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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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美術検定1・2級合格者対象イベント 「京都でアーティストと美術鑑賞」レポート

皆さまはじめまして。大阪府在住のアートナビゲーター、松尾です。今回は、2019年4月20日に京都で開催された「美術検定」1・2級合格者対象イベント、「京都でアーティストと美術鑑賞」についてレポートいたします。


 今年1月27日に、東京で「美術検定」実行委員会事務局主催のイベントとして「アートナビゲーター懇親会@東京」が開催されましたが(その内容については当ブログ「美術検定アートナビゲーター懇親会@東京レポート」をご参照下さい)、今回のイベントは、いわばその京都版。関西はもとより東は東京から西は山口まで、日本各地から20名の1・2級合格者が、会場である庵町家ステイの本社に集いました。
 同社は、京都の古い町家をリノベーションし一棟貸しの宿泊施設として提供している企業で、その本社オフィスも築100年を越える町家。能の稽古のための舞台が設えられており、時に展覧会も開催される、「美術検定」関連のイベント会場としてはぴったりの場所でした。

1 作品鑑賞・チームディスカッション

 「美術検定」を運営する一般社団法人美術検定協会・志田拓也理事の挨拶の後、プログラムがスタートしました。
 まず参加者は、会場に展示された2つの絵画作品をじっくりと鑑賞。比較的小振りな金地の日本画(作品1)と、それよりふた回りほど大きな抽象画(作品2)のそれぞれに何が描かれているか、作家が何を表現しようとしているかについて、自分なりの答えを出していきます。その後、20名の参加者は5人ずつ、4つのグループに分かれてディスカッションを行い、意見をまとめました。

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会場となった庵町家ステイの能舞台と、真剣に作品を見つめる参加者たち

2 意見発表

 まとまった意見を、各チームの代表者が発表しました。

【Aチーム】
作品1:金地に描かれた菊の花は、まさに琳派的。
作品2:一見抽象的だが、少し引いて観ると、花のような形が見えてくる。
【Bチーム】
作品1:琳派の影響を受けているが、背景の月に合わせて桔梗の花を丸くデフォルメしたのではないか。
作品2:キラキラした部分が着物、おそらく十二単を表現しているように見える。
【Cチーム】
作品1:花はかなりデフォルメされているが、葉の形から考えて、描かれているのは桔梗だろう。
作品2:抽象作品に見えるが、白く塗り残した部分は花、おそらく百合に見える。
【Dチーム】
作品1:様々な琳派作品の部分を組み合わせると、こんな作品ができあがるのではないか。
作品2:尾形光琳が21世紀に《燕子花図屛風》を描けば、こうなるのではないか。

3 作家本人による答え合わせ

20190510_2 ここで、2つの作品をそれぞれ描いたアーティストが登場。右に設置された作品1の作者は、品川亮さん(1987年:大阪生まれ、2016年:京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻ペインティング領域 修了)で、左側の作品2の作者は、中村萌さん(1991年:京都生まれ、2016年:京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻ペインティング領域 修了)です。品川さんと中村さんは、もうひとりのアーティスト(品川美香さん)を加えた3人で、今年1月に庵町家ステイが運営する宿泊施設のひとつ「筋屋町 町家」で、「呼吸する庭」と題した展覧会を開催されています。 

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2019年1月の「呼吸する庭」展の模様 photo: Saki Maebata
 
 品川さんの作品のタイトルは《桔梗図》で、桔梗などの秋草と月を描いたもの。モティーフを抽象化したり、単純化したりしたいと考えて、琳派的に仕上げたそうです。
 中村さんの作品のタイトルは、英国のロック・グループ「クイーン」の初期のヒット曲と同じ《Keep Yourself Alive》。百合の花のシルエットを、抽象的な模様の中に浮かび上がらせたとのことでした。
 作家の意図と鑑賞者が感じたものとの違い、また観る人によっても捉え方が異なること。「数学などとは違って、アートにはたった一つの答えがあるわけではない」とよくいわれますが、このイベントの参加者がその言葉を体感し、美術の奥深さを再認識できる絶好の機会となったようです。

4 自作解説

 会場内にはプロジェクターを使って品川さん、中村さんの作品が複数映し出され、お2人がそれぞれの作品を解説されました。その中から2点ずつ紹介します。 
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アーティストによる自作解説

■品川さん談

《白椿》
「植物を丸く、単純化して描いている。中国から伝わってきた漢字を日本人が単純化して仮名を作ったように、絵画の世界でも単純化や簡略化することで新しいものを作ってみたいと考えた」

《菊花流水図》
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品川亮 《菊花流水図》 (2018年)

「かなり大きな作品だが、アイデアさえ出ると後は作るだけなので、1週間か2週間で描いた。岩絵具、墨、膠、胡粉、金箔を使って鳥の子紙に描いており、技法的には若冲や光琳など江戸時代の絵師たちと同じ」

■中村さん談

《Kabuki》 
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中村萌 《Kabuki》 (2016年)

「大学院の修了制作で、半年ほどかけて描いた横5m・楯2.7mほどの大きな作品。いろんなことを盛り込みたいという思いが過剰にあって、まるで地層にようになった。歌舞伎の登場人物が舞う姿が、人だか何かわからない形になった瞬間が面白いと思い、それを意識して描いた」

《Over the Rainbow》
「去年の3月に京都文化博物館で開催された「ARTISTS' FAIR KYOTO 2018」」出展作。“不思議な飛び方をする燕の、空間の使い方が良い”と思って描いた」

5 参加者の感想

 その後は司会者から2人のアーティストに、「現在の技法に至った時期や理由」などについての質問が投げかけられ、それぞれの回答に参加者は興味深そうに耳を傾けていました。美術の知識が豊富な「美術検定」1・2級合格者であっても、こうして作家から直接話を聞く機会でもないと、知ることができないような内容も多かったのではないかと思います。
 イベントの最後に、参加者全員が感想を述べました。一部を抜粋して紹介しましょう。

参加者A 「作家から直接絵の話を聞くのは初めて。見るだけではわからないことも、話を聞くことで理解できました。こういう機会があったら、また参加したい」
参加者B 「抽象作品は苦手で、いつもどう解釈すれば良いか考えてしまいます。ただし、今回は、作者の話を聞いたことで、絵画の歴史や伝統的な技法をベースにして制作されていることがわかりました」
参加者C 「作品と作者に同時に接して、作家本人から話が聞けたこと、自分と同時代を生きるアーティストの思いなどを肌で感じることができたことが良かったです」
参加者D 「過去の作家の作品は資料を読めば理解できますが、現存作家の作品については本人の話を聞くことで理解が進むとわかりました」

+++

 実は私は、大阪にある出版社(株式会社麗人社)発行の「美術屋・百兵衛」という美術雑誌の編集に携わっています。今回のイベントには、その雑誌の取材も兼ねて参加いたしました。仕事柄、ふだんからアーティストと接する機会は多いものの、反対に一般の美術ファンの方と接する機会はあまりありません。このイベントに参加したことで、そうした方が何を感じ、美術に関するどんな情報を求めているかが、少しだけわかったような気がします。ご協力いただlきました皆さまに、この場をお借りしてお礼申し上げます。

 「京都でアーティストと美術鑑賞」についての記事は、2019年7月14日(日)に発行する「美術屋・百兵衛」No.50(2019年夏号)に掲載の予定です。興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。→「美術屋・百兵衛」公式サイト/http://www.hyakube.com/

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現在発売中の雑誌「美術屋・百兵衛」(2019年春号)


プロフィール
元々いち美術ファンでしたが、美術関係の会社への転職をきっかけに美術史などを学び始め、2011年に美術検定1級を取得。美術書籍や雑誌「美術屋・百兵衛」の編集長という立場で、アートと付き合ってきました。それほど遠い日のことではない定年後は、美術館のボランティアスタッフとして、それまでとは違う角度から美術に向き合いたいと夢見ています。

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