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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

「美術検定」のオフィシャルブログです。

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市民の力で美術館を!「おだわらミュージアムプロジェクト」の活動

こんにちは。神奈川県小田原市在住のアートナビゲーター・野口誠之です。
今回は、私が参加している市民活動グループ「おだわらミュージアムプロジェクト」の活動状況をレポートします。


 おだわらミュージアムプロジェクト(OMP)は、最終的には“小田原にも美術館”を目指して活動している団体です。しかし、単なる要望団体ではなく、小田原を中心とした西湘地域のアートシーンを盛り上げ、美術館を受け入れる土壌を造り出そうと活動する団体であり、ギャラリーの支配人やスタッフ、地元FMのパーソナリティ、エッセイスト、議員、学芸員有資格者、地元美術協会の委員など多士済々のメンバーが集まり、様々な活動を繰り広げています。

 その活動の嚆矢と言えるのが、以前この美術検定ブログ「ミュージアムへと続くプロジェクト~市民有志の挑戦~」でも紹介させていただきました「長谷川潾二郎展」の開催です。その紹介レポートの最後に「新しい地域文化の潮流を感じつつ、行政を巻き込んで芸術のよりどころをつくろうというOMPメンバーの挑戦は始まったばかりだ。」と書かせていただきましたが、今回は、“有言実行”その後のOMPの活動を紹介させていただきます。

 まずは、OMPメンバーの研修活動です。
 研修では、近隣各地の美術館、市民ギャラリー等を視察し、その設置の経緯や目的、運営方法などの調査を行っています。施設を見学するだけではなく、予め相手方に来訪の意図や調査の内容などを伝え、質疑応答や意見交換の時間を取っていただき、美術館運営のノウハウを知ろうというものです。今までに、茅ヶ崎市美術館うらわ美術館藤沢市アートスペースアートラボはしもと川口市アートギャラリー・アトリア横浜市民ギャラリーあざみ野などを視察してきました。

 また、メンバーだけではなく、市民の皆さんのアートシーンへの関心を高めてもらう活動として、アートツアーも実施しています。 
 アートに親しもうとしても、なかなかそのきっかけのつかめない方達のために、いくつかの美術館やギャラリーをセレクトし、小旅行気分でアートに触れる楽しさを体験してもらう参加体験型のイベントで、毎回好評を博しています。なかでも東京の谷根千といわれるエリア、谷中・根津・千駄木近辺のアートスペースを巡るツアーは、参加者の満足度が高かったようです。

 しかし何と言ってもOMPが力を入れているのが、貴重な芸術資源である美術品の保存・管理に関わる事業です。
 西湘地域ゆかりの作家の美術品の最大のコレクターは、小田原市です。市展入賞作品の買い上げ、著名作家やその遺族からの作品の寄贈等で市が保管している美術品は、郷土資料館などの収蔵庫で管理されているもの以外に、市内の公共施設で備品として管理しているものも数多くあり、市の管財課の備品台帳に記載されている物だけでも700点を超えます。
 しかしながら、それらは什器や用具類などと同様に扱われており、台帳にも作品や作家に関する基本データ、展示場所等の情報は全く記載がなく、保管状況も分からない状況にありました。

 OMPは、美術品のこのような扱いがその芸術的価値を損なってしまうのではないかと憂慮し、まず現状把握のための現物調査を行うことにしました。
 手始めに、市民会館所蔵の美術品について、作品の写真、制作年、作家の略歴、その保管状況等の情報を台帳として整備することとしました。しかし、作品の多くが長年放置され、壁の一部のような存在となっており、キャプションもなく、日にさらされ、埃を被り、額は傷みという劣悪な保管状況にありました。
 このため、台帳整備や補修作業に必要な資金を確保しようと、市が募集している「平成29年度市民提案型協働事業」に応募しました。結果、「小田原市所蔵美術品の保存管理と活用」として事業採択され、作品の補修や洗浄作業を台帳整備と並行して行えることになりました。

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市民会館での美術品の洗浄作業

 さらにOMPは、これらの作業を終えて往年の輝きを取り戻した美術品を市民に公開すべきだと考え、市の協力を得て、「よみがえった市民会館の絵画たち展」を開催しました。広報用のリーフレットなども作成し、1週間という短い会期でしたが、作家本人やその関係者の方々のみならず、広く市民の皆さんにも見ていただくことができました。

 この事業は3ヶ年継続で採択され、2018年度は市庁舎に保管されている美術品の台帳を作成、引き続いて2019年度は、市立病院や中央公民館などの保管作品についても台帳を作成することになっています。今後、これらの写真を添付した台帳を、市所蔵美術品のアーカイブとして誰もが閲覧できるよう市のホームページへの掲載を計画しています。

 展覧会の開催と言えば、地元ゆかりの作家の皆さんの作品を所有者からお借りして、小田原市内のショッピングモールにあるギャラリーで「郷土の画家たち展」も開催しました。近藤弘明や、村上春樹の「騎士団長殺し」のモデルと言われている井上三鋼など、小田原を中心に活躍した15人の作家の29点の作品を展示しました。ご子息やお弟子さん達によるギャラリートークも行い、協賛金を集めて作成した図録とともに、来場者の好評を得ることができました。

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盛況だったギャラリートーク

 最近では、これらの活動実績が認められて、市の担当部局との懇談会も行われるようになりました。今後も我々OMPは、行政とも協働し、西湘地域のアートシーンをさらに発展させていくため、メンバー全員の力を結集してその活動にあたっていきたいと思っています。OMPの今後の活動にもぜひご注目ください。


プロフィール
美術検定1級合格は2008年ですが、美術館やギャラリー巡りを趣味としてから40年近くになります。一方でフルマラソン完走11回のサブフォーランナーなので、美術館巡りとランを一緒にと思っているのですが、汗だくのランニングウェアのまま入館できないのがネックです(笑)。

| アートナビゲーター活動記 | 10:29 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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