美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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休館中の美術館watch~ブリヂストン美術館のラーニングプログラム

こんにちは。美術検定実行委員会事務局です。
先週は東京ではいくつものアート・フェアが開催され、東京オリンピックに向けて大きな文化イヴェントも増えています。
ただ、少し視線を変えて、今回の話題は、建て替えやリニューアルで休館している美術館です。展示活動はされていなくとも、その裏側ではさまざまな動きがあります。普及担当の学芸員やエデュケーターを中心に普及活動を続けている美術館もあります。今回は、コレクションが国内外で巡回中の東京都のブリヂストン美術館が行うラーニングプログラムにフォーカスしてみました。


■休館中の拠点、石橋財団アートリサーチセンター

印象主義から20世紀初頭の良質なコレクションで有名なブリヂストン美術館は、東京駅八重洲口にあります。現在はビル建て替えに伴い長期休館中です。2019年のリニューアル・オープンに向け、工事が進められています。休館中も同館の活動拠点となっているのが、2015年に東京都町田市小山ヶ丘に設立された石橋財団アートリサーチセンター(ARC)です。ここでは、作品の保存と修復、資料保管を主眼に設けられた施設ですが、ワークショップやレクチャーができる多目的ホールも併設されています。
外観
公益財団法人石橋財団アートリサーチセンターの外観

同館は開館以来、熱心な普及活動でも知られている館です。アートリサーチセンターでも、同館のコレクションをベースにした学校への出前授業や一般市民向けのレクチャーといったラーニングプログラムを展開しています。加えて、近隣の人たちにも同館のコレクションに馴染んでもらおうと、美術館では建物の制約から実現できなかった、創作活動を伴うワークショップも年に5回ほど開催しています。もともと同館のプログラムには関東一円から応募があったそうですが、休館中の現在も同様で、取材にうかがった2月24日のワークショップにも、千葉から参加した家族もいらっしゃいました。

■色紙からつくる、マティス作品を体感するワークショップ

カラービンゴ さて、今回取材したのは、ARCワークショップ「つくるファミリープログラム―マティス編」。同館のコレクションの1つである、マティスの版画集《ジャズ》の制作方法にふれながら、「家族の思い出」をテーマに切り紙絵の制作に挑戦するものでした。講師はエデュケーターの藤田百合さんです。参加者は、小学生を含む家族7組。小学生は低学年から高学年まで、お母さんと子ども、おばあちゃんと孫、両親と子どもなど参加家族の構成もまちまちです。

2時間半のワークショップは、まずはマティスの作品カードを使った神経衰弱ゲームで、参加者の緊張を解くことから始まりました。その後、藤田さんが作った「カラービンゴ」が家族に1枚配られ、壁に貼られた《ジャズ》の12作品をみながら、マティスが使った色を探す遊びに移りました。マティスの色や配色効果に気づいた後は、作品づくりの下準備である「色紙づくり」です。マティスの切り紙絵と同じように市販の色紙を使わず、オリジナルの色紙をつくるというもの。参加者自らが紙にアクリル絵の具を塗っていくのです。藤田さんは家族ごとの作業台を回りながら、「その絵の具はふんだんに使ったほうが色は鮮やかになるよ」「筆の動きは身体の動きだからね」「塗りムラも面白いと思いませんか?」……と声を掛けていきます。最初は座って手を動かしていた参加者も、徐々に立ち上がって紙に色をどんどん塗り、約30分の間に、参加者一人ひとりのオリジナルの色紙が何枚もでき上がっていきました。

色紙づくり
上/藤田さんオリジナルの「カラービンゴ」 下/オリジナル色紙を制作する様子


パズル手元色紙の乾燥中、藤田さんはマティス作品から《イカロス》を採り上げ、「何がみえる?」「何色?」「どんな形?」「どんなお話だと思う?」と参加者に問いかけて一緒に作品をみていきます。さらに参加者は、マティスが紙を切って形を生み出している動画を見て、オリジナルツールの「形のパズル」セットを使いながらマティスの制作プロセスを追体験します。

再び席に戻った参加者たちは、家族ごとにどんな内容にするかを話し合いました。いよいよ作業の開始です。オリジナル色紙をフリーハンドで切り抜くチーム、下絵を切り抜くチームと思い思いに作業を進めていきます。「花火の色はこのくらい?」「雨っぽく切ればよくない?」「このすてきな紙を使ってあげて」「マティスもこうやって切っていたよね」「小さいやつから切らないと」……切り抜いた形を板に置いては「これはココでいい?」「もう少し右かな」「こっちの紙は表情があるからここ」……各チームはさまざまな会話を交わしながら作品づくりに集中します。「あと10分ですよ〜。そろそろ貼り付けて〜」。ラストスパートで仕上げた作品が前に飾られると、参加者とスタッフ一同から「すごくきれい!」の声が。
家族を代表して、子どもたちが自分たちの作品を紹介し、ワークショップは終了しました。

虫眼鏡 家族1
右上/形のパズル 左/形の虫眼鏡でマティスの形を探す参加者たち
右/おばあちゃんと孫のコンビネーションで作業を進める家族

完成作品
できあがった参加者たちの作品の一部


■家族の対話を生むワークショップ

今回のワークショップは、参加家族の作品の出来栄えにも驚きましたが、それ以上に興味深かったのは活動中に変化していったいくつかの家族の姿でした。変化とは、子どもを主役に立てようと半ば傍観者だったりアドバイザーだったりした「保護者」の立場だった人たちが、次第に子どもと対等に意見を交わして1つの作品をつくる「仲間」へと変わっていったことです。子どもたちも同様で、最初は困ったら甘えられる・助けてもらえる「子ども」の態度で保護者に接していたのに、徐々にいい意味でフラットな共同作業の相手に接する態度へと変化していました。例えば、最初のテーマ決めではお母さんが仕切っていたのに、次第に子どもたちがお母さんに向かって「どんな形がいいと思う?」と尋ね「じゃあこうしようよ」と提案をしていた家族。奥さんと娘に「この色をぬって」「この紙のここをこんな形に切って」と言われ黙々とサポート役に徹していたお父さんが、「この形の方がマティスっぽくてぴったりじゃない?」と自らはさみを取って形を切り抜き、「主役感が出たね」「これが主役だね」と2人に持ち上げられ、「じゃあこっちはこの色の方がいいよね」と、積極的に意見を言いながら率先して色紙を選びはさみをにぎり始めた家族。1枚の切り紙絵をつくる、というプロセスを通じて、家族のなかにいつもと違った対話が起こっていたのではないかと思います。

家族2このような対話は、作品を「眺める」鑑賞をした後に家族で1つの作品を完成させましょうと言われて、材料だけを渡されても生まれるものではないでしょう。このワークショップでは、まず、身体や心の緊張をほぐすアイスブレイク、続いてマティスの作品をじっくりみて家族と話し合う仕掛けがあり(カラービンゴ)、色塗りで身体と頭を動かした後に、作品を「解体するような」鑑賞を通じて参加者が言葉を発するエクササイズがありました(形のパズル)。それから実際に家族で話し合う作品のテーマ決めを経て、制作へと移行しました。制作中は、藤田さんがそれぞれの家族の様子を見ながら臨機応変に声掛けをしています。次の作業へ移る際の声がけは、「ゲーム」の進行をするような巧みさを感じさせるもので、スムーズに各家族がチーム内で役割を振り分けるのにも役立っていました。また、藤田さんは技術的なアドバイスとは別に、「この色のここのカスレが使えそうじゃない?」「この切れ端はリズミカルに感じるけど、どうかな?」といった「問いかけ」をひんぱんにしていました。問いかけから違う視点が生まれ、その家族が意見を交わすきっかけとなっていたのです。

今回のようなワークショップは、講師の力があればつくれるのかもしれません。しかし、その前提としてよい作品を持つ「美術館」という場、そして質の高い普及プログラムづくりに取り組む学芸員という資源なしには、実現が難しいと考えられます。なぜならこのような場は、講師や作品だけでなく、物理的な「場」や道具、参加者、運営スタッフ、そして予算がないと成立不可能だからです。ブリヂストン美術館は、長年、コレクションをベースにした普及活動に取り組んできた館です。固定ファンもいるうえに、ARCがある地域に向けてアートを拓く活動に務めています。このような資源を積み重ねた結果、今回のような「場」を生み出すことができたのではないでしょうか。


※画像提供=ブリヂストン美術館

取材・文/染谷ヒロコ(本ブログ編集)


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