美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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CINEMAウォッチ「ザ・スクエア 思いやりの聖域」

こんにちは。アートナビゲーターの深津優希です。先日スウェーデンのリューベン・オストルンド監督「ザ・スクエア 思いやりの聖域」の試写会に参加してきました。こちらは第70回カンヌ映画祭パルムドール受賞をはじめ、多くの映画賞にノミネート・受賞を果たした話題作。日本では2018年4月28日より公開されます。舞台は現代美術館、主人公はキュレーターという、このブログに集う私たちの関心をぐっとひく設定です。


現代アートにつっこみをいれる
まず、映画のタイトルにもなっている「ザ・スクエア」とは? 広場の一角に光の線で描かれた正方形、「思いやりの聖域」においては、すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われるという参加型の作品。現代人のエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる目的で設置されます。と、キュレーターが発表する場面ですでに、その小さな聖域以外での不平等、無関心はよしとしている? とつっこみたくなります。他にも、人間性や倫理観を問われるような作品と、作品に対峙する人間の行動が少々、いや、なかなかブラックに描かれます。自分ならどう行動するか、考えてしまう場面も多くありました。

ところで、トラブルに巻き込まれて助けを求めた際に、実際に助けを得られる可能性は、周りにいる人の数に反比例するそうです。「傍観者効果」というそうですが、自分が助けなくてもいいだろう、誰かが手を貸すだろう、なるべく面倒には関わりたくない、そう思ったことは、恥ずかしながら私にもあります。特に若い時は、良いことをして格好つけているように見られたらいやだな、とか、目立ちたくない、とか、そういう理由で行動できないことがありました。無関心にみえても、本当に気づいていないのではなく、気づいているけど行動しない、できないことが多いのではないでしょうか。監督は社会学的な観点から、上記のような人間の行動を容赦なく描くので、観ていてドキドキしてしまうのです。

美術館と表現の自由と倫理
映画の中で、展覧会の広報を依頼された広告代理店の若手担当者が、動画公開サイトにショッキングな映像を掲載して話題になることを狙いますが、これがまさに大炎上してしまいます。ああ、おばかさんだなあ、と思ってみていましたが、実際にネット上の炎上はあちこちで起きていて、個人が一度炎上したら社会復帰できないぐらい制裁をうけてしまうこともありますよね。美術館は謝罪の記者会見を開き、担当キュレーターは辞任にいたる大騒ぎになってしまいます。大きな痛手です。少し同情します。ところが記者会見でキュレーターが「ぼくの意見ではなく美術館の立場で話しているんだ」と言ってしまい、その責任感のなさに残念!となります(笑)

表現の自由とは、人を傷つける表現を正当化するものではありません。とはいえ、現代美術館が「表現の自由には制限がある」と認めてしまっては、今後ポリティカル・コレクトネスを意識したお行儀のよい作品しか扱えなくなってしまいます。現代アートの辛辣な表現は時に人をはっとさせ、社会の問題や人間の間違いに気づかせます。そんなアートを観たあとには世界の見方が変わり、思い切った行動をおこしてしまうくらいに、影響力があると思うのです。その力をそぐような「制限」は、望ましくないですよね。うーん、困った、困った!

こんな調子で現代社会への風刺がてんこもりで、その尺、151分。これまでも長いドキュメンタリーを何度か紹介しましたが、こちらはひと味もふた味も違うエンタテイメント作品です。オストルンド監督の描く人間たちの行動には、目をそむけたくなったり居心地の悪さを感じたりしましたが、作品自体が不愉快なものというわけでは決してありません。むしろ、面白いものを観たぞ! という大きな満足感とともに会場を後にしました。現代アートが好きな方も、現代アートってどうも鼻持ちならないのよね! という方も、ぜひご覧ください。笑えるところ、考えてしまうところがたくさんありますよ(^^)

◆映画オフィシャルサイト
「ザ・スクエア 思いやりの聖域」 
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/


プロフィール
美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。

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