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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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シンポジウム「アート鑑賞で育む創造力とメンタルケア 「アートで働き方改革」」レポート

こんにちは。「美術検定」実行委員会事務局です。今回は2018年9月11日に開催された、障がいのある方の仕事と社会参加を支援するフクフクプラスが主催するシンポジウム「アート鑑賞で育む創造力とメンタルケア 「アートで働き方改革」」をレポートします。


 今回のシンポジウムを主催したフクフクプラスは、主に障がいを持つアーティストの個性を活かしながら、商品開発やサービス提案、販売活動を行い、アーティストの社会参加や収入支援を行なう会社です。その事業の一環として、「脳が脱皮する美術館」と称した、障がい者アート作品のオフィス向けレンタル事業や、そのアート作品を使ってビジネスパーソンに対話型鑑賞を提供しています。シンポジウムは、ビジネスにおいてアートの効果が注目されている現状を鑑み、特に鑑賞という点からそれを検証しようとするものでした。

 シンポジウム冒頭の、パネリスト4名によるインスピレーショントークとして最初に発表されたのは、著書「エグゼクティブは美術館に集う(脳力を覚醒する美術鑑賞)」をはじめ、教育現場から鑑賞を研究する日本体育大学教授の奥村高明さん。美術検定の問題監修にも関わられています。シンポジウムでは、学校での鑑賞教育の変遷として、学習指導要領の改訂による美術館の積極的利用や対話型鑑賞の導入などの事例が紹介されました。時代によって知識は変化し、また学力は進化していること、そして今は新たな価値を見出す創造性やクリエイティブ能力など、一般的な学力とは違う学力が求められている、と奥村さんは説明されました。
 次に発表されたのは、グラフィックデザイナーで東京工芸大学教授の福島治さん。フクフクプラスのメンバーとして、障がい者アートを使った商品のデザインをはじめ、対話型鑑賞のファシリテートを実践されています。はじめて障がい者アートと出会った時の感動や、それをオフィスに飾った時の心地よさ、また鑑賞者からアートについて感じたことを引き出す対話型鑑賞の魅力が熱く語られました。
 「はたらける美術館」館長の東里(あいざと)雅海さんからは、そのユニークなオフィス兼アートスペースが紹介されました。「はたらける美術館」ではアートのある環境で仕事ができる他、ビジネスパーソン向けの対話型鑑賞「ART for BIZ」も開催されているそうです。アートのある空間は、今のビジネスに求められる創造性に何らかのインスピレーションを与えるのでは、とのことでした。
 オフィスメーカー・(株)イトーキの高原良さんからは、オフィス環境のソリューション事例の報告がありました。高原さんは、健康という点からオフィス環境の改善を行なっているそうですが、今はオフィス環境の改善は単なる福利厚生の充実から経営戦略に変化していきているそうです。経営戦略的にも、フィジカルの健康面だけでなくメンタルの健康面からもアプローチする必要があること、そのメンタル面の改善として、アート作品をオフィスに設置することで気分転換が図れることをお話し下さいました。
 
 インスピレーショントークの後は、ビジネスパーソンにアートを使った人材研修等を行なっている美術検定1級取得者のアートナビゲーター、臼井清さん(臼井さんの活動は美術検定HP「合格者の声」でも紹介しています)も登壇され、フクフクプラスの磯村歩さんをファシリテーターに、それぞれの登壇者が会場からの質問に応えました。

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 アート鑑賞がビジネス上でのパフォーマンスにどのような効用があるのか、という質問では、対話型のアート鑑賞によって自由に発言し、また人の意見を聞くことで、自分とは違った価値観を発見できる、それが他者を尊重し合えるチームメイキングにつながることや、自らの価値観を表現することは新規事業発掘における“見出す力”の醸成にもなる、といった回答がありました。とかくビジネスは管理意識が強くなり、働くワーカーも決められたタスクを処理する思考に陥りがちで、結果として自分の価値観を封印してしまう傾向にあり、対話型アート鑑賞はそれを解き放つ可能性を秘めている、といった指摘もありました。
 また、障がい者アートといわゆる名画などすでに評価されているアートとの鑑賞に違いはあるのか、という質問については、「障がい者が制作するアートは純粋で無垢な魅力があり、結果誰でも受け入れる柔らかさがある」「名画は認知されているのがかえって知識偏重型の鑑賞を促してしまい、理屈で理解しようとしてしまう。これが本来のアート鑑賞の効果を妨げてしまうこともある」という回答がありました。そして、そもそもアートの価値は時代を超えた本質的なもので、対話型アート鑑賞は時代に翻弄されるビジネスとは一線を画した永続的に活用しうるメソッドになる、という意見もありました。
 
 その後参加者は二つのグループに分かれて、福島さんの「脳が脱皮する美術館」と東里さんの「Art for Biz」のプログラムを体験しました。それぞれのグループで積極的に会話が飛び交い、対話によるアート鑑賞を楽しんでいる様子が伺えました。

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参加者は二手に分かれて、二つの対話型アート鑑賞を楽しんだ

 フクフクプラスの磯村さんは、「私たちのミッションは、ART BRINGS HAPPINESS(アートは幸せをもたらす)。社会貢献に加え、しっかりエビデンスを取りながら、障がい者アートがお客様にとってどのような価値があるのかを追求していきます。アートが本当に人を幸せにすることを証明していきたいですね。」とおっしゃっていました。アートや福祉関係の社会貢献だけでなく、障害をもつ人々の自立支援、社会参加を創造的視点で行なうフクフクプラスの活動は、あらためて“アートは私たち人間に何をもたらすのか”といった根源的なメッセージを発信しているように思いました。フクフクプラスの今後の活動に注目です。


画像提供=(株)フクフクプラス

取材・文=高橋紀子(「美術検定」実行委員会事務局)

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