフィシャルサイト
「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」 http://thegreatmuseum.jp/
◆参考
オラファー・エリアソン http://www.olafureliasson.net/
原美術館(2005~2006年)、東京都現代美術館(2009~2010年)、森美術館(2015年)などで作品が展示されました。映画館に行く前に、エリアソンの作品写真をすこし眺めておくと、「こんな作風があの建物にどうやってなじむのかな?」などと想像が膨らみます。
◆過去の記事
CINEMAウォッチ「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-177.html
CINEMAウォッチ「みんなのアムステルダム国立美術館へ」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-174.html
CINEMAウォッチ「パリ・ルーヴル美術館の秘密」
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-141.html

美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。
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