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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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アートナビゲーター美術館コレクションレポート「ひろしま美術館」

山口県周南市のNodezaroです。今回は「ゴッホが愛した風景画家 シャルル=フランソワ・ドービニー展」を開催中のひろしま美術館を訪問し、美術館スタッフの方からお話を伺えましたので、そのレポートをさせていただきます。


 ひろしま美術館は1978年に開館し、昨年2018年に開館40周年を迎え、その間ずっと中国地方の美術シーンをリードする存在であり続けています。今回、古川学芸部長、鳥田広報部長、そして農澤学芸員のお三方より美術館の歴史をお聞きし、その開設も高い理想に基づくものと分かりました。

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青銅葺きの丸屋根が印象的な美術館正面

 ひろしま美術館の建設は、広島銀行の創業100周年の記念事業として、当時の広島銀行・井藤頭取が市民の癒しの場を創ることを目的として始められました。1960~70年代当時、いまだ町は戦後を引きずっており、町には傷痍軍人の姿が見られ、現在、美術館が建っている場所はバラック街だったそうです。井藤頭取は、市民の憩いの場がないことに気付き、市民に生活から切り離されたくつろぎや安らぎを享受するような存在、ゆったりと絵を実感できる空間を提供しようと思い、建設が始まりました。
 私立美術館の場合は、社長の個人コレクションが基になって設立されることも多いようですが、井藤頭取はサラリーマン頭取であり、美術館の建設は初めから銀行の事業として取り組まれていました。銀行がそんな先進的な事業を行うことに、銀行内部や大蔵省(現・財務省)からも反対があったとのことです。しかし、市民に安らぎの場を提供するという井藤頭取のコンセプトは理屈の通ったものであり、それを押し通されたので、やがて反対の声も聞かれなくなったそうです。折から広島市では、広島城と平和公園を結ぶこの地区に残っていたバラック住宅を整理し、図書館などのある文化地区として整備する構想を進めていました。市は井藤頭取の構想を、私立とはいえ広島市民のための美術館と捉え、土地の所有者である国との調整や出資などの協力を行いました。その時の唯一の約束が「(美術館を)閉めないでくれ」、つまり永続的に開館する、ということだったそうです。今では企業メセナという言葉は良く聞きますが、ひろしま美術館の建設と運営は、その早い実践例だったんですね。

 コレクションも、広島銀行創業100年事業がスタートしてから7、8年で収集されたそうです。安らぎの空間を作るというコンセプトのもと、あまり難しいものでなく、ほっとできるような作品、皆がほっとできるような絵ということで、印象派、それに西洋美術に影響を受けた日本の洋画、日本画が選ばれたそうです。
 作品の選定も、基本的に井藤頭取の目で集められたとのこと。相談役として美術評論家の高階秀爾氏、河北倫明氏などにお手伝いいただきながらも、最後は井藤頭取自身の目で、市民の目線で決めた、だから素人の目が生きている、分かりやすくて明るくてきれい、くつろぎが得られる絵をコレクションとして選ばれました。全く良い意味でその通りだと思います。

 石積の円形の印象的な建物は日建設計の設計で、担当したのは与謝野鉄幹の孫である與謝野久氏。今では美術館の設計を得意とする日建設計ですが、美術館設計に取り組んだ最初の作品とのことで、今どきのモダン建築の尖った美術館というより、ちょっと西洋的なクラシックの匂いのする、愛と安らぎという美術館のコンセプトに良く調和したものとなりました。

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入口ではエミリオ・グレコ『ラウラ』がお出迎え

 井藤頭取のコンセプトにコレクションがうまくマッチし、同時に建物もいい空間を作りたいという思いにも見事に合致した美術館が出来上がり、無事2018年に40周年を迎えました。

 今後は50周年に向けて、当初のコンセプトは守りつつ、次の時代にどう対応していくかが、目下の検討課題だそうです。
 市民のために蒐集した印象派を中心とする素晴らしいコレクションについても、40年を経て「若い世代にとっては、初めからそこにある、あって当然の存在になっているように思います。いかに貴重かをPRしていかないといけないと感じています。また、東京には良い美術館がありますが、地方にもこういうコレクションがあるんだよ、と全国の人にも知ってもらいたいとも思っています。」、また「広島は海外からの観光客の中でも欧米からのお客様が多いこともあり、こういう方々への認知度も高めたい。欧米からのお客様にフランス印象派を宣伝するよりも、せっかく日本に来たので日本の絵画が見たいという声に応えたいし、日本画の展示スペースも充実させていきたいですね。“ひろしま美術館”らしい展覧会をやっていきたいと思っています」と、美術館50周年構想を熱く聞かせていただきました。

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お話を伺った鳥田広報部長と古川学芸部長

 現在、開催中の「ドービニー展」は、筆者は幸い先に巡回した山梨県立美術館でも観ていたのですが、ひろしま美術館としては、ゴッホを所有する美術館として、ゴッホをちゃんと知って欲しい、繊細な絵を描いているということを知って欲しい、その意味でゴッホが尊敬しているドービニーを紹介する展覧会を随分前から構想されていたそうです。そしてようやく、ゴッホを所蔵しているひろしま美術館、東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館とバルビゾン派の作品を所蔵している山梨県立美術館、この3館が中心となって「ドービニー展」が実現できたとのことでした。ドービニーの水辺を描いた作品を良く見ると、水鳥などがシークレットっぽく描きこまれていたりして、意外と茶目っ気のある作家さんでもあります。
 
 今回お会いした美術館スタッフのお三方からは、油絵の技法や開催中の話題の展覧会のことまで、多岐に渡る楽しいお話を伺えました。最後にお話し下さった、「来てくれた方は素直に見てくださる」という言葉が印象的でした。学生時代を広島で過ごした自分としては、ひろしま美術館とは30年来のお付き合いでしたが、今回直接お話を伺って、美術館の見え方が変わってくるように思いました。
 市民に安らぎの場として生き続ける“ひろしま美術館”。広島市の方もそうでない方も、まだ行かれてない方はぜひ一度、行かれたことがある方はぜひもう一度、訪れてみてはいかがでしょうか?

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美術館併設のCafé Jardinでもおくつろぎいただけます


※「ゴッホが愛した風景画家 シャルル=フランソワ・ドービニー展」
~3月24日(日) ひろしま美術館
4月20日(土)~6月30日(日) 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
以降 鹿児島、三重を巡回予定


■ひろしま美術館   
〒730-0011 広島県広島市中区基町3-2
開館時間 午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)
休館日 特別展開催時を除く月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12/29~1/2)
特別展入館料 大人1300円 大学生・高校生1000円 中学生・小学生600円
※特別展入館料は展覧会により異なる
※団体はそれぞれ200円引き
TEL 082-223-2530
http://www.hiroshima-museum.jp/


プロフィール
出身地の山口県周南市で、美術とはほぼ無縁の公務員をしてる50過ぎのおじさんです。
学生の頃は「美術部」で油絵を描いてました。100号とか描いたこともあります。日本の美術教育の賜物で、美術鑑賞に関心が移るのはようやく社会人になってから、美術検定もその里程標として受けてみました。2010年、2度目の受験で美術検定1級取得、その後の7年間、自分も含め”アート”を取り巻く世の中の環境は随分変わったなー、と感じます。かく言う爺も@Nodezaroでインスタグラムなんてものもやってますので、ご興味のある方、是非、覗いてみてください。

| 連載「アートナビゲーター・美術館コレクションレポート」 | 09:50 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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