アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「宇都宮美術館」
皆様こんにちは。栃木県宇都宮市在住のアートナビゲーター、尾澤慎です。今回は、自然の中でゆっくりとした時間を過ごしたい方におすすめの宇都宮美術館をレポートします。
栃木県宇都宮市の北部、住宅街を抜けた丘の上に宇都宮美術館は建っています。2017年の本年創立20周年を迎えた、まだ若い美術館です。最初に出迎えてくれるのがフラナガンのウサギ、作品名も《ホスピタリティー(歓迎)》!まるで草の広場の主のように美術館に向かって駆け上がって行き、不思議の国に案内しているようです。それでは中に入ってみましょう。

美術館の入口で出迎えてくれる作品《ホスピタリティー(歓迎)》
受付の右手にプロムナード・ギャラリーがあります。これは奥へ行くほど広くなっているので(天井を見ると分かります)、目の錯覚によって遠近法が存在しないように見えるのです。突き当りのガラスまで行ったら、ぜひ後ろを振り返って見てください。「不思議なろうか」を通るといよいよ展示室です。

工夫が施された「不思議なろうか」。美術館の外には森が広がっている
コレクションは20世紀以降の美術とデザインが中心で、海外と明治期以降の日本の作品、そして宇都宮にゆかりのある作品で構成されています。コレクション展では、その中で年に3回展示替えを行ない、60点前後が展示されています。宇都宮美術館といえば、マグリットの《大家族》と思っている人も多いかと思いますが、今回は《大家族》以外の所蔵作品から、名品3点を選んで紹介いたします。
皆さんはシャガールの静物画を見たことありますか?もしなければ、ぜひ《静物》をおすすめします。これはシャガールがロシアからパリに出てきた頃に制作されたもので、幾何学的画面構成の洗練された美しい作品です。吸い込まれるような青と鮮やかな赤、黄、深い緑、それぞれの色を繋ぐ白が共鳴しあって光を放っているようです。またこの作品は、一時期シュルレアリスムを代表する詩人であり、ダリやマグリットとも親交のあったポール・エリュアールが所蔵していたこともありました。
他には、カンディンスキーの《鎮められたコントラスト》もおすすめの作品です。この作品については、時代背景と、カンディンスキーが今までに描いた作品のモティーフについて、簡単に「予習」をした方がより一層楽しめると思います。世界が大きく激動する中で、ロシア→ドイツ→フランスと旅をするような生涯を送ったカンディンスキーが、亡くなる3年前にパリで描いた作品です。カンディンスキーといえば丸と三角とアメーバの絵を描いている人でしょ!と思った方、一体どんな作品だと思いますか?ぜひ実際に展示室にお越しいただき、静謐な作品をゆっくりとご鑑賞ください。
日本の作品からは、川村清雄の《花鳥図》を紹介します。画家の晩年に制作されたこの作品は、動植物や伝統的な文物を明るく濁りのない色によって瑞々しく描いています。花々や鳥の鮮やかな黄・白が、背景となる赤・緑・白・青のトリコロールの布との組み合わせによってリズムを生み出し、観る者を画面に引き込みます。川村は明治維新から間もない時期に、11年間アメリカ、ヨーロッパに留学していましたが、その頃の欧米では日本美術が多大なインパクトを与えていました。留学時に日本の伝統美を再認識した川村は、帰国後は日本人の持つ伝統的な美意識を西洋画の技法によって描き、独自の作風を追及していきました。また、旗本の家に生まれた川村は、武家のたしなみとして華道などにも親しんでおり、四季の植物も多く描いています。鋭い観察眼と画力によって描かれている神器や龍首水瓶などは、鑑賞者によって多くの解釈が出来るではないかと思います。ぜひ実際の作品を観察し、確認していただければと思います。
ベルギーの海に面した街から来たマグリットの《大家族》は、今は野鳥の住む森の美術館にあります。宇都宮美術館にお越しの際は、周りを包んでいる豊かな自然の森の中でゆっくりと深呼吸してみてください。そして、《大家族》と対話する一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

※展示作品については、宇都宮美術館HPコレクション展ページhttp://u-moa.jp/exhibition/collection.htmlをご覧下さい。
■宇都宮美術館
〒320-0024 栃木県宇都宮市長岡町1077
開館時間 9:30~17:00 入館は30分前まで
休館日 月曜日(月曜祝日の場合その翌日)、2017年11月27日~2018年1月9日
コレクション展観覧料 大人310円 高校・大学生210円 小・中学生100円
企画展観覧料 企画展によって異なる
Tel 028-643-0100
URL http://u-moa.jp
プロフィール/2012年より宇都宮美術館でガイドボランティアをやっています。美術検定は、館内にあったチラシで知りました。美術館の活動では子供に関わることもあり、またコレクションの美術史における位置を知る為にも受験し、2014年に1級を取得しました。受験勉教法は公式テキストを丁寧に仕上げることだと思います。また、NHK「日曜美術館」などを録画し、現在でも参考にしています。

美術館の入口で出迎えてくれる作品《ホスピタリティー(歓迎)》
受付の右手にプロムナード・ギャラリーがあります。これは奥へ行くほど広くなっているので(天井を見ると分かります)、目の錯覚によって遠近法が存在しないように見えるのです。突き当りのガラスまで行ったら、ぜひ後ろを振り返って見てください。「不思議なろうか」を通るといよいよ展示室です。


工夫が施された「不思議なろうか」。美術館の外には森が広がっている
コレクションは20世紀以降の美術とデザインが中心で、海外と明治期以降の日本の作品、そして宇都宮にゆかりのある作品で構成されています。コレクション展では、その中で年に3回展示替えを行ない、60点前後が展示されています。宇都宮美術館といえば、マグリットの《大家族》と思っている人も多いかと思いますが、今回は《大家族》以外の所蔵作品から、名品3点を選んで紹介いたします。
皆さんはシャガールの静物画を見たことありますか?もしなければ、ぜひ《静物》をおすすめします。これはシャガールがロシアからパリに出てきた頃に制作されたもので、幾何学的画面構成の洗練された美しい作品です。吸い込まれるような青と鮮やかな赤、黄、深い緑、それぞれの色を繋ぐ白が共鳴しあって光を放っているようです。またこの作品は、一時期シュルレアリスムを代表する詩人であり、ダリやマグリットとも親交のあったポール・エリュアールが所蔵していたこともありました。
他には、カンディンスキーの《鎮められたコントラスト》もおすすめの作品です。この作品については、時代背景と、カンディンスキーが今までに描いた作品のモティーフについて、簡単に「予習」をした方がより一層楽しめると思います。世界が大きく激動する中で、ロシア→ドイツ→フランスと旅をするような生涯を送ったカンディンスキーが、亡くなる3年前にパリで描いた作品です。カンディンスキーといえば丸と三角とアメーバの絵を描いている人でしょ!と思った方、一体どんな作品だと思いますか?ぜひ実際に展示室にお越しいただき、静謐な作品をゆっくりとご鑑賞ください。
日本の作品からは、川村清雄の《花鳥図》を紹介します。画家の晩年に制作されたこの作品は、動植物や伝統的な文物を明るく濁りのない色によって瑞々しく描いています。花々や鳥の鮮やかな黄・白が、背景となる赤・緑・白・青のトリコロールの布との組み合わせによってリズムを生み出し、観る者を画面に引き込みます。川村は明治維新から間もない時期に、11年間アメリカ、ヨーロッパに留学していましたが、その頃の欧米では日本美術が多大なインパクトを与えていました。留学時に日本の伝統美を再認識した川村は、帰国後は日本人の持つ伝統的な美意識を西洋画の技法によって描き、独自の作風を追及していきました。また、旗本の家に生まれた川村は、武家のたしなみとして華道などにも親しんでおり、四季の植物も多く描いています。鋭い観察眼と画力によって描かれている神器や龍首水瓶などは、鑑賞者によって多くの解釈が出来るではないかと思います。ぜひ実際の作品を観察し、確認していただければと思います。
ベルギーの海に面した街から来たマグリットの《大家族》は、今は野鳥の住む森の美術館にあります。宇都宮美術館にお越しの際は、周りを包んでいる豊かな自然の森の中でゆっくりと深呼吸してみてください。そして、《大家族》と対話する一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

※展示作品については、宇都宮美術館HPコレクション展ページhttp://u-moa.jp/exhibition/collection.htmlをご覧下さい。
■宇都宮美術館
〒320-0024 栃木県宇都宮市長岡町1077
開館時間 9:30~17:00 入館は30分前まで
休館日 月曜日(月曜祝日の場合その翌日)、2017年11月27日~2018年1月9日
コレクション展観覧料 大人310円 高校・大学生210円 小・中学生100円
企画展観覧料 企画展によって異なる
Tel 028-643-0100
URL http://u-moa.jp

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