地域に根づいた私立美術館の活動:三井記念美術館
こんにちは。「美術検定」実行委員会事務局です。
今回は美術館レポート3回目として「三井記念美術館」の教育プログラムをご紹介します。
東京の中心地、中央区日本橋に2005年に移転・開館した三井記念美術館は、三井住友銀行や三井不動産など三井グループ企業50社の賛助から構成される公益財団法人三井文庫の文化史研究部門として運営されている私立美術館です。同館では、江戸時代からの商業の中心地でもある東京・日本橋で地域に根ざした教育プログラムを展開してます。
今回は美術館レポート3回目として「三井記念美術館」の教育プログラムをご紹介します。
東京の中心地、中央区日本橋に2005年に移転・開館した三井記念美術館は、三井住友銀行や三井不動産など三井グループ企業50社の賛助から構成される公益財団法人三井文庫の文化史研究部門として運営されている私立美術館です。同館では、江戸時代からの商業の中心地でもある東京・日本橋で地域に根ざした教育プログラムを展開してます。
三井記念美術館は、2005年に三井家および三井グループに縁の深い日本橋にある三井本館(重要文化財)に移転・開設された美術館。収蔵する日本や東洋の優れた美術品は、江戸時代以来300年に及ぶ三井家の歴史のなかで収集されてきたもので、現在の収蔵美術品は約4000点、切手は13万点で、このうち「志野茶碗 銘卯花墻」、円山応挙筆「雪松図屏風」など6点の国宝のほか、重要文化財71点、重要美術品は4点を数える。同館では、館蔵品で構成する企画展と、館外作品も紹介する特別展、年5回の展覧会を開催しており、教育プログラムも展覧会と連携しながら実施している。
豊富なコレクションと学校・地域との連携
三井記念美術館では、「美術の展示や文化活動を通して、様々なものの見方や考え方を提供し、人生を豊かに生きるための感性と考える力を養うことを支援する。地元及び教育機関との連携し、特に小中学生(青少年)を対象とし、多様な知識、経験、関心をもつ様々な人々の自発的な学習を支援する。」ことを掲げており、開館当初から教育普及プログラムを積極的に展開している。また公益財団法人に認定された際、「私立博物館における青少年に対する学習機会の充実に関する基準」(平成9年文部省告示第54号)第2条(望ましい基準)を満たしている美術館として認定を受けており、特に小中学生に向けたものや小中学校等の教育機関と連携した活動が多い。
近隣にはデパートなど商業施設や企業のビルが立ち並ぶ東京・日本橋というエリアに、小中学校はあるのかと一瞬思ってしまう。「意外と思われるかもしれませんが、美術館のある中央区には、公立の小中学校だけでも20校あります」と語るのは、同館の亀井さん。亀井さんは開館1年後から同館に教育普及員として勤務し、教育プログラム全般の運営を担当している。
「美術館のある日本橋は、五街道の起点として、また、日本の文化・商業の中心として栄えてきたまちであり、江戸時代以来の老舗も数多く残っています。そのため、来館されるお客様も日本の文化に興味を持っていらっしゃる方が多く、プログラム参加者もそういった日本や東洋の文化に触れてみたいという方が多いですね。当館に所蔵されている作品の多くは、実際に三井家の方々が生活のなかで使われていたものです。美術作品を通して、様々なものの見方や文化について考えるきっかけになるプログラムを実施できればと考えています」
教育機関(小中学校、一部高校も含む)向けのプログラムとしては、団体鑑賞の受け入れや出張講座だけでなく、先生方に美術館と美術作品に親しみながら、鑑賞教育を通じて教育活動の充実を共に考える研修会を実施している。
「最初は教職員の方のための美術館見学会だったのですが、学習指導要領の改訂に伴う鑑賞教育の重要性を踏まえ、美術館と先生、また先生同士の意見交換の場があればより深まると思い、研修会に変更しました」
「美術館と鑑賞教育について考える研修会」では、各回テーマを設け、展覧会を鑑賞し、鑑賞教育について討議等を行う。見学会の時に比べて、参加者数は減ってしまったが、「研修会」とすることで、内容が濃くなり、積極的な意見交換も行われるようになっただけでなく、先生方同士のネットワークつくりにも役立っているという。
教育機関向けの団体鑑賞や、年2回程度開催されているという小中学生とその保護者を対象とした鑑賞会では、40~60代といった年齢層が多くを占める同館の来館者に考慮して、開館前に行なっているという。
「当館では、静かな環境でゆっくり作品をみていただきたいという方針から、通常の開館時間ではギャラリートークは実施していません。そのため、鑑賞会は、開館前と開館後、両方の時間を活用して実施しています。まず、開館前は、スタッフと一緒に作品を鑑賞しながら、自分で感じたことや考えたことを自分の言葉で話し合います。そして、開館と同時に自由鑑賞の時間を設けます。参加した子どもたちには、作品を鑑賞することと同時に、公共施設でのマナーも学んでもらえたらと思っています」
団体鑑賞では、教職員と事前に打ち合わせを行い、それぞれの教育機関に合ったプログラムを実施している。
ワークショップは、年5回開催される企画展と連携して実施している。内容は、鑑賞と造形活動を組み込んだもの。例えば平成22年に開催した特別展「平城遷都1300年記念 奈良の古寺と仏像」では、仏像の頭部(へアスタイル)に注目し、仏像を鑑賞した後、実際にかつらを使ってヘアスタイルづくりにチャレンジした。特別展「円山応挙」では、文献をもとに、応挙が使っていたとされる筆づくりに挑戦し、実際に墨で絵を描くことも行っている。保護者として参加していた大人も夢中になっていたそうだ。ワークショップは同館でも人気が高く、ホームページで告知しただけでもすぐに参加定員に達してしまうという。

展示室で仏像のヘアスタイルを鑑賞した後、親子で一緒に髪型をつくっていく
また、日本橋という場を活かした教育プログラムも展開している。鑑賞ガイドとして制作された小冊子「三井と日本橋」では、江戸時代以来三井ゆかりの地となった日本橋の歴史、文化の関わりをわかりやすく紹介しており、美術だけでなく地理や歴史の授業などにも連動した内容となっている。

小冊子「三井と日本橋」は同館ミュージアムショップでも購入可能
他には、地域のNPOと連携し、江戸時代に日本橋を描いた作品を鑑賞して、船に乗って川を下りながら実際に日本橋界隈を巡るといった、地域に根づいたツアーも実施している。

「絵巻くるーず~絵でみる日本橋、船でみる日本橋」では、絵巻物を鑑賞後、描かれた場所を川下り
地域の私立美術館との連携
日本橋界隈には、東京駅を中心として、印象派や20世紀美術を中心にコレクションを持つブリヂストン美術館、東洋古美術を多く所蔵する出光美術館、2010年に開館し、近代美術を中心に企画展を開催する三菱一号館美術館といった私立美術館が存在する。現在「東京駅周辺美術館MAP」というリーフレットを制作し、相互割引など4館によるサービス連携なども行っている。

東京駅周辺美術館MAPは、現在4館で配布中
「それぞれの美術館は歴史や展示内容は異なりますが、東洋と西洋の貴重なコレクションを収蔵している個性豊かな美術館です。江戸と東京の文化が交錯する新しいアートスポットとして、教育プログラムでも何か連携できたらなと思っています」と亀井さんが語るように、三井記念美術館はじめとしたこの4館が、それぞれの美術館の特色を活かしつつ、学校や地域、そして地域の美術館とゆるやかに連携していく今後の活動が楽しみだ。
画像提供=三井記念美術館
取材・執筆=高橋紀子(「美術検定」実行委員会事務局)
豊富なコレクションと学校・地域との連携
三井記念美術館では、「美術の展示や文化活動を通して、様々なものの見方や考え方を提供し、人生を豊かに生きるための感性と考える力を養うことを支援する。地元及び教育機関との連携し、特に小中学生(青少年)を対象とし、多様な知識、経験、関心をもつ様々な人々の自発的な学習を支援する。」ことを掲げており、開館当初から教育普及プログラムを積極的に展開している。また公益財団法人に認定された際、「私立博物館における青少年に対する学習機会の充実に関する基準」(平成9年文部省告示第54号)第2条(望ましい基準)を満たしている美術館として認定を受けており、特に小中学生に向けたものや小中学校等の教育機関と連携した活動が多い。
近隣にはデパートなど商業施設や企業のビルが立ち並ぶ東京・日本橋というエリアに、小中学校はあるのかと一瞬思ってしまう。「意外と思われるかもしれませんが、美術館のある中央区には、公立の小中学校だけでも20校あります」と語るのは、同館の亀井さん。亀井さんは開館1年後から同館に教育普及員として勤務し、教育プログラム全般の運営を担当している。
「美術館のある日本橋は、五街道の起点として、また、日本の文化・商業の中心として栄えてきたまちであり、江戸時代以来の老舗も数多く残っています。そのため、来館されるお客様も日本の文化に興味を持っていらっしゃる方が多く、プログラム参加者もそういった日本や東洋の文化に触れてみたいという方が多いですね。当館に所蔵されている作品の多くは、実際に三井家の方々が生活のなかで使われていたものです。美術作品を通して、様々なものの見方や文化について考えるきっかけになるプログラムを実施できればと考えています」
教育機関(小中学校、一部高校も含む)向けのプログラムとしては、団体鑑賞の受け入れや出張講座だけでなく、先生方に美術館と美術作品に親しみながら、鑑賞教育を通じて教育活動の充実を共に考える研修会を実施している。
「最初は教職員の方のための美術館見学会だったのですが、学習指導要領の改訂に伴う鑑賞教育の重要性を踏まえ、美術館と先生、また先生同士の意見交換の場があればより深まると思い、研修会に変更しました」
「美術館と鑑賞教育について考える研修会」では、各回テーマを設け、展覧会を鑑賞し、鑑賞教育について討議等を行う。見学会の時に比べて、参加者数は減ってしまったが、「研修会」とすることで、内容が濃くなり、積極的な意見交換も行われるようになっただけでなく、先生方同士のネットワークつくりにも役立っているという。
教育機関向けの団体鑑賞や、年2回程度開催されているという小中学生とその保護者を対象とした鑑賞会では、40~60代といった年齢層が多くを占める同館の来館者に考慮して、開館前に行なっているという。
「当館では、静かな環境でゆっくり作品をみていただきたいという方針から、通常の開館時間ではギャラリートークは実施していません。そのため、鑑賞会は、開館前と開館後、両方の時間を活用して実施しています。まず、開館前は、スタッフと一緒に作品を鑑賞しながら、自分で感じたことや考えたことを自分の言葉で話し合います。そして、開館と同時に自由鑑賞の時間を設けます。参加した子どもたちには、作品を鑑賞することと同時に、公共施設でのマナーも学んでもらえたらと思っています」


団体鑑賞では、教職員と事前に打ち合わせを行い、それぞれの教育機関に合ったプログラムを実施している。
ワークショップは、年5回開催される企画展と連携して実施している。内容は、鑑賞と造形活動を組み込んだもの。例えば平成22年に開催した特別展「平城遷都1300年記念 奈良の古寺と仏像」では、仏像の頭部(へアスタイル)に注目し、仏像を鑑賞した後、実際にかつらを使ってヘアスタイルづくりにチャレンジした。特別展「円山応挙」では、文献をもとに、応挙が使っていたとされる筆づくりに挑戦し、実際に墨で絵を描くことも行っている。保護者として参加していた大人も夢中になっていたそうだ。ワークショップは同館でも人気が高く、ホームページで告知しただけでもすぐに参加定員に達してしまうという。


展示室で仏像のヘアスタイルを鑑賞した後、親子で一緒に髪型をつくっていく
また、日本橋という場を活かした教育プログラムも展開している。鑑賞ガイドとして制作された小冊子「三井と日本橋」では、江戸時代以来三井ゆかりの地となった日本橋の歴史、文化の関わりをわかりやすく紹介しており、美術だけでなく地理や歴史の授業などにも連動した内容となっている。

小冊子「三井と日本橋」は同館ミュージアムショップでも購入可能
他には、地域のNPOと連携し、江戸時代に日本橋を描いた作品を鑑賞して、船に乗って川を下りながら実際に日本橋界隈を巡るといった、地域に根づいたツアーも実施している。


「絵巻くるーず~絵でみる日本橋、船でみる日本橋」では、絵巻物を鑑賞後、描かれた場所を川下り
地域の私立美術館との連携
日本橋界隈には、東京駅を中心として、印象派や20世紀美術を中心にコレクションを持つブリヂストン美術館、東洋古美術を多く所蔵する出光美術館、2010年に開館し、近代美術を中心に企画展を開催する三菱一号館美術館といった私立美術館が存在する。現在「東京駅周辺美術館MAP」というリーフレットを制作し、相互割引など4館によるサービス連携なども行っている。

東京駅周辺美術館MAPは、現在4館で配布中
「それぞれの美術館は歴史や展示内容は異なりますが、東洋と西洋の貴重なコレクションを収蔵している個性豊かな美術館です。江戸と東京の文化が交錯する新しいアートスポットとして、教育プログラムでも何か連携できたらなと思っています」と亀井さんが語るように、三井記念美術館はじめとしたこの4館が、それぞれの美術館の特色を活かしつつ、学校や地域、そして地域の美術館とゆるやかに連携していく今後の活動が楽しみだ。
画像提供=三井記念美術館
取材・執筆=高橋紀子(「美術検定」実行委員会事務局)
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