美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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再起動!宇都宮美術館+作品解説倶楽部

はじめまして。宇都宮在住のアートナビゲーターの渕野結美子です。
現在、宇都宮美術館の作品解説倶楽部で解説ボランティアをしています。
昨年の東日本大震災で同館も被災しましたが、収蔵庫増床と空調工事も終えて、今年3月24日、10か月ぶりに再開しました!
今回は同館の、作品解説倶楽部の活動を紹介したいと思います。


museum静かな森に囲まれた宇都宮美術館は20世紀以降の美術作品のみならず、ドイツのバウハウスコレクションも含め、プロダクトデザイン・ポスター等、幅広い「デザイン」の領域をコレクションの柱としています。そのため、コレクション展も毎回多彩なジャンルから企画構成されており、また、展示テーマによって、作品の表情も変化し、何度観ても身飽きることのない空間演出が施されています。
そんな密度の濃い空間で、ボランティア活動を通じて美術と人との出会いの場に立ち会えることに感謝しています。


同館の作品解説倶楽部には、現在1期生、2期生含めて15名のメンバーがいます。が、そこに、今年2月末に研修を終え、9月からデビュー予定の3期生9名が加わる予定です。月~金曜、日曜14時から大体1時間以内を目安にコレクション展の作品解説を行っています。

倶楽部員は学芸員による研修を受けたあと解説を行いますが、解説そのものにマニュアルがあるわけではありません。ですから、美術館から渡された資料だけでなく、自己研鑽で知識を蓄積し、お互いに情報を交換・共有することで、倶楽部員それぞれの個性を生かした解説を行っています。人それぞれ解説する作品も違いますし、また同じ作品であっても、ある人は美術史的観点から分析的に解説するかと思えば、ある人はそこに描かれているものに着目したり、またある人はお客様との対話の中から、作家の意図する着地点を探ったりと、アプローチ方法の多彩さが当館の作品解説倶楽部と特色だと思っています。
倶楽部員一同は、リピーターの方にも、日替わりランチのように、「同じ素材の違うメニュー」を、解説者の個性とともに楽しんで頂いただければと考えています。


私は1期生として開館以来解説を行ってきましたが、場数をこなしたとはいえ、未だに緊張感から解放されることはありません。参加者の人数も性別も年齢層もその場にならないとわかりませんし、自分なりのトークプランをたてて望んでも、参加者に応じて臨機応変に対応していくしなやかさが常に求められます。参加者が求めるものも人それぞれ。知的欲求を満たしたい方、言葉にできないもどかしい感覚を言葉にしてもらうことで充足されたい方……。解説の導入のところは皆さんのそんな期待にたじろぎながらも、やがて作品そのものが双方の緊張感を解いていってくれます。不思議なことに、抽象絵画の前でその距離感がぐっと縮まることがよくあります。「わけがわからない」「何が描いてあるの?」「苦手……」こんな言葉が自然に参加者の口からこぼれます。そんな時こそ、じっくり足を止めて作品と対話する時間を持っていただくようにしています。

work私は、抽象絵画こそマグリットの《大家族》の鳥の翼のように、自分自身の想像力の翼を自由に広げるチャンスだと思っていますので、そうお伝えすると、参加された方々がそれまで見えていなかったもの―それが形であったり、音であったり、様々な感情であったり―を自ら探り当てていかれることがあります。そして、多くの時間その作品の傍に立っているにもかかわらず、私自身にも「見えていなかったもの」をお客様に見せていただいた時、また、そこにいる人たちのみで共有できる密やかな何かを見つけた時、静かな空間がパっと華やいで、お互いが相手の言葉に真摯に耳を傾ける心地よい場にかわります。人との出会い、作品との新しい出会い……寡黙な展示室は、様々な出会いが生まれる磁場を持った劇的な空間に変化していきます。
*画像提供=宇都宮美術館



「ぼくが向こうの世界へいくための装置だと思う」
これは李禹煥の《照応》を観た小学校5年生の男の子の言葉です。子ども達から発せられる言葉は時として、作品の本質を射抜くような力に満ちていて驚かされることが多々あります。カンディンスキーの抽象絵画の中にねずみや魚やきつねを見つけて大喜びする子ども達もいます。スクールボランティアの際には、子ども達は自分だけの「見立て」を羅針盤に、自由自在に作品の中で遊びます。その柔らかい感受性に触れるにつけ、自分の固くなった感受性に温かい息を吹き込んでもらったような、そんな満たされた気持ちになります。
子ども達の言葉を丹念に拾い上げて、耳を澄ますこと。
「作品」の裏庭につづく扉の鍵は、案外そんなところに隠されているのかもしれません。

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work2現在、宇都宮美術館では、開館15周年記念展「カミーユ・ピサロと印象派 永遠の近代」を開催中です。コレクション展の内容も1時間で解説しきれないほどの、まさに「ベスト・オブ・宇都宮美術館!」のラインナップで展示されています。

風のかたちが見える小高い丘のてっぺんに建つ宇都宮美術館にどうぞお越しください。
隣接するレストラン「ジョワ・デ・サンス」では、繊細な日本人の五感を楽しませる、色彩豊かなピサロ展スペシャルランチが用意されています。


最後に、宇都宮美術館をよりマニアックに楽しむための謎かけを2つほど。

①入って右手のプロムナード・ギャラリーにはなぜか遠近法が存在しないといわれていますが、なぜでしょう?
ヒントは「視覚の遊び」です。

②美術館を囲む大きなガラスの上部には、白い水玉模様が描かれていますが、それはなぜ?
ヒントはマグリットの《大家族》の中に隠れているかも。

2つの謎解きはランチの後がおススメです。

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プロフィール
宇都宮美術館開館の翌年、1999年より同館にて作品解説ボランティアとして活動開始、現在に至る。2007年「美術検定」2級、08年1級を取得。大学時代まで美術部で下手な絵を描いていましたが、卒業後は鑑賞することの面白さに覚醒(?!)しました。
「美術検定」受験のための具体的な学習方法としては、美術館を巡る際、「自分だったら」という遊びの視点を持ちながら、展覧会や作品そのものを楽しむことが一番だと思います。また、参考書以外では、新聞の美術・芸術欄やBSの芸術番組も新情報が満載なので、こまめなチェックを!



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