美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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ヨコトリ:キッズ・アートガイド2011

本日2本目のブログですが、こちらも「アート・エデュケーション」の話題です。

最近では美術館や各地のアート・プロジェクトでもボランティアや市民によるガイドツアーは一般的になってきました。開催中のヨコハマトリエンナーレ2011では小中学生の子供たちがガイドをする「キッズ・アートガイド」がオフィシャルプログラムに入っています。
今回は、8月22日に開催された「キッズ・アートガイド」のもようとその舞台裏をご紹介します。

※今後の「キッズ・アートガイド」は
9月11日(日)、25日(日)、10月2日(日)、16日(日)、30日(日)の各11:10~、14:00~開催予定。
詳しくはこちらから。



素直なことばで作品を語る子供たち

本日の「キッズ・アートガイド」は、14時から約1時間、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)を会場に開催されました。会場では本日のキッズ・ガイドの子供たち4名と同プログラム専属サポーター5名が出迎えてくれました。この回のツアー参加者は親子連れや学生、中学生くらいのグループも含めた20名ほど。通常のツアーと違い、サポーターの数が多いことに驚きます。

greeting作品をみる前にキッズ・ガイドからのご挨拶があり、ここからツアーの開始です。ここで、「みなさんと一緒に作品をみて、私たちが感じたことなどを説明します」という言葉が入ります。そう、このガイドは、いわゆる作品解説と異なるところがキーなのです。この回は全7作品を廻りましたが、そこからいくつかのエピソードを紹介しましょう。



まずは2Fにある、リヴァーネ・ノイエンシュワンダーの作品《プロソポピーア》での1コマ。
粉状のものが敷いてあるところに、平仮名やアルファベットが書かれたカードやブロック状のものが並んだ箱が2つ、たまごが並んだ箱が1つ並んでいます。

wasabi 参加者は、ブロックが並んだ箱の周りに集められました。
この作品は見る人が自由に文字を組み合わせてメッセージを作れる、という作品です。さわってやってみてください」と、キッズ・ガイドから、作品と対面したとたん、作品で遊ぶ指示が飛びます。
参加者がひとしきり遊んだところで、キッズ・ガイドが作品の感想を話してくれます。
この作品を見た人が組み合わせたメッセージについて、次に見る人が思いを巡らせる、考えることもできるのが、面白いところだと思います

さらにこんな質問もされました。
この粉はなんだと思いますか?
文字ブロックの下にある、粉状のものの素材を問う質問です。実は参加者は文字遊びに夢中で、作品に使われている素材は、ほとんど気に留めていなかったのです。参加者はあわてて砂のようなものを触って確認。そして、「大豆」「塩」などの答えがありましたが、いずれも不正解。正解は「わさびの粉」と「重曹」でした。また、この作品、よくみるとブロックの方はココナッツソープからつくられていたのです。

一見すると、幼児用の文字入りウッドブロックみたいなのですが、素材にきちんと向き合うことで、作家が何を考えてつくったのか、さまざまに想像が広がります。ここで、わさびの粉や重曹はかくかくしかじかで、といった解説が入ったり、作家はこんなことを考えて、と説明されると「ふーん、そうなんだ」で終わりそうです。
しかし、「わさびの粉と重曹なんです。僕もびっくりしました」という感想付きの一言で、ぐっと作品が身近になったのです。
自分の日常と作品を結びつけるキーワードを、キッズ・ガイドさんは投げてくれました。


わさびの粉を紹介したキッズ・ガイドは、ビデオテープのインスタレーション作品でも、「ここから作品に沿って歩いて行くと景色が違うものに見えてきます。そこが僕は面白いと思います」という紹介をしてくれました。
この作品は、ジルヴィナス・ケンピナスの《5番目の壁》です。

work1 Zilvinas KEMPINAS
《Fifth Wall》2002 / 2011
Installation view for Yokohama Triennale 2011
Photo by KIOKU Keizo
Photo Courtesy of Organizing Committee for Yokohama Triennale


参加者はもれなく作品の中心であろう、展示空間の真ん中に立ち、横切るテープ全体を見ようとしていました。
そこにキッズ・ガイドの先ほどの説明です。
すると、参加者は1列に並び、順番に作品に沿って歩き始めたのです。

これは作品をどう楽しもうか、と考えたキッズ・ガイドの作品とのつき合い方が見えてくるものでした。
作品を前にすると、つい、全体を眺めて、この作品が意味するものはと思うものです。しかし、まずは作品をどうやって楽しもうかな、というところから始めると、少しずつ作品との距離が縮まることがあります。一見わけのわからない作品でも、ちょっとだけいつものアプローチを変えたら、みえなかったものがみえてくる、そんなヒントをもらったと思いました。


今回の目玉作品の1つ、クリスチャン・マークレーの《The Clock》ーさまざまな映画から時間を示す映像が切り取られ編集された映像作品ーを5分ほど見た後には、「この作品にはいろいろな映画のシーンが混ざっていたことに気付かれたと思います。そこに出てくる時間は、全部いまと同じ時間なんですよ。これってすごくないですか」というキッズ・ガイドの素直な言葉。

展示されている作品のどこがすごいのか、どうしてここにあるのか、ということは鑑賞者に共通する疑問だと思います。余計な説明なしに、いきなり作品の核心から入ることができて、その言葉が素直にこちらの心に響くのは、子供たちの声だからかもしれません。しかし、ココがスゴい!と言い切ってもらえると作品に対するモヤモヤしたものも吹っ飛びますし、同時に「自分はどこがスゴいって思ったのかな」と再度作品を考える、あるいはみるきっかけにもなるのではないでしょうか。


最後にみたのは、シガリット・ランダウの《DeadSea》。スイカと作家自身の身体を死海に浮かべ行ったインスタレーションを映し出す幻想的なビデオ映像と、シャンデリア状の有刺鉄線に死海の塩の結晶で創られたオブジェが展示されているインスタレーション作品です。

work2 Sigalit LANDAU
《DeadSee》 2005
Courtesy the artist and kamel mennour, Paris


映像作品をしばらく見た後、今回のキッズ・ガイドとしては初めて、作家の出身地に関する「情報」が提示されました。
この作家はイスラエル出身です。戦争がたえない地域ですね。スイカはこの国の特産物だそうです。この映像はとってもきれいだけど、スイカがどんどん消えて行くところに戦争で人がたくさん亡くなっている哀しさとか、平和への祈りのようなものを感じました」という提示の仕方です。

このキッズ・ガイドは中学生でした。作品のバックグラウンドも勉強したと思います。しかし、最小限の情報に絞って、自分が作品のどこから何を感じたのか、ということをしっかりとわかりやすい言葉で我々に伝えてくれたのです。こちらもそれによって作品を再度みようと思いますし、スイカや女性、水が意味することも考えたくなります。
映像自体も魅力のある作品でずっとみたくなるものでしたが、キッズ・ガイドの言葉によって、多くの参加者はこの作品の前からなかなか離れられなくなったのです。



キッズ・アートガイドの舞台裏

この「キッズ・アートガイド」では、ツアー参加者に作品や作家に関する情報が提供されることはほとんどありません。子供たちが作品と向き合い、そこから感じたこと、考えたことを発表し、鑑賞者と一緒にシェアする、という進行でした。鑑賞者のみかたや考え方を重視する「対話的」な鑑賞ツアーとも異なります。
どうやってこのようなツアーができたのか、ヨコハマトリエンナーレ2011のプログラム・コーディネーターに尋ねてみました。

「ガイドを務める子供たちは公募で集まってくれた29名です。全員に4回のワークショップを受講してもらいました。ワークショップの企画には、京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターの鑑賞教育のプロに入っていただき、作品と向かい合うこと、思ったことを自分の言葉で話すトレーニングをすることになりました」

その具体的内容は次のものです。

1)モネの《睡蓮》のパズルを作る
→1枚の作品の細部までみて、混色の工夫や光の表現など、さまざまなことに気付く

2)横浜美術館のコレクションからあらかじめ選ばれた3作品のうち1作品を選び、その作品について誰かに手紙を書いて説明する
→作品を細部までみる、自分の言葉にする、人に伝える工夫をする

3)ヨコハマトリエンナーレ2011の展示作品(スライド)をみて、好きな作品について人に伝える
→作品をじっくりみて、伝える内容を考える、ガイドのイメージをつかむ

4)実際にヨコハマトリエンナーレ2011の作品を会場でみて、ガイドしたい作品を選び、ガイドのリハーサルをする

展示作品についての情報は、事前に『公式ガイドブック』が子供たちに渡され、子どもたちのガイドを周りで手助けするサポーターによるアドバイスもあったそうです。また、ワークショップやアートガイド本番以外の日にも各自が作品や話し方の勉強を自主的にしてきた子どもたちもいるとか。
「子供たち自身が話す内容はもちろん、話し方も考えてきています。なかには、台本をつくっていた子供もいたんです」とのこと。

わずか4回のワークショップですが、子供たちは鑑賞の基本である「みる」「考える」「話す」をしっかり身につけたのでしょう。ここに学校とは違う「学びの場」が創り出されていたことに気付きます。

作品について「感覚」で語るのではなく、作品のどこからそう思ったのか、目の前の作品の中にある情報に根拠を求めるロジカルなプロセスを踏んで、考えたことを自分の言葉にして話す。キッズ・ガイドの子供たちにはこの方法が身に付いているようです。そのため、鑑賞者はガイドツアーに参加すると、難しい言葉やたくさんの知識を並べられなくても、作品に入りやすくなり、作品をよくみたくなる方へ引っ張られるという連鎖反応を体験ができるのかもしれません。作品をよくみるための水先案内人の存在は、作品を「眺める」だけに終わりがちな鑑賞者にとっては貴重だと思われます。鑑賞者にとっても、このガイドツアーは「学びの場」になることでしょう。

*****

さて、この子供たちの活動を支えているのは、同プログラムのコーディネーターである横浜山手中華学校の王節子先生と横浜美術館学芸員を含む横浜トリエンナーレ組織委員会のスタッフ、専属サポーター18名です。サポーターの一部は、過去の横浜トリエンナーレのキッズ・ガイドの経験者だそうです。
子供たちがこのような活動をする場合は、保護者への連絡から行き帰りの配慮まで、主催者側の準備や細かな配慮も必要になります。ツアー中も、参加者の誘導や子供たちのフォローに、サポーターたちが黒子のように立ち働いていました。

このようなプログラムは、さまざまな条件がそろわなければ実現が難しいプログラムかもしれません。しかし、アートの種を人々の心にまくこと、社会が子供たちを育てることにつながる事例の一つと考え、ここに採り上げました。

取材・文=染谷ヒロコ(本ブログ編集)
画像提供=横浜トリエンナーレ組織委員会

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