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森美術館「ラーニング・ウィーク」レポート 第1回

こんにちは、「美術検定」実行委員会事務局です。
今回は、先月、森美術館が主催した「ラーニング・ウィーク」について、その先陣を切った国際シンポジウム「現代美術館は、新しい『学び』の場となり得るか? エデュケーションからラーニングへ」を中心に、2回に分けてレポートをお送りします。


去る2月13日、翌日から開催される森美術館「ラーニング・ウィーク」に先駆けて、同館国際シンポジウム「ART & LIFE 現代美術館は、新しい『学び』の場となり得るか? エデュケーションからラーニングへ」が開催された。

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撮影:御厨慎一郎 画像提供:森美術館

会場となったアカデミーヒルズには、250名の定員を大幅に超える420名が詰めかけた。月曜日の午前中から夕方までという長時間のシンポジウムにもかかわらず、美術関係者はもちろん、一般の社会人や学生も多く集まるという大盛況ぶりを示した。「テーマへの関心度の高さが表れたのでしょう。すでに国内の美術館ではさまざまな教育プログラムが実施されており、その次は、という興味や関心もあるのでは」、と同館ラーニング担当リーダーの高島純佳さんは話す。

高島さんによると、このシンポジウムは、同館のみならず美術や美術館における「ラーニング」とはどういうものかを、パネリストとさまざまな美術館、観客が「一緒に考える」端緒になればという呼びかけを主眼に置いたものだったそうだ。また、同館としては、いわば現代美術のキュレーションの根幹に「ラーニング」という思想を位置づけ、今までの教育普及活動を再定義し、今後の活動を展開していくという意思表示も含めていたという。

日本の多くの美術館では、もともと展示を主担当とする「学芸」ありきで、「教育普及」はそれに付随したプログラムを企画・運営する色が濃かったように思われる。2000年以降、美術館は社会の要請に応えるように、その枠組を少しずつ変化させてきた。2003年に開館した森美術館は、開館当時から現代美術の潮流を見据え、「教育普及」部門の呼称を「パブリック・プログラム」とし、美術館のプラットフォーム化を図るべく、多くの活動を実践してきた現代美術館である。現在の同館では、ラーニング担当は学芸部の一部である。
今回、シンポジウムの各セッションでモデレーターを同館チーフ・キュレーターの片岡真実さんが務めていたのは、「ラーニング」がもはや美術館の「教育普及」の枠に留まるものではなく、美術館全体のミッションであるという同館の姿勢を示す意味もあったそうである。

今回のシンポジウムは、イントロダクションに続き、基調講演が3つ、それに基づくセッション1、セッション2、全体統括という構成で進められた。


基調講演1〜3「ラーニング」の先進事例紹介

今回のシンポジウムは、2014年から3年がかりで計画されていたという。まずは、現代美術のフィールドで活躍するアーティストたちの実践や表現の拡張、社会情勢、SNSの発達に伴うコミュニケーションの変化など、美術館と観客を巡る環境変化などがイントロダクションとしてまとめられた。

2_tate基調講演1では、「ラーニング」を実践する現代美術館として、イギリスのテート・モダンの活動が、同館ラーニング・ディレクターのアナ・カトラーさんによって紹介された。同館の場合は、まず、社会学者や教育学者などと、美術館における「ラーニング」と「エデュケーション」を定義することから始めたというエピソード、観客がアートや美術館と関わることで体験的に構築していく学び、美術館側も観客と関係を持つことで創造する双方向の学びという、現在の活動のコンセプトなどが語られた。さらに、同館スウィッチ・ハウスに設けられたスペースで行われている実験的なラーニング・プログラム「Tate Exchange」で起きていることがレポートされた。カトラーさんが講演中に何度も繰り返したのは、美術館によって置かれた社会状況や役割、課題が異なり、館ごとに「ラーニング」の考え方や方法論を創造することが重要、ということだった。


基調講演2は、1970年代より社会問題を採り上げ、インスタレーションや映像などで表現した作品を発表し続けるアーティスト、スザンヌ・レーシーさんが自身のプロジェクトを紹介。高齢女性たちの社会的な地位向上を趣旨に、ニューヨークとテート・モダンで行った《クリスタル・キルト》、女性に対する暴力をテーマにエクアドルで行った《De tu Puno y Letra(女性からの手紙)》という2プロジェクトが紹介の中心だった。講演では、どちらも市民がパフォーマンスを担うプロジェクトであり、彼らとプロジェクトを体験した観客たちが問題を意識化・共有化するプロセス、そこから芽生えた行動の変化について、また、プロジェクトを実現するために美術館が果す役割と課題などが報告された。

基調講演3では、ニューヨークのグッゲンハイム美術館が2015年からスタートさせた「A Guggenheim Social Practice Project」が、同館パフォーマンス&メディア・キュレーターのナット・トロットマンさんによって紹介された。もともと同館はコレクションである抽象表現作品やコンセプチュアル・アートを観客にどのように見せるか、どのように伝えるか、また子どもたちの学びに現代美術を結びつけるような、社会的なプログラムを推進してきた館でもある。パフォーマンス作品もコレクションしており、それらを使って、いかに社会にコミットメントできるかという取り組みとして始めたのが、今回紹介されたプロジェクトなのだそうだ。アーティストたちが行ってきたパフォーマンスを端緒に、キュレーターとエデュケーターが一緒に立ち上げたという。同時に、このプロジェクトは、美術館を認知していない人々の層に、同館がどのような形や方法でもって関わることができるか、という課題にも挑戦するものだそうだ。講演では、ニューヨーク市のラテン系やアフリカ系住民をはじめ、店舗や刑務所、教会などさまざまなコミュニティをパートナーとして、イベントなどを計画している様子が語られた。アーティストは美術館とコミュニティとの間でファシリテーター役として活動していること、同館が作品の1つの素材として認知されていくプロセスなども報告された。


セッション1「現代アートと社会:アーティストたちの実践から」

NPO法人アート&ソサエティ研究センター代表の工藤安代さんによる「日本のソーシャリー・エンゲージド・アートの潮流」についてのイントロダクションをはさみ、セッション1が始まった。

3_session1このセッションでは、まず、コミュニティと関わるプロジェクトで知られるアーティストのN・S・ハルシャさん(現在同館で展覧会開催中)、ユーモラスな切り口で社会問題にアプローチするアーティストのペドロ・レイエスさん、アーティスト主導で住民運動を成功させた「パーク・フィクション」主宰者マルギット・ツェンキさんとクリストフ・シェーファーさんが、それぞれの活動を紹介した。その後、基調講演を行った3人が加わり、モデレーターの片岡さんとともにディスカッションを行った。


モデレーターの「アーティストとの実践と美術館の関係についてどう考えるか」という問いに対し、アーティストからは、「美術館はコミュニティとのコネクションを常に持っている。社会に関わるプロジェクトは複雑になりがちだが、美術館がその間をつないでくれることがある」「メディアは一過性のものだが、制作や永続的実践を認めてくれるのは美術館のみ」と、一定の役割を担うという意見が出されていた。一方で、「パフォーマンスをどう美術館に収めるかは課題だと思う」「非物質的なものに価値付けするアートや美術館を、資本主義が羨ましいと思うことから、(上流層による)美術館の評価ができてきたのではないか。SNSの発達で制作者としてのアーティストの特権があいまいになってきた今、美術館はアートの集積所になっていくだけかも」といった厳しい意見も交わされた。さらに、美術館に内包された「管理」的側面を指摘する声、社会課題を扱うプロジェクトを進行する上で、行政や主義主張の異なる団体との交渉の難しさなども、テーマを深める中で語られていた。

また、「アーティストとしての表現と社会の代弁者としての境目でどんな現象が起きるか」という問いかけには、「批判は内省的に受け止める。できるだけ多くの人と仕事をすることが相互理解につながる」「私たち自身が主観をもつことが重要では。テーマは社会がつくったものの場合もある」という声が挙がった。さらには「社会に存在するリソースを使ってプロジェクトをつくる。(周囲からの反響は)常にそのリソースに源があると考えている」「自分の場合は、仕事のプロセスを考えてテーマを設定する。必然的に周囲からのフィードバックやさまざまな人々とのコミュニケーションがなくては成立しない」、などの最初からアーティストが選ぶテーマと社会との関わりから、さまざまな批判が前提となる現代美術のアート・プロジェクトについての発言が行き交った。(次回へ続く)

※掲載画像は全て=撮影:御厨慎一郎 画像提供:森美術館

取材・文/染谷ヒロコ(本ブログ編集)

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