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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

「美術検定」のオフィシャルブログです。

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大和市「対話による美術鑑賞」~“やまとアートシャベル”の活動

アートナビゲーターの保坂朱実です。初めて寄稿いたします。 
私の住んでいる神奈川県大和市で始まった「対話による美術鑑賞」事業が、2017年の今年6年目を迎えました。以前、当ブログでも「始動!大和市鑑賞教育プロジェクト」、その後「大和市「対話による美術鑑賞」教育プロジェクトVol.2~実践見学レポート」と紹介されていますが、今回は大和市「対話による美術鑑賞」ボランティアの“やまとアートシャベル”2期生の一人として、ボランティアの立場から現在の活動をレポートさせていただきます。 


大和市の「対話による美術鑑賞」事業は、2012年、美術鑑賞を通じて子どもたちの感性を高め、豊かな情操を養うとともに観察力や思考力、コミュニケーション力、考え続ける力の育成を目的に、大和市・教育委員会・学校・市民・アートNPOの協働事業という形で実現し、地元ぐるみで子どもたちの生きる力を育む教育プロジェクトとしてスタートしました。
本プロジェクトの鑑賞プログラムの開発・実践・運営等は、アート・デリバリー事業等でも実績のあるNPO法人芸術資源開発機構(以下、ARDA)の専門的知識によって支えられています。この「地域の協働」による教育プロジェクトは、東京都の西東京市や杉並区でも実施されていて、「アートわっか・すぎなみ」の活動については当ブログでもアートナビゲーターの小幡さんが紹介しています。

大和市「対話による美術鑑賞」はニューヨーク近代美術館で開発されたVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ)の鑑賞手法が用いられ、ARDAの講師、三ツ木紀英さんによる研修を受けたボランティアチーム・やまとアートシャベルが中心となって、授業を実施しています。ボランティアの募集は今年で6回目となり、1期生から6期生の登録人数は合計59名となりました。ボランティアは子どもたちから“シャベラーさん”と呼ばれています。名札についているシンボルマークは、シャベラーで表現家の襟草丁(Erikusa Tei)さんのデザインで、子どもたちにとても人気があります。
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アートシャベルのシンボルマーク

シャベラーの研修は、学校での授業デビュー前だけでなく、その後も随時フォローアップ研修を受け、アートカードゲーム、VTSの練習を重ねています。またシャベラー同士で自主練習も行なっています。シャベラーは年齢も様々ですし、仕事や子育てをしているメンバーも多いのですが、意欲的で明るい方が多く、お互い学び合う仲間として楽しく活動しています。

2017年度も、大和市内全小学校19校(2014年より全小学校)で授業が実施されます。「教室授業型」と「教室授業+美術館訪問授業型」と2つあるタイプのうち、「教室授業型」は10校、「教室授業+美術館訪問授業型」は9校です。
活動の時は、「今日はどんな子たちかな?どんな会話が生まれるのかな?」と期待いっぱいで授業に向かいます。また、今日の授業が子どもたちにとって豊かな経験や学びに少しでも繋がるように貢献したい、という気持ちから身が引き締まります。教室での授業は1クラス2時限を1単位としていて、1回の授業に10人以上のシャベラーが入り、子ども一人ひとりとやり取りできる体制です。
1時限目は「アートカードでゲーム」です。子どもたちはアートカードを使ったゲームで作品をよく見たり、感じたこと発見したことを言葉にしてみながら、自然に鑑賞の視点を見つけるようになっていきます。
2時限目は「対話による鑑賞」、クラスの半分の人数で2作品を電子黒板で鑑賞します。子ども一人ひとり、作品との向き合い方、言葉での表現のしかたはそれぞれですが、意見を出し合い、聞きあうことで作品をさまざまな視点から見ることや、伝え合う楽しさを感じているようです。

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アートカードを使った教室での授業

大和市は公立美術館を持たないので、美術館への訪問授業というと近郊の美術館での授業となります。教室での授業で、子どもたちが本物を見たい!という気持ちが大きくなっているところでの美術館の鑑賞授業なので、移動で少し疲れているはずですが、子どもたちは目を輝かせて美術館体験、作品鑑賞をしています。

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美術館を訪問し、実際の作品を前に鑑賞

授業がはじまると、最初静かだった子どもたちが、どんどん意欲的に作品を見ておしゃべりしてくれるようになったり、普段意見を言わない子が積極的に意見を言っている姿に、担任の先生が驚かれることがよくあります。
私自身VTSのファシリテーションはまだまだ勉強中で、なかなか状況に合わせたりできないのですが、毎回、子どもたちの見る力と友達と情報のやり取りをしながら考えを深めていく力に助けられています。 そのような子どもたちの変化を感じることが自分にとって喜びとなっているのですが、さらに後日、クラスごとに子どもたちから可愛いお手紙をたくさんもらいます。子どもたちからのお手紙は、シャベラーの活動の大きな励みとなっています。

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子どもたちからの手紙は活動の励みに

また認知心理学、教育心理学、臨床心理学等に基づいた「対話による美術鑑賞」について、学校の先生方の関心が年々高くなっているように感じます。授業での実際の子どもたちの様子から、「対話による鑑賞」を改めて理解いただき、ご自分の他の教科でもやってみたいと言っていただくこともあります。
子どもたち、先生方の反応から「対話による美術鑑賞」プロジェクトが大和に根づきつつあると実感しています。そして「対話による美術鑑賞」を、もっともっと多くの子どもたちに体験してもらいたいと思っています。また大和市に限らず、多くの方に知っていただき、いろいろな場面で「対話による鑑賞」が使われることを願っています。
                                              
【お知らせ】
大和市(大和市文化振興課)と、やまとアートシャベルは「対話による美術鑑賞」を一般の方にも知っていただきたいという思いから、昨年から「アートでおしゃべり鑑賞会」を開催しています。
今年も2017年10月29日(日)に「アートでおしゃべり鑑賞会Part.2」を開催予定です。
ぜひ、ご来場をお待ちしています。

「アートおしゃべり鑑賞会Part.2」
日時 : 2017年10月29日(日) ①10:30~12:30 ②13:30~16:00 
    (所要時間は30分程度、受付は随時行います)
場所 : 大和市文化創造拠点 シリウス (小田急江ノ島線・相鉄本線 大和駅から徒歩3分)
     http://yamato-bunka.jp/about/index.php
※1階ではギャラリー「美術鑑賞」、4階では掲示物による活動紹介


写真提供=NPO法人芸術資源開発機構(ARDA)


プロフィール
「人間とは何か?」という問いから美術に興味をもちました。50代半ばに学芸員課程を取ってみようと考えた時に、東西美術史を俯瞰できるツールとして出会ったのが美術検定でした。美術検定のための勉強で、作品理解だけでなく美術を取り巻く情報についても体系的に捉えることができました。またそれと並行して、できるだけ多くの作品、施設を見たことも勉強になったと思います。2009年1級取得後、次世代のためのボランティアをしたいと思うようになり、ちょうど大和市で「対話による美術鑑賞」事業が2年目になるところでシャベラーに入れていただきました。アートに関わる活動を通して、子どもたちだけでなく素敵な大人の方たちとの出会いも私の宝物になっています。

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