アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「富山県美術館」
みなさん、こんにちは。北陸在住アートナビゲーターの阿部です。今回は2017年8月に富岩運河環水公園に移転し開館した、富山県美術館を紹介します。
富山県美術館は、城南公園にあった富山県立近代美術館のコレクションと理念を引き継ぎ、国内では初めてデザインとサブタイトルとして入った富山県美術館(Toyama Prefectural Museum of Art and Design(TAD))として生まれ変わりました。

富岩運河環水公園内に移転した富山県美術館の外観
デザインのコレクションは、椅子とポスターが豊富にある反面、近代美術館では展示スペースの関係で常設展の際や企画展でしか紹介することは難しかったそうですが、ポスターは約13,000点あるコレクションの中の3,000点を、チームラボと凸版印刷で共同開発したポスタータッチパネルに手で触れて、目で見て、音で聞きながら楽しむことができます。

選ぶポスターによって何通りにも変化するポスタータッチパネル
ポスターは、壁への展示やワイヤーとパネルによって壁から自由になった立体的な展示を鑑賞することができます。壁一面の棚に展示されている椅子は下から見上げることができ、数点ある座れる椅子から展示室全体を眺めることで、ガラスから光が入るデザインあふれた空間に浸ることができます。また、スタッフが着用している三宅一生のユニフォームは、富山の文化や自然からデザインされ選ばれた5色使いで、歩くたびにしなやかな風のように動くプリーツが印象的です。
明るい展示室の奥、錆びた鉄の壁に囲まれた展示室に一歩足を踏み入れると、ブルーブラックの壁と床に包まれた幻想的な空間に引き込まれます。前身の近代美術館のコレクションの方向性に影響を与えた、富山出身の瀧口修造展示室です。奥の小さな一室、という点は同じでも、近代美術館の頃よりさらにプライベートで異質な空間となり、屋外からは浮かび上がるようにも見えます。

高岡銅器の折井製、錆びた鉄に囲まれた美術館の心臓部
控え目な照明の中、壁一面に交流のあった作家たちからの贈り物など、瀧口が「漂流物」といったというかわいらしい作品たちがたくさん展示されています。残した言葉やデカルコマニー作品の断片から、生前の瀧口の存在感を感じられるような気がします。
アートのコレクションは、瀧口展示室の隣にあるシモン・ゴールドベルクのコレクションの他に、戦争の世紀とも言われる20世紀の美術中心の層の厚い作品たちが、新しい美術館でのお披露目を収蔵庫の中で待っています。近代美術館では20世紀美術の流れが円形の展示室に時系列に沿って展示されていて、豪華なコレクションが常に鑑賞できた反面、展示替えを全体的にすることができないという一面もありました。新しい展示室は可動壁のあるホワイトキューブに作品が少しコンパクトに展示されていて、20世紀の流れではなく、展示替え毎に様々なテーマで見せていき、ひとつひとつの作品と対話しやすい空間になっているようで、同じ作品でもまた違って見えてくるのが不思議です。
コレクション展示室では、主要作品の一部がキャプションのQRコードを携帯電話で読み込むと作品の解説が文字と音声(イヤホン持参)で楽しめます。藤田嗣治の「二人の裸婦」も、新しくコレクションに組み入れられました。パブロ・ピカソの「肘掛け椅子の女」、ジョアン・ミロの「パイプを吸う男」、岡本太郎の「明日の神話」、マルセル・デュシャンの「トランクの箱」、フランシス・ベーコンの「横たわる人物」、アンディ・ウォーホルの「マリリン」など、コレクション作品の展示は入れ替えもありますが、訪れた人が何かひとつはお気に入りの「本物」を見つけられそうです。
なお、展示中のコレクション作品リストは富山県美術館のウェブサイトから確認することができます。早い段階からテーマを絞って収集を続けてきた豊かな収蔵品が、一過性の人気にとどまらない美術館本来の楽しみ方を、しっかりと支えているような気がします。
お天気のいい日には佐藤卓デザインの屋上庭園、「オノマトペの屋上」でパノラマの富山市内を展望するもよし、屋外広場の三沢厚彦「ANIMALS」のクマと記念撮影するのもよし。内藤廣建築の広々とした空間で、散歩するのも、またよし。

(左)屋外広場はクマだけでなく屋上の鳥の彫刻ハクタカも見える(右)遠くに望める立山連峰が建物から平行に見えるよう東側は配置されているそう
子供たちがアトリエや屋上庭園で遊ぶことで、一緒に来たおじいちゃんおばあちゃんもいつの間にかアートとデザインを体感することできる。
人が集まることで補完されるのが、新しい美術館のひとつのあり方なのかもしれません。
いろんな世代がそれぞれに楽しめる、新たな「場」が、ここ富山県にできたこと。
写真では分からないこの場所ならではの空気感と、アートとデザインの新しいかたち。
全部丸ごと体感しに、みなさんも富山に足を運んでみませんか?
■富山県美術館
〒930-0806 富山県富山市木場町3-20
開館時間 9:30~18:00(入館は17:30まで) ※屋上庭園は8:00~22:00(入館は21:30まで)
休館日 水曜日(水曜祝日の場合その翌日)、年末年始 ※屋上庭園は12/1~3/15
コレクション展観覧料金 300円(大学生以下または70代以上は証明書提示で無料) ※企画展は展覧会により異なる
Tel: 076-431-2711 Fax.076-431-2712
http://tad-toyama.jp/
プロフィール/ 学生のように図書館に通って本を読んだり、美術館を巡ったり、美術館でボランティアをしながら学んだりして、美術検定の勉強をしながら自分の知らない世界がたくさんあることを知りました。美術検定に合格してアートナビゲーターとなってからは、自分の好きな作家にテーマを絞って勉強してみたり、仕事の合間に美術館や芸術祭巡りをしたりしています。
アートって何だか、いまだによくわからないけれど、そのつかみどころのなさが一度はまると抜け出せない魅力のひとつなのかも。
今後は機会があれば海外の芸術祭にも行ってみたいです。

富岩運河環水公園内に移転した富山県美術館の外観
デザインのコレクションは、椅子とポスターが豊富にある反面、近代美術館では展示スペースの関係で常設展の際や企画展でしか紹介することは難しかったそうですが、ポスターは約13,000点あるコレクションの中の3,000点を、チームラボと凸版印刷で共同開発したポスタータッチパネルに手で触れて、目で見て、音で聞きながら楽しむことができます。

選ぶポスターによって何通りにも変化するポスタータッチパネル
ポスターは、壁への展示やワイヤーとパネルによって壁から自由になった立体的な展示を鑑賞することができます。壁一面の棚に展示されている椅子は下から見上げることができ、数点ある座れる椅子から展示室全体を眺めることで、ガラスから光が入るデザインあふれた空間に浸ることができます。また、スタッフが着用している三宅一生のユニフォームは、富山の文化や自然からデザインされ選ばれた5色使いで、歩くたびにしなやかな風のように動くプリーツが印象的です。
明るい展示室の奥、錆びた鉄の壁に囲まれた展示室に一歩足を踏み入れると、ブルーブラックの壁と床に包まれた幻想的な空間に引き込まれます。前身の近代美術館のコレクションの方向性に影響を与えた、富山出身の瀧口修造展示室です。奥の小さな一室、という点は同じでも、近代美術館の頃よりさらにプライベートで異質な空間となり、屋外からは浮かび上がるようにも見えます。

高岡銅器の折井製、錆びた鉄に囲まれた美術館の心臓部
控え目な照明の中、壁一面に交流のあった作家たちからの贈り物など、瀧口が「漂流物」といったというかわいらしい作品たちがたくさん展示されています。残した言葉やデカルコマニー作品の断片から、生前の瀧口の存在感を感じられるような気がします。
アートのコレクションは、瀧口展示室の隣にあるシモン・ゴールドベルクのコレクションの他に、戦争の世紀とも言われる20世紀の美術中心の層の厚い作品たちが、新しい美術館でのお披露目を収蔵庫の中で待っています。近代美術館では20世紀美術の流れが円形の展示室に時系列に沿って展示されていて、豪華なコレクションが常に鑑賞できた反面、展示替えを全体的にすることができないという一面もありました。新しい展示室は可動壁のあるホワイトキューブに作品が少しコンパクトに展示されていて、20世紀の流れではなく、展示替え毎に様々なテーマで見せていき、ひとつひとつの作品と対話しやすい空間になっているようで、同じ作品でもまた違って見えてくるのが不思議です。
コレクション展示室では、主要作品の一部がキャプションのQRコードを携帯電話で読み込むと作品の解説が文字と音声(イヤホン持参)で楽しめます。藤田嗣治の「二人の裸婦」も、新しくコレクションに組み入れられました。パブロ・ピカソの「肘掛け椅子の女」、ジョアン・ミロの「パイプを吸う男」、岡本太郎の「明日の神話」、マルセル・デュシャンの「トランクの箱」、フランシス・ベーコンの「横たわる人物」、アンディ・ウォーホルの「マリリン」など、コレクション作品の展示は入れ替えもありますが、訪れた人が何かひとつはお気に入りの「本物」を見つけられそうです。
なお、展示中のコレクション作品リストは富山県美術館のウェブサイトから確認することができます。早い段階からテーマを絞って収集を続けてきた豊かな収蔵品が、一過性の人気にとどまらない美術館本来の楽しみ方を、しっかりと支えているような気がします。
お天気のいい日には佐藤卓デザインの屋上庭園、「オノマトペの屋上」でパノラマの富山市内を展望するもよし、屋外広場の三沢厚彦「ANIMALS」のクマと記念撮影するのもよし。内藤廣建築の広々とした空間で、散歩するのも、またよし。


(左)屋外広場はクマだけでなく屋上の鳥の彫刻ハクタカも見える(右)遠くに望める立山連峰が建物から平行に見えるよう東側は配置されているそう
子供たちがアトリエや屋上庭園で遊ぶことで、一緒に来たおじいちゃんおばあちゃんもいつの間にかアートとデザインを体感することできる。
人が集まることで補完されるのが、新しい美術館のひとつのあり方なのかもしれません。
いろんな世代がそれぞれに楽しめる、新たな「場」が、ここ富山県にできたこと。
写真では分からないこの場所ならではの空気感と、アートとデザインの新しいかたち。
全部丸ごと体感しに、みなさんも富山に足を運んでみませんか?
■富山県美術館
〒930-0806 富山県富山市木場町3-20
開館時間 9:30~18:00(入館は17:30まで) ※屋上庭園は8:00~22:00(入館は21:30まで)
休館日 水曜日(水曜祝日の場合その翌日)、年末年始 ※屋上庭園は12/1~3/15
コレクション展観覧料金 300円(大学生以下または70代以上は証明書提示で無料) ※企画展は展覧会により異なる
Tel: 076-431-2711 Fax.076-431-2712
http://tad-toyama.jp/

アートって何だか、いまだによくわからないけれど、そのつかみどころのなさが一度はまると抜け出せない魅力のひとつなのかも。
今後は機会があれば海外の芸術祭にも行ってみたいです。
| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 09:40 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑