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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

「美術検定」のオフィシャルブログです。

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イケメンから始める美術史

こんにちは。「美術検定」実行委員会事務局です。
検定本番まで2週間と相成りました。
受験生のみなさんは、ラストスパートをかけていらっしゃることでしょう。
とはいえ、かた~い勉強ばかりでは煮詰まる一方です。
たまには視点を変えた美術史話で中休みといきましょう。

ということで、本日は「イケメン」アートを紹介した女子必見の一冊『美男美術史♥入門:女子のための鑑賞レッスン』(美術出版社刊)の著者、池間草さんに「美術史を200%楽しみながら学ぶコツ」を尋ねてみました。


海老蔵から始まるイケメン遍歴

ーー池間さんの著書『美男美術史♥入門』の着想はどこから来たのですか?

池間「個人的な美男至上主義からです。ほんとに男前が好きなんです。ひたすらミーハーで、何でもヴィジュアルから入る傾向がありまして、本格的にスイッチが入ったのは中学生の時、テレビ画面で一目惚れした市川新之助(現在の海老蔵)からですね。そこから歌舞伎に興味が出て、江戸文化やら浮世絵にはまっていったのです。さらに15年以上経って、ふと「美術手帖」ならぬ「美男手帖」があったら読みたいなと。美術史の見方っていろいろあるでしょう? だったら「美男」という切り口があってもいいか、と」

binanーー確かに。美女とか裸婦を切り口にした美術史や美術論はたくさんありますね。ところで池間さんはもともと日本美術を専攻されていたとのことですが、『美男美術史♥入門』で紹介されたのは西洋美術で描かれた美男の方が多いですね。

池間「日本美術に描かれた美男って、今の私たちの視点から見ると、美男とは言い難くありません? 平安男子は引目鉤鼻でぽっちゃり系。私たちにとっての理想美はやはり西洋美術に登場する美男たちなんですよ。女性とも錯覚しそうな中性的で整った顔立ちに均整のとれた素敵なボディ……。たどって行けば、美男の理想型は古代ギリシアまでさかのぼってしまいます。明治以降の日本美術には今に通じる美男が登場し始めますが、彼らは西洋の影響を受けた美男たちですよね。ヴィジュアルを考えて書籍化すると西洋美術中心になっちゃうんです。私たちの感覚って知らぬ間に西洋美術に感化されてしまっているってことなんですかね。日本の美男も捨てたもんじゃないと思いますけど」

画像=池間草著『美男美術史♥入門:女子のための鑑賞レッスン』
(美術出版社刊 2011年)
“美男”を切り口に、西洋美術・日本美術の絵画や彫刻作品を読み解くレアな本。
“美男”を通していつもとは違った美術史も見えてくる一冊。



ーー日本の美男とは?

池間「光源氏や在原業平とか。学生時代に見た絵巻では、これが玉のように光る男かっ!? と思っていたんですが、後年、ふと古今和歌集などを読んでみたところ、昔男の織りなす歌の優雅なこと繊細なこと。物語に描写される彼らの艶っぽいこと美しいこと……」


昼休みに堂々と男のハダカを鑑賞する―作品画集

ーー著作を見ると、あらためて「美男」が美術史上に多く登場していることに驚きます。ずいぶん長く研究されていたのでしょうか?

池間「研究なんて滅相もない! 大学の講義の合間や昼休みに図書館で美術全集をよく眺めていたのですが、美術の画集って公衆の面前で堂々と裸体が見られるじゃないですか。春画でさえ恥ずかしげもなく広げられる。机の上に何冊も積んでおくと、その姿は傍から見れば、一応勉強中。でも、心中は完全に歌麿フィーバーというか。とりあえず画集に登場する美男たちを欲望に従って見ていくうちに、彼らはただカッコいいだけでなく、崇められる存在だったり、贖罪のシンボルだったり……いろんな意味を持って登場することに気づき、いつしか男性芸術家が描く美しい男たちの虜になっていただけなんです」

ーー“男性の芸術家が描く”がキモなのですね。

池間「そうです。同性が見て美しい男、それがグッとくるんです。見てはいけない世界を覗いてしまった……家政婦は見たみたいな。だからと言って、所謂BL(ボーイズ・ラブ)モノには心魅かれなくて。いや、昨今のBL文化はかなり面白いと思いますが、女性のために女性が描いた作品と、男性が描いた美男を鑑賞するというのは、全く別物ですよね」


イケメン鑑賞のココロ―反省するココロ+縦軸×横軸

ーー1つの関心から多種多様の作品を見るコツがあるのでしょうか?

池間「う~ん。私の場合は作品を見る態度への反省でしょうか。例えば、磔になったキリスト像を見て「美しい男」を感じる自分がいる。それに対して「キリストなのにこんな薄っぺらな見方しかできなくてごめんなさい」と反省する。そうすると、ところでこの美しいキリストの絵の背景は一体なんなの? と知りたくなって主題にたどり着く。今度は主題から同時代の他の芸術家が同じテーマで表現したキリスト像を探して見まくる、じゃあ前後の時代の芸術家の作品はどうよ、という流れが出来上がります。そのうち、1番美しいキリスト像を表現した芸術家の他の作品にも美男が登場するはず、と思って今度は1作家の作品ばかりを見る……そうしている間に自分のNo.1が決まってあとは導かれる。反省→主題→テーマを絞る→同じテーマの作品を見る→自分のNo.1を探す→導かれる、の繰り返しでさまざまな美術作品を見ることになったのです」

ーー作品鑑賞の心得は“反省するココロ”ということですか?

池間「私の場合は、です(笑)。祈りの対象である宗教画を心で汚してごめんなさいと反省し、後で正しい知識をストックしていくと言いますか。最初は好き放題に絵を楽しんで、最後に学ぶ。はじめから正しさを求めていたら、美術の面白さが制限されてしまう気が……」

ーー池間さん的美術史学習は作品をよく見ることから始まっていますね?

池間「勉強という気持ちは全然ないのですが。美男という縦軸があって、主題や作家という横軸がいくつも入ることによって作品ヴィジュアルの記憶とそれを読み解くための知識が身に付いた、ということですかね。美男をつきつめていくうちに、巨匠作品のすごさまでわかるようになってきたような気がします。実際、そんなたいそうなものじゃないんです。好きだから、その一言に尽きます」

ーー美男から巨匠作品のよさがわかってくる、と。例えばどんな作品がそうでしたか?

池間「レオナルドの《モナ・リザ》とか全く興味もなかったし、よさもよくわからなかったんです。レオナルド作品で気になっていたのは《洗礼者ヨハネ》ですが、他のレオナルド作品にもっと違う美男が描かれているのではないか、他の画家が描いたヨハネはもっと美男がいるんじゃないか、とかいろいろ作品を見て行くうちに、レオナルドが描く美男の共通点が見えてきたんです。レオナルドが求めたのは完全体としてのアンドロギュノス(両性体)ではないか、のような。その視点で《モナ・リザ》を見ると、すごいわけです。女性がモデルなのですが、よく見るとアンドロギュノス的で。さらに見ていくとその画力に驚嘆する。多くの美術史家が「すごい」という理由も見えてくるようになったのです」

ーーとなると好きな切り口で作品をみていくことが、美術史知識まで自然に身に付く早道とも言えるのでしょうか?

池間「人によってさまざまだとは思いますが、“好きなテーマや切り口”から作品をみ始めると、もっと見たくなるし、知りたくなるのが人情。自己満足かもしれないけれど、楽しくその道を探求できて、知識もいつの間にか重なっている、そういう状況になると思います」

ーー本日は、どうもありがとうございました。
(聞き手/染谷ヒロコ=本ブログ編集)

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プロフィール/池間草(いけま・くさ)
1979年生まれ。明治学院大学文学部芸術学科日本美術史専攻卒業。広告代理店、出版社勤務を経てフリーに。美術雑誌や書籍、ウェブにて編集・執筆に関わる。

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