アートナビゲーター活動記@兵庫県立美術館
こんにちは。神戸市在住のアートナビゲーター、伊藤英子です。
今回は3月18日に兵庫県立美術館で催された、アートナビゲーターによる鑑賞ワークショップ[解剖と変容アール・ブリュットの極北へ、チェコの鬼才ルボシュ・プルニーとアンナ・ゼマーンコヴァー展」を観に行こう!]をレポートします。
これはアートナビゲーター高島さんが企画した鑑賞ワークショップです。主催は神戸市中央区にある「寺子屋garage」で、「寺子屋garage美術検定勉強会」プログラムの1つとのことでした。私も鑑賞者の1人として参加しました。
今回は3月18日に兵庫県立美術館で催された、アートナビゲーターによる鑑賞ワークショップ[解剖と変容アール・ブリュットの極北へ、チェコの鬼才ルボシュ・プルニーとアンナ・ゼマーンコヴァー展」を観に行こう!]をレポートします。
これはアートナビゲーター高島さんが企画した鑑賞ワークショップです。主催は神戸市中央区にある「寺子屋garage」で、「寺子屋garage美術検定勉強会」プログラムの1つとのことでした。私も鑑賞者の1人として参加しました。
まず、13時より会場の外で「寺子屋garage」の太田さん、アートナビゲーター高島さんからの鑑賞会の説明で始まり、続いて参加者6名(男性2名・女性4名)の自己紹介です。京都からいらした方、美大出身の方、美学ご専門の方など皆さん美術に深い関心を持っていらっしゃる方ばかり。鑑賞会を楽しみにされているご様子でした。

そして入場。まずは、高島さんから展覧会及び鑑賞会の概要のレクチャーです。その後ゼマーンコヴァーの《魚》と題された絵を見て簡単な感想を述べあい鑑賞のコツをつかんでから、45分間程個人鑑賞タイムに入りました。
ここでは事前配布されたワークシート(右図)に記入しながら鑑賞します。このワークシートは、この後のグループ鑑賞タイムでの手がかりとなるものでした。鑑賞しながらのワークシートの記入によって、参加者は作品をより深く「みつめる」ことができたように思います。


14時10分から後半のスタート。いよいよグループ鑑賞タイムです。
ここでは各自がとりあげた作品を前に所感を述べ、それに対して互いに語り合いました。
特に参加者の興味を引いたのはプルニーの《父》《母》という2つの対の作品です。これは彼の両親の遺骨を用いた作品で、シャーレ状のものに入った遺骨が中心に置かれそれを取り巻くように日付が書き込まれている、というもの。全体の色調はグレーですが、中に1カ所だけ赤い日付があります。これはプルニーの誕生日、とのことでした。
多くの参加者が、遺骨を作品に用いたことに違和感を感じたようです。「遺骨への敬意の表し方がわからない」「木の年輪のようだ」「コンセプチュアルアートのようだ」「自分の記憶としてつくられたものか」「横浜トリエンナーレのイン・シウジェンの作品を想起させる」「本当に観る人を意識していないのだろうか」などの意見が交わされました。
ブルニーは自らを「アカデミック・モデル」と称して特注の印まで作り、その印は彼の作品を同定するトレードマークとなっています(1989年以降は美術アカデミーでモデルを勤めていた)。アール・ブリュットは「芸術文化や社会から距離を置きながら、ただ自分自身のためだけに制作した作品」と考えられますが、そのような印を用いていることからも「他者の目を意識しているのではないか」「作家としての認識があったのでは」「少し矛盾しているところがある」という疑念が多くの参加者から出されました。それは続いての写真コーナーで全員の「共感」となります。モデルをしていた時にとりためた写真で、多くは題名がついていません。「人に見せることを目的にしないわりには身体を見せている」「自己顕示欲を感じる」など。
また、プルニーは、犬に噛まれたことがあるらしく狂犬病の検査を定期的に受けており、その注射時の血液のついた綿を標本的に用いた作品もあります。《無題》と題された血液を用いた作品にはある種の嫌悪感を抱く人、色の美しさや精密で高い技術力を認識する人などさまざまでした。
一方、ゼマーンコヴァーの作品を選んだのは全て女性参加者でした。ゼマーンコヴァーは専業主婦として4人の子育てに専念していましたが、50歳にさしかかると子供たちが自立し母親としての自分の役割がなくなり、更年期も重なって不機嫌になることが多かったそうです。そんな時、息子たちの勧めで始めたのが絵画制作。それ以来彼女は絵画に熱中するようになりました。そんな彼女の作品は優しい感じがするもの、恐怖心を起こさせるもの、官能的なものなど豊かなヴァリエーションがあります。
《私たちのルチンカの誕生》は私が選んだ作品ですが、第1印象はほの明るさを秘めた蒼に「夜明け前を感じる」ということでした。高島さんによると、実際ゼマーンコヴァーは明け方に作品を作っていたそうです。「無から有へのあわいの一瞬」「内的エネルギーを秘めた中央の黄金色」「子宮」「水中植物のよう」などという意見が交わされ、プルニーとはまた違った趣の絵画です。興味深いことに男性参加者は彼女の絵にどこか危険な感じを抱くらしく「危なっかしい」「病んでいる」「狂気」「毒がある感じ」「花」という言葉が次々と出されました。男性と女性で視点に微妙なズレがあるのが面白いところでした。グループ鑑賞ならではの「驚き」と「発見」だと思います。
「語る・語り合う」ことで多様な視点に気づき驚いたり、共感したり。「発見」・「驚き」・「共感」の80分があっという間で、終了時刻の15時半となっていました。皆さんの感性の豊かさと高島さんのナビゲートで、途切れることなく流れるように時間が過ぎ有意義な2時間半の鑑賞会でした。
*****
終了後、自然な流れで美術館のカフェへ。これは番外編です。
本日の感想も含め気楽に語り合う和やかなお茶の時間。お互いに親交を深め、アール・ブリュットへの理解も深めた一日でした。
<画像提供=寺子屋garage 取材協力=兵庫県立美術館・寺子屋garage>
※アール・ブリュットとは
「生の芸術」「原石のような芸術」という意味のフランス語の造語で、英語ではアウトサイダーアートと訳されることもある美術活動の総称です。美術大学などで専門的な美術教育を受けていない作り手が、芸術文化や社会から距離を置きながら、ただ自分のためだけに制作した作品のことを指します。(「美術検定」でも頻出の用語です)ご参考まで。
*****
プロフィール
美術鑑賞が好きで、2009年の夏に書店の美術コーナーでふと手にした『美術検定公式テキスト』。その秋に3級合格、2011 年に1級合格。
1級受験にあたっては『美術館を知るキーワード』『1・2級傾向と対策』はもちろんのこと、『3級傾向と対策』『西洋・日本美術史の年表』もお薦めです。後の2冊はビジュアルなので前の2冊とあわせて使うと効果的でした。これから受験の方にご参考まで。


そして入場。まずは、高島さんから展覧会及び鑑賞会の概要のレクチャーです。その後ゼマーンコヴァーの《魚》と題された絵を見て簡単な感想を述べあい鑑賞のコツをつかんでから、45分間程個人鑑賞タイムに入りました。



14時10分から後半のスタート。いよいよグループ鑑賞タイムです。
ここでは各自がとりあげた作品を前に所感を述べ、それに対して互いに語り合いました。
特に参加者の興味を引いたのはプルニーの《父》《母》という2つの対の作品です。これは彼の両親の遺骨を用いた作品で、シャーレ状のものに入った遺骨が中心に置かれそれを取り巻くように日付が書き込まれている、というもの。全体の色調はグレーですが、中に1カ所だけ赤い日付があります。これはプルニーの誕生日、とのことでした。
多くの参加者が、遺骨を作品に用いたことに違和感を感じたようです。「遺骨への敬意の表し方がわからない」「木の年輪のようだ」「コンセプチュアルアートのようだ」「自分の記憶としてつくられたものか」「横浜トリエンナーレのイン・シウジェンの作品を想起させる」「本当に観る人を意識していないのだろうか」などの意見が交わされました。
ブルニーは自らを「アカデミック・モデル」と称して特注の印まで作り、その印は彼の作品を同定するトレードマークとなっています(1989年以降は美術アカデミーでモデルを勤めていた)。アール・ブリュットは「芸術文化や社会から距離を置きながら、ただ自分自身のためだけに制作した作品」と考えられますが、そのような印を用いていることからも「他者の目を意識しているのではないか」「作家としての認識があったのでは」「少し矛盾しているところがある」という疑念が多くの参加者から出されました。それは続いての写真コーナーで全員の「共感」となります。モデルをしていた時にとりためた写真で、多くは題名がついていません。「人に見せることを目的にしないわりには身体を見せている」「自己顕示欲を感じる」など。
また、プルニーは、犬に噛まれたことがあるらしく狂犬病の検査を定期的に受けており、その注射時の血液のついた綿を標本的に用いた作品もあります。《無題》と題された血液を用いた作品にはある種の嫌悪感を抱く人、色の美しさや精密で高い技術力を認識する人などさまざまでした。
一方、ゼマーンコヴァーの作品を選んだのは全て女性参加者でした。ゼマーンコヴァーは専業主婦として4人の子育てに専念していましたが、50歳にさしかかると子供たちが自立し母親としての自分の役割がなくなり、更年期も重なって不機嫌になることが多かったそうです。そんな時、息子たちの勧めで始めたのが絵画制作。それ以来彼女は絵画に熱中するようになりました。そんな彼女の作品は優しい感じがするもの、恐怖心を起こさせるもの、官能的なものなど豊かなヴァリエーションがあります。
《私たちのルチンカの誕生》は私が選んだ作品ですが、第1印象はほの明るさを秘めた蒼に「夜明け前を感じる」ということでした。高島さんによると、実際ゼマーンコヴァーは明け方に作品を作っていたそうです。「無から有へのあわいの一瞬」「内的エネルギーを秘めた中央の黄金色」「子宮」「水中植物のよう」などという意見が交わされ、プルニーとはまた違った趣の絵画です。興味深いことに男性参加者は彼女の絵にどこか危険な感じを抱くらしく「危なっかしい」「病んでいる」「狂気」「毒がある感じ」「花」という言葉が次々と出されました。男性と女性で視点に微妙なズレがあるのが面白いところでした。グループ鑑賞ならではの「驚き」と「発見」だと思います。
「語る・語り合う」ことで多様な視点に気づき驚いたり、共感したり。「発見」・「驚き」・「共感」の80分があっという間で、終了時刻の15時半となっていました。皆さんの感性の豊かさと高島さんのナビゲートで、途切れることなく流れるように時間が過ぎ有意義な2時間半の鑑賞会でした。
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終了後、自然な流れで美術館のカフェへ。これは番外編です。
本日の感想も含め気楽に語り合う和やかなお茶の時間。お互いに親交を深め、アール・ブリュットへの理解も深めた一日でした。
<画像提供=寺子屋garage 取材協力=兵庫県立美術館・寺子屋garage>
※アール・ブリュットとは
「生の芸術」「原石のような芸術」という意味のフランス語の造語で、英語ではアウトサイダーアートと訳されることもある美術活動の総称です。美術大学などで専門的な美術教育を受けていない作り手が、芸術文化や社会から距離を置きながら、ただ自分のためだけに制作した作品のことを指します。(「美術検定」でも頻出の用語です)ご参考まで。
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美術鑑賞が好きで、2009年の夏に書店の美術コーナーでふと手にした『美術検定公式テキスト』。その秋に3級合格、2011 年に1級合格。
1級受験にあたっては『美術館を知るキーワード』『1・2級傾向と対策』はもちろんのこと、『3級傾向と対策』『西洋・日本美術史の年表』もお薦めです。後の2冊はビジュアルなので前の2冊とあわせて使うと効果的でした。これから受験の方にご参考まで。
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