サポーターが支える美術館の鑑賞プログラム
こんにちは。群馬県立近代美術館でボランティアをしています箱田です。
同館の教育機関向け鑑賞教育支援の取り組みである「スクールプログラム」は、参加校が年々着実に増え、近年では県内のみならず東京、埼玉、栃木からも申し込みがあります。
今回はその「スクールプログラム」とそこで活躍する鑑賞サポーターについてご紹介したいと思います。
同館の教育機関向け鑑賞教育支援の取り組みである「スクールプログラム」は、参加校が年々着実に増え、近年では県内のみならず東京、埼玉、栃木からも申し込みがあります。
今回はその「スクールプログラム」とそこで活躍する鑑賞サポーターについてご紹介したいと思います。
群馬県立近代美術館の「スクールプログラム」を支える鑑賞サポーターは美術館ボランティアの有志で組織されており、現在35名が活動しています。作品や美術館に関する基本的な研修はボランティアになる際に受講しますが、鑑賞サポーターはさらに所蔵作品のアートカードを使ったゲームや対話型鑑賞についての研修と実地研修を受けています。
まずは、同館での鑑賞サポーターの役割などを紹介しましょう。
サポーターは主にアートカードによるゲームのインストラクターであり、グループ鑑賞におけるファシリテーターです。サポートを行う上での最も大切なルールは決して作家や作品についての解説にならないこと、こどもの意見をありのままに受け止め、共感することです。
そのために、毎回の活動終了後にこどもたちの反応や発問の仕方などについての情報交換会や、月1回の鑑賞研究会を行っています。鑑賞研究会では、学芸員さんの指導のもとで所蔵作品の作品研究をしたり、アートカードゲームの進め方の改良やワールド・カフェ形式での対話などを行って常にサポートに活かすようにしています。
次に「スクールプログラム」の内容をご紹介します。実施形態は、主に基本的にグループでの鑑賞活動です。例えば、こども5~8人のグループに1人のサポーターが付き、以下のような流れで行っています。
1)当日展示されている所蔵作品のアートカードを使ってゲームを行い、その中から見たい作品を数点選んでもらう
2)グループ毎に実際に作品を見ながら対話形式で鑑賞する
3)学校のリクエストによっては、ワークシートによる自由鑑賞、企画展鑑賞、美術館探検(茶室、屋外彫刻、付帯施設等)などのアレンジも可能
また、来館によるプログラムの他、学校に出向いて行う出張授業もあります。出張授業では教室や集会ホールを美術館に見立て、所蔵作品をポスター大に印刷したもので同様の鑑賞活動を行います。
スクールプログラムの詳細はこちらからご覧ください
鑑賞の前に行うカードゲームは、絵をより深く見るためのウォーミングアップであり、また、こどもたちと担当サポーターとのコミュニケーションにとても効果的です。
例えばサポーターが作品の特徴が読み込まれた読み札を読み上げ、こどもたちに作品カードを取ってもらう‘アートかるた’では、読み札に‘秋の森’とあれば、サポーターは「秋の森ってどんな色かな?」、‘雨’とあれば、「雨がふっていると景色はどんなふうに見えるかな?」などとこどもたちが言葉をイメージに置換していく手助けをします。こどもたちは、読み札の言葉とサポーターの質問を頼りに目を凝らし、話し合い、読み上げられた作品を絞り込んで行くのです。また、見たい作品を選んでもらう際に「どこが気になったの?」「どのくらいの大きさだと思う?」などと言葉を交わすことで、その後のグループ鑑賞の手掛かりとすることができます。
こうして目と心を柔軟にして展示室へ向かいます。
写真/アートかるたでだんだん前のめりになっていくこどもたち
グループ鑑賞では、こどもたちに作品には何が描かれているのか、気付いたことや感じたことを話してもらい、サポーターはそれを受け止め、より深める方向に発問したり、こどもたちそれぞれの表現をまとめたりします。
先日は、緻密な色の異なる縦横の線で描かれた地に大きさと色の異なる大きな丸が四つ描かれているオノサト・トシノブの抽象画を見ていると、「背景が布(織物)みたい」という子、「じゃあ、丸は?」と聞くと、他の子が「丸はお皿みたい」、すると別の子がすかさず「大きいお皿はお父さんとお母さんで、赤いお皿はお姉ちゃん、一番小さい青いお皿は弟でご飯を食べているところ!」と話してくれました。
オノサトの作品は時に曼荼羅のように宇宙観を感じる作品が多いのですが、‘家族の食卓の風景’こそがこどもにとっての‘宇宙’そのものなのだと逆に教えてもらった気がします。作品をツールにさらに、人それぞれの感じ方、考え方が違うことの面白さもたくさん感じてもらいたいと思います。
実際の作品を前に最初は緊張気味のこどもたちも、自分の言葉を探し、発するにつれ次第に饒舌になって、また友達の言葉に触発されて、新しい見方ができたり、さらなる想像が膨らんだりと、表情が生き生きとしてきます。
写真/じっくりと作品と向き合うグループ鑑賞の様子
*****
サポーターの役割はこどもたちと作品との出会いの仲立ちをすることです。こうした機会が、これからの文化の担い手であるこどもたちが世界を見る窓となり、人生を豊かにする種となってくれることを心から願っています。
いつも最後にこどもたちに伝えている言葉があります。
「美術館の作品は皆さんひとりひとりのものです。お気に入りの作品を見つけて、これからも時々会いに来てね。きっと新しい発見があるよ」
プロフィール/絵を見ることが好きで、1993年から群馬県立近代美術館でボランティアを開始。2008年より同館スクールプログラム開始とともに鑑賞サポーターに。2007年に「美術検定」1級合格。
ボランティアやサポーター活動に、より作品や作家の背景を理解するために美学や美術史の知識が必要と考えて、美術検定関連の本で勉強を始めました。
受験の際、役立った勉強方法は、『美術の常識』シリーズなどQ&A形式の本で成果を数値化し、モチベーションを上げたこと。また、その解説でポイントをつかんでから『カラー版美術史』シリーズなどを読むと頭に入りやすかったです。
まずは、同館での鑑賞サポーターの役割などを紹介しましょう。
サポーターは主にアートカードによるゲームのインストラクターであり、グループ鑑賞におけるファシリテーターです。サポートを行う上での最も大切なルールは決して作家や作品についての解説にならないこと、こどもの意見をありのままに受け止め、共感することです。
そのために、毎回の活動終了後にこどもたちの反応や発問の仕方などについての情報交換会や、月1回の鑑賞研究会を行っています。鑑賞研究会では、学芸員さんの指導のもとで所蔵作品の作品研究をしたり、アートカードゲームの進め方の改良やワールド・カフェ形式での対話などを行って常にサポートに活かすようにしています。

1)当日展示されている所蔵作品のアートカードを使ってゲームを行い、その中から見たい作品を数点選んでもらう
2)グループ毎に実際に作品を見ながら対話形式で鑑賞する
3)学校のリクエストによっては、ワークシートによる自由鑑賞、企画展鑑賞、美術館探検(茶室、屋外彫刻、付帯施設等)などのアレンジも可能

スクールプログラムの詳細はこちらからご覧ください
鑑賞の前に行うカードゲームは、絵をより深く見るためのウォーミングアップであり、また、こどもたちと担当サポーターとのコミュニケーションにとても効果的です。

こうして目と心を柔軟にして展示室へ向かいます。
写真/アートかるたでだんだん前のめりになっていくこどもたち
グループ鑑賞では、こどもたちに作品には何が描かれているのか、気付いたことや感じたことを話してもらい、サポーターはそれを受け止め、より深める方向に発問したり、こどもたちそれぞれの表現をまとめたりします。
先日は、緻密な色の異なる縦横の線で描かれた地に大きさと色の異なる大きな丸が四つ描かれているオノサト・トシノブの抽象画を見ていると、「背景が布(織物)みたい」という子、「じゃあ、丸は?」と聞くと、他の子が「丸はお皿みたい」、すると別の子がすかさず「大きいお皿はお父さんとお母さんで、赤いお皿はお姉ちゃん、一番小さい青いお皿は弟でご飯を食べているところ!」と話してくれました。

オノサトの作品は時に曼荼羅のように宇宙観を感じる作品が多いのですが、‘家族の食卓の風景’こそがこどもにとっての‘宇宙’そのものなのだと逆に教えてもらった気がします。作品をツールにさらに、人それぞれの感じ方、考え方が違うことの面白さもたくさん感じてもらいたいと思います。
実際の作品を前に最初は緊張気味のこどもたちも、自分の言葉を探し、発するにつれ次第に饒舌になって、また友達の言葉に触発されて、新しい見方ができたり、さらなる想像が膨らんだりと、表情が生き生きとしてきます。
写真/じっくりと作品と向き合うグループ鑑賞の様子
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サポーターの役割はこどもたちと作品との出会いの仲立ちをすることです。こうした機会が、これからの文化の担い手であるこどもたちが世界を見る窓となり、人生を豊かにする種となってくれることを心から願っています。
いつも最後にこどもたちに伝えている言葉があります。
「美術館の作品は皆さんひとりひとりのものです。お気に入りの作品を見つけて、これからも時々会いに来てね。きっと新しい発見があるよ」

ボランティアやサポーター活動に、より作品や作家の背景を理解するために美学や美術史の知識が必要と考えて、美術検定関連の本で勉強を始めました。
受験の際、役立った勉強方法は、『美術の常識』シリーズなどQ&A形式の本で成果を数値化し、モチベーションを上げたこと。また、その解説でポイントをつかんでから『カラー版美術史』シリーズなどを読むと頭に入りやすかったです。
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