直前対策になるかもしれない!? 著作権のこと
こんにちは。「美術検定」実行委員会事務局です。
「美術検定」受験者のみなさんなら1度は聞いたことがあるだろう著作権。
特に1・2級の穴埋め問題には、毎年、著作権関連の問題が出題されていますが、理解するには難しい点もあります。
今回はその復習もかねて、社団法人著作権センターの矢澤さんに、美術作品の著作権にまつわる基本的なことを教えていただきました。
「美術検定」受験者のみなさんなら1度は聞いたことがあるだろう著作権。
特に1・2級の穴埋め問題には、毎年、著作権関連の問題が出題されていますが、理解するには難しい点もあります。
今回はその復習もかねて、社団法人著作権センターの矢澤さんに、美術作品の著作権にまつわる基本的なことを教えていただきました。
Q 著作権はそもそも何を保護しているのでしょう?
A 著作権とは、美術性や創作性のある表現を保護する権利です。誰が描いても同じようにできる表現は保護の対象外となります。そのため、前者の表現に使用禁止権=排他的権利(差止め請求、損害賠償、名誉回復)を与えて保護しているのです。それによって、創作者=著作者の意欲を刺激して次への創作を促すことを狙いとしています。
Q 著作権には「保護期間」があります。この「保護期間」は何のためにあるのですか?
A まずは「著作権=文化的表現」なんですね。ですから一定期間は、排他的権利として保護しますが、その後は「人類共有の遺産=パブリックドメイン」として利用できるようにする。次の世代はそれを踏み台に次の創作に取り組めるようにする、という考え方が著作権の根底にあります。
「保護期間」とは、作者が逝去した後にもその遺族や著作権の譲渡を受けた「著作権者」のいわば財産を守る期間を指すわけです。ですから、保護期間は「著作権者」の著作権が持つ「財産権(展示権、複製権)」を保護します。日本では作者の死の翌年から起算されて、50年間が保護期間です。ただ、著作権にはもう1つ、「著作者人格権」というものがあり、こちらは一身専属で創作者(著作者)だけに適用されます。
例えば、A美術館が所有する《B》という絵画作品があります。作家のCさんは40年前に他界しており、《B》の著作権者は妻のDさんです。A美術館は展覧会で《B》を展示し、カタログや関連グッズにその図版を載せる場合、Dさんにその旨、許可をもらわなければなりません。ここまでは、「著作権の財産権」に関わるところです。
A美術館は展示やカタログへの図版掲載のほか、関連グッズの菓子包装紙に《B》の作品図版を使用しましたが、展示と複製の許可をしたDさんは異議申し立てができません。これが「著作者人格権」に関わるところです。
しかし、[著作権法]は例外の多い法律でもあります。《B》の展示方法や図版の使用のされ方について、生前のCさんなら異議申し立てをしたに違いない、という内容であれば、Cさんの意志を尊重するために、Dさんは「著作権侵害」の提訴をすることができるのです。こういった場合は、著作者本人の孫までなら提訴ができます。
Q 日本では保護期間が50年、というお話が出ましたが、どうして海外と日本では保護期間の長さが違うのでしょうか?
A 著作権は文化のバロメーターであり、その国の文化水準を示すものとされています。また、著作権は本来国境を越えて保護しなければ意味がありませんが、各国の状況によって異なるのが現状です。文化的な歴史の長い欧米では、その文化的要請から、美術作品の保護期間は作者の死後70年間とするのが一般的です。日本の50年という期間は、世界の大半の国が加盟している「ベルヌ条約」で定められた最低の保護期間に準じています。
一方で、著作権は相互主義といって、自国と同じ待遇で相手国に権利を認めています。例えば、日本でドイツ人の作品の展覧会をする場合、ドイツでの作品の保護期間は作者の死後70年ですが、日本に合わせて50年とされるわけです。
Q ここで、保護期間の「戦時加算」について教えてください。
A これは[著作権法]ではなく、第二次世界大戦後の「サンフランシスコ平和(講和)条約」で締結されたものです。大戦中は連合国の著作物が日本などの対戦国で無断使用されていたものとみなし、連合国の国民の著作権については、通常の保護期間に戦争期間を加算する、というものです。該当するのは英米仏など約15カ国で、加算期間は各国の条約の発効日によって異なり、1941年12月8日から1952年の条約発効日までとされています。多数の国は3794日間で約10年間です。
1つ例を挙げましょう。みなさんがご存知のアメリカのジャクソン・ポロックは1956年8月11日に亡くなっています。本国ではその作品は保護期間内ですが、日本ですと一般的には2006年末に保護期間が終了していることになります。しかし、ポロックはアメリカ国民ですから、日本で展示する場合、2006年12月末からさらに3794日が加算され、実際に保護期間が終了するのは2017年5月21日となるのです。
Q 最近ではWebサイトの個人ブログで、美術作品の画像が掲載されているケースがよく見られます。これは[著作権法]でいうところの「私的使用」として認められますか?
A インターネットで発信される情報は「公衆送信」にあたります。「私的使用」が認められているのは「複製」だけで、「公衆送信」は含まれず、認められていません。使用の場合は著作者または著作権者に許諾をとる必要があります。
美術館の所蔵作品も、公衆送信または複製する権利は著作権者が専有しているものです。美術館は著作物の「所有者」ですから、使用の際には著作権者の許諾が必要となります。
すでにパブリックドメインとされている作品や建築物については別の話です。美術館や寺社が「所有物」に関して撮影や画像の使用許可や使用料を求めるのは、著作権ではなく、「所有権」に基づくものでしょう。また、撮影の制限は、作品保護の観点から設けられる場合もあるようです。
Q 学校などの教育現場では作品画像の使用制限はありますか?
A 教育機関が「授業の過程」で使用するための複製、他の教室への同時公衆送信は認められています。また、「授業の過程」には授業と同様の効果を期待して行われるクラブ活動、文化祭、運動会などの学校行事も含みます。ただし、汎用的な一般教材への複製、授業に利用した複製物の目的外利用は除かれます。例えば、学校の授業で使った作品画像の複製プリントを地元の美術館で行われる合同展覧会で展示する、というような利用は不可、となるのです。
Q 著作権法が認める「教育機関」には、美術館やカルチャーセンターは含まれますか?
A 保育園、幼稚園、小・中学校、高等学校、大学までの学校、および組織的・継続的に教育活動を行う社会教育機関、職業訓練機関などが含まれます。社会教育施設である美術館もその1つです。予備校、私塾、カルチャーセンターなど営利目的の教育機関は含まれません。
ただし、作品画像(複製)などをプロジェクターなどで上映する場合、入場料金をとらない非営利のものならば上映可能です。
(取材協力=社団法人 著作権情報センター)
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社団法人 著作権情報センター
著作権制度の啓蒙・普及をはかる財団法人。
著作権に関する資料、文献の出版や配布、相談窓口も開設している。同社団法人HP上ではQ&Aも閲覧できる。
HPはこちら。
A 著作権とは、美術性や創作性のある表現を保護する権利です。誰が描いても同じようにできる表現は保護の対象外となります。そのため、前者の表現に使用禁止権=排他的権利(差止め請求、損害賠償、名誉回復)を与えて保護しているのです。それによって、創作者=著作者の意欲を刺激して次への創作を促すことを狙いとしています。
Q 著作権には「保護期間」があります。この「保護期間」は何のためにあるのですか?
A まずは「著作権=文化的表現」なんですね。ですから一定期間は、排他的権利として保護しますが、その後は「人類共有の遺産=パブリックドメイン」として利用できるようにする。次の世代はそれを踏み台に次の創作に取り組めるようにする、という考え方が著作権の根底にあります。
「保護期間」とは、作者が逝去した後にもその遺族や著作権の譲渡を受けた「著作権者」のいわば財産を守る期間を指すわけです。ですから、保護期間は「著作権者」の著作権が持つ「財産権(展示権、複製権)」を保護します。日本では作者の死の翌年から起算されて、50年間が保護期間です。ただ、著作権にはもう1つ、「著作者人格権」というものがあり、こちらは一身専属で創作者(著作者)だけに適用されます。
例えば、A美術館が所有する《B》という絵画作品があります。作家のCさんは40年前に他界しており、《B》の著作権者は妻のDさんです。A美術館は展覧会で《B》を展示し、カタログや関連グッズにその図版を載せる場合、Dさんにその旨、許可をもらわなければなりません。ここまでは、「著作権の財産権」に関わるところです。
A美術館は展示やカタログへの図版掲載のほか、関連グッズの菓子包装紙に《B》の作品図版を使用しましたが、展示と複製の許可をしたDさんは異議申し立てができません。これが「著作者人格権」に関わるところです。
しかし、[著作権法]は例外の多い法律でもあります。《B》の展示方法や図版の使用のされ方について、生前のCさんなら異議申し立てをしたに違いない、という内容であれば、Cさんの意志を尊重するために、Dさんは「著作権侵害」の提訴をすることができるのです。こういった場合は、著作者本人の孫までなら提訴ができます。
Q 日本では保護期間が50年、というお話が出ましたが、どうして海外と日本では保護期間の長さが違うのでしょうか?
A 著作権は文化のバロメーターであり、その国の文化水準を示すものとされています。また、著作権は本来国境を越えて保護しなければ意味がありませんが、各国の状況によって異なるのが現状です。文化的な歴史の長い欧米では、その文化的要請から、美術作品の保護期間は作者の死後70年間とするのが一般的です。日本の50年という期間は、世界の大半の国が加盟している「ベルヌ条約」で定められた最低の保護期間に準じています。
一方で、著作権は相互主義といって、自国と同じ待遇で相手国に権利を認めています。例えば、日本でドイツ人の作品の展覧会をする場合、ドイツでの作品の保護期間は作者の死後70年ですが、日本に合わせて50年とされるわけです。
Q ここで、保護期間の「戦時加算」について教えてください。
A これは[著作権法]ではなく、第二次世界大戦後の「サンフランシスコ平和(講和)条約」で締結されたものです。大戦中は連合国の著作物が日本などの対戦国で無断使用されていたものとみなし、連合国の国民の著作権については、通常の保護期間に戦争期間を加算する、というものです。該当するのは英米仏など約15カ国で、加算期間は各国の条約の発効日によって異なり、1941年12月8日から1952年の条約発効日までとされています。多数の国は3794日間で約10年間です。
1つ例を挙げましょう。みなさんがご存知のアメリカのジャクソン・ポロックは1956年8月11日に亡くなっています。本国ではその作品は保護期間内ですが、日本ですと一般的には2006年末に保護期間が終了していることになります。しかし、ポロックはアメリカ国民ですから、日本で展示する場合、2006年12月末からさらに3794日が加算され、実際に保護期間が終了するのは2017年5月21日となるのです。
Q 最近ではWebサイトの個人ブログで、美術作品の画像が掲載されているケースがよく見られます。これは[著作権法]でいうところの「私的使用」として認められますか?
A インターネットで発信される情報は「公衆送信」にあたります。「私的使用」が認められているのは「複製」だけで、「公衆送信」は含まれず、認められていません。使用の場合は著作者または著作権者に許諾をとる必要があります。
美術館の所蔵作品も、公衆送信または複製する権利は著作権者が専有しているものです。美術館は著作物の「所有者」ですから、使用の際には著作権者の許諾が必要となります。
すでにパブリックドメインとされている作品や建築物については別の話です。美術館や寺社が「所有物」に関して撮影や画像の使用許可や使用料を求めるのは、著作権ではなく、「所有権」に基づくものでしょう。また、撮影の制限は、作品保護の観点から設けられる場合もあるようです。
Q 学校などの教育現場では作品画像の使用制限はありますか?
A 教育機関が「授業の過程」で使用するための複製、他の教室への同時公衆送信は認められています。また、「授業の過程」には授業と同様の効果を期待して行われるクラブ活動、文化祭、運動会などの学校行事も含みます。ただし、汎用的な一般教材への複製、授業に利用した複製物の目的外利用は除かれます。例えば、学校の授業で使った作品画像の複製プリントを地元の美術館で行われる合同展覧会で展示する、というような利用は不可、となるのです。
Q 著作権法が認める「教育機関」には、美術館やカルチャーセンターは含まれますか?
A 保育園、幼稚園、小・中学校、高等学校、大学までの学校、および組織的・継続的に教育活動を行う社会教育機関、職業訓練機関などが含まれます。社会教育施設である美術館もその1つです。予備校、私塾、カルチャーセンターなど営利目的の教育機関は含まれません。
ただし、作品画像(複製)などをプロジェクターなどで上映する場合、入場料金をとらない非営利のものならば上映可能です。
(取材協力=社団法人 著作権情報センター)
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社団法人 著作権情報センター
著作権制度の啓蒙・普及をはかる財団法人。
著作権に関する資料、文献の出版や配布、相談窓口も開設している。同社団法人HP上ではQ&Aも閲覧できる。
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