アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「尼崎市総合文化センター 白髪一雄記念室」
まいど、アートナビゲーターのあづまでございます。
アートナビゲーターがおらがまちの美術館コレクションを紹介するシリーズ…あづまっくす、東京出身と思われてますが、実は兵庫県尼崎市出身、大学入学まで関西におりましてん。ということで、今回は地元の尼崎市総合文化センター 白髪一雄記念室を紹介します。
アートナビゲーターがおらがまちの美術館コレクションを紹介するシリーズ…あづまっくす、東京出身と思われてますが、実は兵庫県尼崎市出身、大学入学まで関西におりましてん。ということで、今回は地元の尼崎市総合文化センター 白髪一雄記念室を紹介します。
さて、みなさんの尼崎のイメージは世代や趣味により様々でしょうが、自分にとっては、工業都市→ベッドタウン、人形浄瑠璃(近松門左衛門の墓がある)にダウンタウン。そうつまりは、美術館がない、そんなイメージでした。
■尼崎出身の世界的アーティスト
ですが、尼崎出身の世界的なアーティストがいます。白髪一雄、1950年代「具体」のメンバーとして活躍した作家です。尼崎に生まれ育ち、生涯にわたって尼崎に住み、尼崎という街をこよなく愛していました。作家活動以外にも、教育委員会のメンバーとして市との関わりも深く、没後遺族から資料などの寄贈を受け、1989年と没後の2009年の二度にわたり個展が開催された尼崎市総合文化センターの一角に、2013年、白髪一雄記念室が誕生しました。

美術検定をめざしている方には練習問題や本試験問題にも頻出するキーワード、「具体」は、1950年代、アメリカ抽象表現主義、フランスのアンフォルメルとならぶ、日本の近現代美術史上重要な前衛芸術グループです。リーダーである吉原治良のかかげる、“だれもやったことのないことを”という精神にあふれた具体メンバーの中においても、白髪は足で描くダイナミックな作風に特徴があり、現在でも海外のコレクターを中心に人気があります。2009年の展覧会図録に掲載された作品について、海外からの問い合わせも多いとか。
■白髪一雄記念室
2013年に開室した白髪一雄記念室は、そんな世界的に知られる白髪一雄の様々な側面を、寄贈を受けた資料やデッサンから読み解き展示をしています。記念室に入ると、白髪が足で描いている映像のアーカイブが流れ、その横に「尼崎」と書かれた達筆な書が飾られています。この文字を題字にした尼崎市の資料も置かれていて、白髪一雄の尼崎との関係性が読み取れます。

記念室では白髪一雄に関する様々なアーカイブを閲覧できる
奥の展示ルームでは定期的に企画展が行われており、自分が伺ったときは、白髪の実家である呉服屋の風呂敷のデザインや、尼崎の街を描いた作品など、具体以前の一面を知ることのできる展示が行われていました。また父が趣味で油彩を描いていたことなど、白髪のルーツを探る構成になっています。以前の展覧会で拝見した具体のパフォーマンス記録映像で、白髪は『超現代三番叟』を演じており、その衣装の展示を思い出しながら、呉服屋の倅(せがれ)であったこととの関係があるのかも、と改めて感じました。
白髪一雄記念室 第11回展示「白髪一雄と尼崎 I -木市呉服店の資料とともに-」
一方で、具体活動時期、吉原治良没後あたりから興味を持った密教を比叡山で厳しい修行を積み学んだ時期、そして晩年と、我々が知る「足で描くダイナミックな作品」が徐々に変化しているのも、展示作品から読み取ることができます。小さな展示室ではありますが、白髪一雄という作家の全貌を垣間見れるコンパクトな良い展示でした。
■尼崎の取り組み
とはいえ、この記念室だけを訪れるには、なかなかハードルが高そうに思います。
そんな中、記念室のある尼崎市総合文化センターから少し歩いたところに、使われていなかった公民館を使い、主に若手作家を紹介する展示スペース「あまらぶアートラボ A-Lab(えーらぼ)」が2015年秋にオープンしました。トークやワークショップなどイベントも頻繁に行われており、少しでも尼崎にアートを観に来る、という環境を作ろうという関係者の熱意が感じられます。

尼崎市総合文化センターの外観と「あまらぶアートラボ A-Lab」の入口
また尼崎市総合文化センター内の音楽ホール、あましんアルカイックホールには、白髪の作品をもとにした緞帳があります。演奏会だけではなく、おなじく尼崎ゆかりの故桂米朝(人間国宝)の若手一門会なども行われているので、美術好きだけではなく、コンサートや落語などホールでのイベントにあわせてぜひ記念室に足を運び、白髪の眼の前で迫力のある作品を観ていただきたい、と強く思いました。
白髪の作品は、迫力があり展示室内での存在感を感じさせ人気もあるため、様々な美術館のコレクション展で出会うことができます。そういった時、同郷のものとして嬉しく思う半面、まとまってみる機会が少ない作家でもあるなあと感じます。おそらく作家名のついた美術館が、同じような課題を抱えて、展示を工夫したりイベントを企画していることと思います。これからは、そういった地元作家の美術館の展示もじっくり観てみたいと思いました。
■尼崎市総合文化センター 白髪一雄記念室
〒660-0881 兵庫県尼崎市昭和通2丁目7-16 尼崎市総合文化センター4階
開館時間 10:00~12:00/13:00~17:00 ※最終入室は16:30まで
観覧料 一般200円 大学・高校生100円 中学生以下無料
TEL 06-6487-0806
http://www.archaic.or.jp/shiraga/
プロフィール
2005年の横浜トリエンナーレで初ボランティア、それ以来、会社員のかたわら都内を中心にガイドやワークショップのお手伝いをしております。最近学んだ対話型美術鑑賞を広めるべく、レゴブロックを使ったワークショップを毎月実施中(当ブログ「レゴ®ブロックと美術鑑賞のハイブリッドな関係」でもこのワークショップについて紹介しています)。次回は7月21日(土)に東京・三宿にあるカフェSUNDAYにて開催。
■尼崎出身の世界的アーティスト
ですが、尼崎出身の世界的なアーティストがいます。白髪一雄、1950年代「具体」のメンバーとして活躍した作家です。尼崎に生まれ育ち、生涯にわたって尼崎に住み、尼崎という街をこよなく愛していました。作家活動以外にも、教育委員会のメンバーとして市との関わりも深く、没後遺族から資料などの寄贈を受け、1989年と没後の2009年の二度にわたり個展が開催された尼崎市総合文化センターの一角に、2013年、白髪一雄記念室が誕生しました。

美術検定をめざしている方には練習問題や本試験問題にも頻出するキーワード、「具体」は、1950年代、アメリカ抽象表現主義、フランスのアンフォルメルとならぶ、日本の近現代美術史上重要な前衛芸術グループです。リーダーである吉原治良のかかげる、“だれもやったことのないことを”という精神にあふれた具体メンバーの中においても、白髪は足で描くダイナミックな作風に特徴があり、現在でも海外のコレクターを中心に人気があります。2009年の展覧会図録に掲載された作品について、海外からの問い合わせも多いとか。
■白髪一雄記念室
2013年に開室した白髪一雄記念室は、そんな世界的に知られる白髪一雄の様々な側面を、寄贈を受けた資料やデッサンから読み解き展示をしています。記念室に入ると、白髪が足で描いている映像のアーカイブが流れ、その横に「尼崎」と書かれた達筆な書が飾られています。この文字を題字にした尼崎市の資料も置かれていて、白髪一雄の尼崎との関係性が読み取れます。

記念室では白髪一雄に関する様々なアーカイブを閲覧できる
奥の展示ルームでは定期的に企画展が行われており、自分が伺ったときは、白髪の実家である呉服屋の風呂敷のデザインや、尼崎の街を描いた作品など、具体以前の一面を知ることのできる展示が行われていました。また父が趣味で油彩を描いていたことなど、白髪のルーツを探る構成になっています。以前の展覧会で拝見した具体のパフォーマンス記録映像で、白髪は『超現代三番叟』を演じており、その衣装の展示を思い出しながら、呉服屋の倅(せがれ)であったこととの関係があるのかも、と改めて感じました。
白髪一雄記念室 第11回展示「白髪一雄と尼崎 I -木市呉服店の資料とともに-」
一方で、具体活動時期、吉原治良没後あたりから興味を持った密教を比叡山で厳しい修行を積み学んだ時期、そして晩年と、我々が知る「足で描くダイナミックな作品」が徐々に変化しているのも、展示作品から読み取ることができます。小さな展示室ではありますが、白髪一雄という作家の全貌を垣間見れるコンパクトな良い展示でした。
■尼崎の取り組み
とはいえ、この記念室だけを訪れるには、なかなかハードルが高そうに思います。
そんな中、記念室のある尼崎市総合文化センターから少し歩いたところに、使われていなかった公民館を使い、主に若手作家を紹介する展示スペース「あまらぶアートラボ A-Lab(えーらぼ)」が2015年秋にオープンしました。トークやワークショップなどイベントも頻繁に行われており、少しでも尼崎にアートを観に来る、という環境を作ろうという関係者の熱意が感じられます。


尼崎市総合文化センターの外観と「あまらぶアートラボ A-Lab」の入口
また尼崎市総合文化センター内の音楽ホール、あましんアルカイックホールには、白髪の作品をもとにした緞帳があります。演奏会だけではなく、おなじく尼崎ゆかりの故桂米朝(人間国宝)の若手一門会なども行われているので、美術好きだけではなく、コンサートや落語などホールでのイベントにあわせてぜひ記念室に足を運び、白髪の眼の前で迫力のある作品を観ていただきたい、と強く思いました。
白髪の作品は、迫力があり展示室内での存在感を感じさせ人気もあるため、様々な美術館のコレクション展で出会うことができます。そういった時、同郷のものとして嬉しく思う半面、まとまってみる機会が少ない作家でもあるなあと感じます。おそらく作家名のついた美術館が、同じような課題を抱えて、展示を工夫したりイベントを企画していることと思います。これからは、そういった地元作家の美術館の展示もじっくり観てみたいと思いました。
■尼崎市総合文化センター 白髪一雄記念室
〒660-0881 兵庫県尼崎市昭和通2丁目7-16 尼崎市総合文化センター4階
開館時間 10:00~12:00/13:00~17:00 ※最終入室は16:30まで
観覧料 一般200円 大学・高校生100円 中学生以下無料
TEL 06-6487-0806
http://www.archaic.or.jp/shiraga/

2005年の横浜トリエンナーレで初ボランティア、それ以来、会社員のかたわら都内を中心にガイドやワークショップのお手伝いをしております。最近学んだ対話型美術鑑賞を広めるべく、レゴブロックを使ったワークショップを毎月実施中(当ブログ「レゴ®ブロックと美術鑑賞のハイブリッドな関係」でもこのワークショップについて紹介しています)。次回は7月21日(土)に東京・三宿にあるカフェSUNDAYにて開催。
| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 09:48 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑