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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

「美術検定」のオフィシャルブログです。

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「折り紙で辿る美術史」セミナーワークショップレポート

アートナビゲーターの三瓶望美です。美術検定ブログへは初寄稿となります。
今回は、2017年6月17日に美術出版社で開催された「折り紙で辿る美術史」セミナーワークショップについてレポートさせて頂きます。
美術史の講座やセミナーと言えば、講師の話をひたすら聴く受け身なイメージが強かったのですが、折り紙という能動的な要素が加わるとどんな内容なのか、そんな興味に惹かれての参加でした。



まずは、今回講師を務められた絵画教室ルカノーズ主宰・三杉レンジさんの活動、美術史との向き合い方のお話がありました。東日本大震災被災者の方々が描いた菩薩様を千体飾る「千人仏プロジェクト」、自画像を口頭の指導のみで具象的に描けるようにする絵画教室での指導、そして様々な時代の女性の肖像画が小さく印刷された紙を双六のように年表に並べる作業。

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自身の活動と美術史の向き合い方を話す三杉レンジさん

共通しているのは手を動かすこと。これは、私自身カリグラフィーの講師として大変勉強になりました。
アルファベットの歴史も、アートの歴史同様、時代の移り変わりと密接に関わっています。
パピルスと葦ペン、羊皮紙と羽ペン。それぞれにあった形が生まれてきました。中世時代は、垂直線で構成されたゴシック体が主流であり、どこか当時の建築物を思わせます。ルネサンスに入ると、中世以前の書体がお洒落と見直されました。バロックに入ると装飾華美、ロココで洗練され、産業革命を過ぎると印刷物が身近になり、タイプライターの出現などでキレイに手書きする必要性が減りました。現在は、多くの情報と道具があるものの、表現方法としては過去の踏襲か、字か絵か分からない抽象か。

カリグラフィーの世界でも、なるべく混乱せず勉強した様々な書体を作品に活かすには、歴史を知る必要があります。背景をヒントに、どんな作品を作るか模索できるからです。ですが、レッスン中に歴史の話を始めた途端居眠りする人、世界史が嫌いだから書体の話も興味がないという人…歴史嫌いの人は案外多いと実感しています。

それでも三杉さんの活動内容と以下の言葉は、美術史に多くの人の目を向けさせるヒントが隠れていそうです。

 「美術史は戦争のような同じ過ちは繰り返さない」
 「美術史は連載継続中の物語」

前者は、美術史と世界史の勉強とは違うことを簡潔に表現した、力強い言葉です。
後者は、過去の巨匠たちの研究を踏まえ、展開と反動を繰り返し進化するということだそうです。

そしてセミナーの後は、いよいよ私たち参加者が折り紙でこの言葉を実践するワークショップです。

43.5×22cmの紙を台紙とし、色とりどりの7.5cmの折り紙を加工していきます。
三杉さんのお手本から、例えば美術史の流れを意識するなら、丁寧に仕上げた折り鶴はルネサンス、垂直に折り目を沢山入れたらモンドリアンなど、自由な発想で良いとは分かりましたが、台紙に貼る際は一枚ずつ折り紙の加工方法を変えなくてはいけません。

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ワークショップでの制作風景

私は「制限」を設けて、その中で表現しようと決めました。何でもOK、というのは案外考えがまとまらないものです。殆どのアートも、何かしらの制限の中生まれてきているのではないでしょうか。
まずは参加者の一員として、時間の制限。作業時間は小一時間程度、ボーッとしている間はありません。
次に道具の制限。携帯用の裁縫セットを持っていたので、針と紙を切るには使い辛い小さなハサミを使いました。針は一針ずつ刺して、折り紙にらせん状の模様を入れました。ハサミは折り紙を外側から細く切り、ひも状に伸ばしたり、“I Love You”と書いてみたり、切り刻むのに使いました。
作業の結果出た紙屑も作品の一部に。ごみは出さない、という制限です。紙をちぎれそうになるギリギリまでぐしゃぐしゃにする。限界までのチャレンジです。
タイトルは「海の中でプロポーズ」。折り紙の抽象的な形から何を意味するのか、自由に空想してもらう。作りながら体の中から湧き上がってきたアイディアです。5パターンの折り紙を、台紙に貼って仕上げました。

最後は、全員の作品を並べて1人ずつ作品解説です。ご自分の名前を表現した方、現代のアート状況の混沌さを表現した方、指輪が出来るまでの工程を表現した方。台紙に切り込みをいれてしまう前衛的な作品、目を閉じた状態で作った作品。

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(左)それぞれが折り紙で美術史を辿った  (右)三瓶さんの作品を講評する三杉さん

アイディアをひねり出すには、美術史の知識を総動員して必要なものを引っ張りだす過程が必要だ、と皆さんのお話を聴いていて確信しました。 私個人は、「こういうのがコンセプチュアルアートというのかな」「これを台紙に貼らず天井から吊るしたらキネティックアートだな」「考えるの疲れてきたから何もしないで、もの派と言っちゃおうかな」と、美術検定の勉強で覚えた言葉が頭の中を駆け巡りました。

これが「連載継続中」のワンシーンなんですね。

美術史を勉強する際、今回のように折り紙などで形を模索すれば、暗記だけより深く覚え、アウトプット(人に伝える、創作する)もスムーズになる気がしました。
興味がある方は、ぜひ折り紙を手に取ってみて下さい。不器用とか絵心ないとか関係ありません。
きっと小さなアートが生まれますよ!


プロフィール/三瓶望美(ミカメノゾミ)。2013年美術検定1級合格。
カリグラファー、署名デザイナー。「初心者のためのカリグラフィー講座 カリグラフィーパラダイス」を運営。
http://www.nozomistudio.com/callipara

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