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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「中村屋サロン美術館」

こんにちは、アートナビゲーターの津田千鶴です。
本を買ったり、映画を観たり、何かと馴染みの新宿。特によく訪れる紀伊國屋書店新宿本店。
その向かいのビル、中村屋さんのレストランも入っている新宿中村屋ビル3階に、4年前の2014年、中村屋サロン美術館が開館しました。
えっ? 中村屋に美術館? なぜ? 
そこには、若き芸術家たちのロマンあふれる青春の軌跡と、新宿の文化を支えてきた人々の歴史が秘められていたのです。


■雑踏の只中の静謐さ

 喧噪に満たされた新宿駅東口。駅を降りると、くらくらするほどの賑やかさです。人混みに圧倒されつつ、新宿通りを伊勢丹新宿本店の方面へ2分ほど歩くと、家電量販店、タカノフルーツパーラーの並びに新宿中村屋ビルの入口があります。地下2階にはレストラン、地下1階にはお菓子や総菜のお店、上階にもファッションブティック店などの他、やはりレストランが営業しています。中村屋といえば、すぐ思い出されるのはお馴染みの“中華まん”“月餅”“羊羹”“ピロシキ”“クリームパン”のようなお菓子やパン類、またレストランでは、何といっても“インドカリー”“ボルシチ”が名物。そんな新宿中村屋ビルの3階に、美術検定応援館でもある中村屋サロン美術館があります。
 その美術館に足を踏み入れると、遠い明治大正の世に、東京で学び、芸術や人生について語り合い、切磋琢磨して青春を生きた人々の息吹に触れ、そして新宿の文化と中村屋の黎明期の日々が彼らと分かちがたく結びついているのを、私たちは知ることができるのです。

 さっそく訪れてみましょう。

 ビルのエレベーターで3階。降りて左に行くと、外の賑わいを忘れるような、静かな佇まいの一画が現れてきます。ここが中村屋サロン美術館です。入館料は企画によって変わるとのことですが、私が訪問した時は300円でした。美術検定合格認定証を提示すると所蔵品のポストカードをいただけるので、お持ちの方は提示をどうぞお忘れなく。
 美術館のエントランスには、かつてレストランの壁を飾っていたという大内青圃の大きなレリーフ≪牧女献糜(ぼくにょけんび)≫が優しく迎えてくれます。そして振り向くと、訪れた時は日本の近代彫刻黎明期の傑作、荻原守衛(碌山)の作品≪女≫がありました。

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美術館のエントランス


■若き芸術家たちと中村屋の創始者夫妻

 「≪女≫は女性の悩みの絶頂をシンボルしてゐるものだと思ひます」(書籍『碌山のことなど』より)と中村屋創始者、相馬黒光(そうまこっこう)は語っています。この像を見た時、彼女は「これはわたしだ」…そう感じずにはいられなかったようです。あるいはこれは、この像を見たすべての女性が感じることなのかもしれません。ちなみにこの石膏原型は、現在東京国立博物館に所蔵され重要文化財に指定されています。
 中村屋の創始者である相馬愛蔵・黒光夫妻は、明治の若者として東京で学んだ人たちでした。彫刻家、荻原守衛(碌山)とは、互いが10代、20代の頃から親しく家族同様に付き合ってきました。そして、相馬夫妻が明治40年(1907年)新宿にお店を開いた後、守衛たち若い芸術家は、文学、美術、芸術全般に理解を示す夫妻の人柄もあり、中村屋に集まって語り合い、腕を磨き合いました。主人の愛蔵はわけへだてなく彼ら芸術家を迎えたばかりでなく、後に中村屋の名物となるインドカリーを提案したラス・ビハリ・ボースというインドの亡命革命家をかくまったり、ワシリー・エロシェンコというロシアの盲目の詩人を助けたりしました。エロシェンコの姿は、画家の中村彝や鶴田吾郎が肖像画として残しました。また夫人の黒光は、昼はパンや菓子を売るという商売に励み、子供たちを育てながらもはっきりした自分の考えを持つ、サロンの中心となる女性でした。そんな彼女への憧れが、守衛の彫刻に表れているとも考えられます。
 守衛はアメリカ、フランスで学び、日本に帰国してわずか2年の間に輝かしい仕事を残したものの、相馬夫妻に看取られながら弱冠30歳で夭折してしまいました。
 サロンに集まった芸術家には、この荻原守衛、中村彝の他、斎藤与里、中村不折、戸張孤雁、高村光太郎、柳敬助などがいて、その様子は“中村屋サロン”と称されるようになりました。美術館の名前もそれにちなんでいるのです。


■明治、大正の清新な息吹に触れる

 平成も終わろうかという今、明治や大正時代は古びた遠い歴史のようです。ところがこの中村屋サロン美術館を訪れると、当時開国まもない日本を、文化面でも西欧に負けない国にしようと闘い、「生きるとは何か?」「芸術とは何か?」と考え抜いた人々の若い魂がまざまざと感じられるのです。
 美術館は、荻原守衛ほか中村屋サロンに集まった芸術家たちの作品を中心に所蔵していますが、現代の新進作家の展示も行なっています。
 展示室は入口すぐにやや小さい「展示室2」、奥に広めの「展示室1」があり、それぞれで別の展示を行うこともあります。2018年夏には展示室1で「コレクション展示」、展示室2で新収蔵作品 アンリ・リヴィエール「エッフェル塔三十六景展」が行われていました。19世紀から20世紀初頭のパリは、セザンヌの作品が大評判となっていた時代でした。守衛も、そのことについて高村光太郎とロンドンで語り合ったりしています。その彼らが見たであろうパリの風景が、リヴィエールの手で葛飾北斎の影響のもとに描かれているのです。日本美術の西欧への影響は近年話題になっていることでもあり、また当時パリに渡った日本の芸術家たちの暮らしに思いを馳せることができました。新収集とのことなので、今後も展示される機会があると思われます。
 2018年秋から冬の展示は、9月15日から12月9日まで「企画展示 独往(どくおう)の人 會津八一(あいづやいち)展」、12月15日から2019年2月24日までは「コレクション展示 中村屋サロン」が開催される予定です。會津八一は、相馬夫妻の長男の恩師という縁で、中村屋の看板や羊羹の名前などを揮毫しています。おなじみのお菓子の品格のある題字は名のある人の作だったのか、仇やおろそかにできないことだ、と改めてじっくりと拝見しました。

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 「會津八一展」のポスター


■お土産は?

 この小さな美術館のミュージアムショップコーナーには、収蔵作品の絵葉書、一筆箋、メモ、クリアファイルの他『新宿ベル・エポック』(石川拓治・著)といった書籍や『斎藤与里のまなざし』など図録が販売されています。とくに碌山美術館発行の小冊子『荻原守衛』(高村光太郎著)、『碌山のことなど』(相馬黒光・著)、『愛と美に生きる 彫刻家 荻原守衛』(碌山美術館・編)は、300~350円という手頃な価格で当時をしのぶことができます。


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これらの関連書籍はショップで購入可能

 この新宿中村屋ビルにはレストランがあります。しみじみと芸術家たちのロマンに触れた後は、地下2階のレストランで食事をして余韻にひたるのもよいと思います。レストランでの私のおすすめは“ナポリターノ”です!


■中村屋サロン美術館
〒160-0022 東京都新宿区新宿三丁目26番13号 新宿中村屋ビル3階
開館時間 10:30~19:00(最終入館18:40)
休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)、展示入替時、年末年始
入館料 展示によって異なる
※障がい者とその同伴者1名、高校生以下無料(証明証を提示してください)
※美術検定合格者へは、合格認定証提示でポストカードを進呈
Tel 03-5362-7508
URL http://www.nakamuraya.co.jp/museum/


プロフィール
2017年美術検定1級合格(1級記述問題の「模範解答」に選んでいただきました!)。子供たちのためのアートカードによる美術鑑賞教育のボランティア、各種イベントのレポート、司会、アートガイド、編集者・ライターのための企画講座講師などを行なっています。


| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 10:18 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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