「北斎とジャポニスム」展キヤノン・ミュージアム・キャンパス レポート
こんにちは、アートナビゲーターの津田です。台風一過の10月30日、世界遺産に登録された国立西洋美術館で開催されている「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展の関連イベントとして、キヤノン・ミュージアム・キャンパスが行われました。イベント当日は、アートナビゲーターが会場内で「ミニ授業」を行ないましたので、その活動を報告します。
このキヤノン・ミュージアム・キャンパスは、「大学生のための無料観覧日」。美術館の閉館日である月曜日に、大学生、大学院生、短期大学生、専門学校生など学生に、美術鑑賞の楽しさや芸術への親しみを感じていただくための場を提供することを目的として、同展を特別協賛しているキヤノン株式会社が企画し、国立西洋美術館、読売新聞社と共同で開催したものです。企画としては今回で5回目になります。
通常の開館日よりゆったりと、しかも大学生なら無料!という人気の企画です。今回も、台風の後の強風で交通機関の乱れをものともせず、約700名の学生が来館しました。このキヤノン・ミュージアム・キャンパスの目玉のひとつが、美術検定1級を取得したアートナビゲーターによる「ミニ授業」です。午前午後と19名のアートナビゲーターが全国各地からいさんで参集し、楽しく、役に立つ、興味深い話をそれぞれの持ち場で展開しました。
今回の展覧会は、江戸時代後期の絵師、今や世界的に知られる葛飾北斎の作品110点と、その影響を受けた西洋の作家による芸術作品220点が一堂に会したものです。西欧文化は日本では今も憧れの対象ですが、なんと、およそ160年前、19世紀の半ばの西欧の芸術家たちにとっては日本美術こそが憧れの的で、深い影響を受けていたのです。“ジャポニスム”と言われるこの現象を、同展は主に葛飾北斎に焦点を当て、豊富な比較資料で日本文化が西洋文化に与えた衝撃をつまびらかにしています。監修者である同館館長の馬渕明子氏による丁寧な解説も、展覧会HPで公開されています。
展覧会は、北斎の西欧美術への影響を「北斎の浸透」「北斎と人物」「北斎と動物」など6つの章に分けて構成されています。アートナビゲーターは、5ブロックに分けられた展示室を「教室」として、二人交代でポイントとなる作品を中心に解説しました。
当時、どんなに日本文化が驚きをもって西欧社会に迎えられたか、北斎の作品がそれまで西欧で常識とされていた描き方にいかに新鮮な視点と変化を与えたかなどを、アートナビゲーターは基本の知識をおさえつつ事前に周到に準備し、「授業」に臨んでいました。あらかじめ別の図版も用意して見せることで鑑賞者の理解を助けたり、洋の東西で扱われる題材の意味合いの違いについて述べたり、さらに一般的な絵の鑑賞の方法を伝えたり…それぞれのアートナビゲーターが、ぜひ今回の展示のテーマとアートの魅力を伝えたい、と工夫している様子がよく分かりました。
こうしたアートナビゲーターによるこの「ミニ授業」は、1時間に3回、00分、20分、40分にスタートし、毎回6~7分ほどの解説でした。「これから簡単に展覧会のみどころをガイドしますので、興味がある方はお集まりください」とアートナビゲーターが声をかけると、心待ちしていたようにその場にいた学生が集まって、熱心にアートナビゲーターの「授業」を聴いていました。また、「授業」が終わった後や「授業」がない時もアートナビゲーターに質問をする学生もいて、アートナビゲーターも喜んで応えていました。
今回のキヤノン・キャンパス・ミュージアムについて来館した学生に伺ってみると、
「もともと教科書などで知っている絵が、こんなにも日本の影響を受けたものなのかと“意外な発見”ばかりで、とても面白かった。来てよかったです」
「大学でジャポニスムの授業があったが、ゴッホのような画家だけでなくガラス器や陶器にも影響していて、それが現代まで受け継がれているのが驚きでした」
「台風のせいもあって人が少なくて、とてもゆったり見られたし、アートの解説がとても面白くてよく分かってよかったです」
「今も話題になる日本文化の繊細さが、以前から西洋に影響を与えていたのかと驚きました」
「ガイドの方の説明が、聞きたい人は近くで聞けばいいし、そうでない人は自由に見ててよい、というのがとてもリラックスできてよかった。作品を見ながらでも解説は聞こえるので、なるほど、などと思いながら耳を傾けていました」
「日本とヨーロッパの美術や文化の違いについての説明が、どこでもとても分かりやすく説明してもらえてよかった」
「ガイドの方の話し声がききやすかったです。鑑賞のさまたげにならないです」
などの感想をいただきました。
今回ガイドを務めたアートナビゲーターの方々にも、話を伺ってみました。
「今日は作品点数がとても多く、解説することもたくさんありましたが、学生さんの数がほどよく、みなさん静かに見学下さってやりやすいと思いました」
「北斎については、ちょうどほかの展覧会関連企画で勉強したところだったので、いろいろお話ししたくて時間が足りないほどでした。」
「ちょっと気持ち悪い絵が多くてあまり好きではないな、と思っていた画家でも、今回担当ということでいろいろ調べたら、とても勉強になりました。食わず嫌いだったと思いました」
「自分がガイドすることで、真剣に下調べに取り組みました。ただ見たり読んだりしている時と違って、新しい視点で見ることができ、とても勉強になりました」
なおイベント終了後も、北斎の絵描き歌の読み方についての知識などがアートナビゲーター同士で共有され、アートナビゲーターの研究熱心さ、アート好きに感心しました。
今回は単なる画家の紹介ではなく、日本と西洋の出会いと影響に焦点をあてたユニークな展覧会でしたが、参加された学生の皆さんは展示作品をしげしげと鑑賞し、アートナビゲーターの解説に耳を傾け、企画の内容を把握し、世界の中の日本という意味を受け止めていたようです。アートナビゲーターの皆さんも、日本と西洋という東西にわたる解説の準備は大変だったと思いますが、学生にしっかりとお伝えすることができ、まさに“美術と人をつなぐ架け橋”としての活動を深めることができた一日でした。

午前午後と「北斎とジャポニスム」展の見どころをガイド下さったアートナビゲーターの皆さん、ありがとうございました!
(写真提供=©Canon INC.)
※「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展は国立西洋美術館で2018年1月28日(日)まで開催中です。お見逃しなく!
プロフィール/2016年美術検定1級合格。小学校の美術鑑賞教育や地区のアートイベントでボランティア活動をしています。今回の「北斎とジャポニスム」展キヤノン・ミュージアム・キャンパスからアートナビゲーターの活動に参加しました。
通常の開館日よりゆったりと、しかも大学生なら無料!という人気の企画です。今回も、台風の後の強風で交通機関の乱れをものともせず、約700名の学生が来館しました。このキヤノン・ミュージアム・キャンパスの目玉のひとつが、美術検定1級を取得したアートナビゲーターによる「ミニ授業」です。午前午後と19名のアートナビゲーターが全国各地からいさんで参集し、楽しく、役に立つ、興味深い話をそれぞれの持ち場で展開しました。
今回の展覧会は、江戸時代後期の絵師、今や世界的に知られる葛飾北斎の作品110点と、その影響を受けた西洋の作家による芸術作品220点が一堂に会したものです。西欧文化は日本では今も憧れの対象ですが、なんと、およそ160年前、19世紀の半ばの西欧の芸術家たちにとっては日本美術こそが憧れの的で、深い影響を受けていたのです。“ジャポニスム”と言われるこの現象を、同展は主に葛飾北斎に焦点を当て、豊富な比較資料で日本文化が西洋文化に与えた衝撃をつまびらかにしています。監修者である同館館長の馬渕明子氏による丁寧な解説も、展覧会HPで公開されています。
展覧会は、北斎の西欧美術への影響を「北斎の浸透」「北斎と人物」「北斎と動物」など6つの章に分けて構成されています。アートナビゲーターは、5ブロックに分けられた展示室を「教室」として、二人交代でポイントとなる作品を中心に解説しました。
当時、どんなに日本文化が驚きをもって西欧社会に迎えられたか、北斎の作品がそれまで西欧で常識とされていた描き方にいかに新鮮な視点と変化を与えたかなどを、アートナビゲーターは基本の知識をおさえつつ事前に周到に準備し、「授業」に臨んでいました。あらかじめ別の図版も用意して見せることで鑑賞者の理解を助けたり、洋の東西で扱われる題材の意味合いの違いについて述べたり、さらに一般的な絵の鑑賞の方法を伝えたり…それぞれのアートナビゲーターが、ぜひ今回の展示のテーマとアートの魅力を伝えたい、と工夫している様子がよく分かりました。
こうしたアートナビゲーターによるこの「ミニ授業」は、1時間に3回、00分、20分、40分にスタートし、毎回6~7分ほどの解説でした。「これから簡単に展覧会のみどころをガイドしますので、興味がある方はお集まりください」とアートナビゲーターが声をかけると、心待ちしていたようにその場にいた学生が集まって、熱心にアートナビゲーターの「授業」を聴いていました。また、「授業」が終わった後や「授業」がない時もアートナビゲーターに質問をする学生もいて、アートナビゲーターも喜んで応えていました。
今回のキヤノン・キャンパス・ミュージアムについて来館した学生に伺ってみると、
「もともと教科書などで知っている絵が、こんなにも日本の影響を受けたものなのかと“意外な発見”ばかりで、とても面白かった。来てよかったです」
「大学でジャポニスムの授業があったが、ゴッホのような画家だけでなくガラス器や陶器にも影響していて、それが現代まで受け継がれているのが驚きでした」
「台風のせいもあって人が少なくて、とてもゆったり見られたし、アートの解説がとても面白くてよく分かってよかったです」
「今も話題になる日本文化の繊細さが、以前から西洋に影響を与えていたのかと驚きました」
「ガイドの方の説明が、聞きたい人は近くで聞けばいいし、そうでない人は自由に見ててよい、というのがとてもリラックスできてよかった。作品を見ながらでも解説は聞こえるので、なるほど、などと思いながら耳を傾けていました」
「日本とヨーロッパの美術や文化の違いについての説明が、どこでもとても分かりやすく説明してもらえてよかった」
「ガイドの方の話し声がききやすかったです。鑑賞のさまたげにならないです」
などの感想をいただきました。
今回ガイドを務めたアートナビゲーターの方々にも、話を伺ってみました。
「今日は作品点数がとても多く、解説することもたくさんありましたが、学生さんの数がほどよく、みなさん静かに見学下さってやりやすいと思いました」
「北斎については、ちょうどほかの展覧会関連企画で勉強したところだったので、いろいろお話ししたくて時間が足りないほどでした。」
「ちょっと気持ち悪い絵が多くてあまり好きではないな、と思っていた画家でも、今回担当ということでいろいろ調べたら、とても勉強になりました。食わず嫌いだったと思いました」
「自分がガイドすることで、真剣に下調べに取り組みました。ただ見たり読んだりしている時と違って、新しい視点で見ることができ、とても勉強になりました」
なおイベント終了後も、北斎の絵描き歌の読み方についての知識などがアートナビゲーター同士で共有され、アートナビゲーターの研究熱心さ、アート好きに感心しました。
今回は単なる画家の紹介ではなく、日本と西洋の出会いと影響に焦点をあてたユニークな展覧会でしたが、参加された学生の皆さんは展示作品をしげしげと鑑賞し、アートナビゲーターの解説に耳を傾け、企画の内容を把握し、世界の中の日本という意味を受け止めていたようです。アートナビゲーターの皆さんも、日本と西洋という東西にわたる解説の準備は大変だったと思いますが、学生にしっかりとお伝えすることができ、まさに“美術と人をつなぐ架け橋”としての活動を深めることができた一日でした。


午前午後と「北斎とジャポニスム」展の見どころをガイド下さったアートナビゲーターの皆さん、ありがとうございました!
(写真提供=©Canon INC.)
※「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展は国立西洋美術館で2018年1月28日(日)まで開催中です。お見逃しなく!

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