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美術検定オフィシャルブログ~アートは一日にして成らず

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県内美術館の普及事業モデルを目指して:長野県信濃美術館 vol.1

今回は美術館レポート1回目です。
長野県の名刹・善光寺の隣、城山公園内に建つ長野県信濃美術館と東山魁夷館。
全国でも数少ない、特別支援学校や病院との連携事業をはじめ、さまざまな普及活動にも積極的に取り組む公立美術館です。
初の「美術館レポート」では、同館の普及事業について、2回にわたりお送りします。


予算・ノウハウ0からの構築

対話型鑑賞ツアー〈おしゃべりさんぽ〉、アーティストによるワークショップ〈やねうら美術館講座〉、学芸員が出張する〈おもしろ美術講座〉をはじめ、長野県信濃美術館 東山魁夷館が開催する定番普及事業のコンテンツは幅広い。先に挙げた学校や施設との連携事業は、〈おもしろ美術講座〉と〈造形体験〉、対話型鑑賞をベースに、各施設のニーズに応じてアレンジしたミックス版でもある。


yaneura1やねうら美術館講座の様子。
大人も子どもも作る楽しさを体験できるプログラム。
講師には、アーティストや大学教諭を招いており、と直接コミュニケーションできる機会にもなる。

写真は「コピアート:影で時間を切り取ろう」の講座より。



yaneura3同じくやねうら美術館「世界にたった一つのクリスマスケーキをつくろう」の講座より。


1966年(昭和41)に財団法人として発足、69年(昭和44)から県内唯一の県立美術館となり40余年を数える同館。
「実は普及事業への取り組みが始まったのは、2002年(平成15)です」と話すのは、今回インタビューに応じてくれた、同館学芸員で普及事業も担当する土屋さん。
「予算もノウハウもゼロスタートで、まずは当館の使命の見直しから始まり、事業の3本柱となる学校、地域との連携、成人に対する活動、の計画に着手しました。同時進行で行政との折衝や県内の実態調査、教育機関への聞き取りも開始。それまでは学校の先生たちとの交流もなかったのです」

同館は「楽しむ心を育む美術」「生活の中の美術」といった方針を打ち出し、県内の学校や教師からの声も反映しつつ、独自の美術館見学プログラムも実施している。

gallerytour「作品鑑賞については対話型鑑賞の手法を取り入れ、子どもたちが主体的に作品を体験できる鑑賞シートの提供も行います。また、ツアー中に短時間でできる造形体験を組むなど、来館される学校の先生と意見交換をしながら細かい内容は詰めていくようにしています」と土屋さんは言う。


kit 「映す」カードによる作品例。

時間内で子供たちの作業が完了するよう配慮された造形体験キットは「博物館学芸員課程の実習に来た学生などにも、教育普及事業を体験してもらうために実習期間中に制作時間を設けて、作ってもらったものもあります」と土屋さん。




地理的ハンディキャプをカバーする
「長野県版アートゲーム」


同館では中学校との連携による展覧会や、体感型の展覧会「五感でアート」といった、普及事業と展覧会事業は並走しながらもクロスするプログラムも生み出し、事業の幅を広げ続けている。

しかし、どの都道府県でも悩みどころである学校や教師たちの温度差もあり、活動内容をいかに知ってもらい理解してもらうかという点も大きな課題という。さらに、同館の場合は地理的な課題も横たわっている。
「〈おでかけ美術館〉は、当館に来るのが難しい子どもたちに向けての事業という意味合いも大きいのですが、長野県は本当に広くて」
教育施設や自治体の要望に応じて出張講座をしようとすれば、講座時間は1~2時間でも場所によっては丸1日かけての出張となる。学芸員は6名しかいない。全員展示業務をはじめ、多くの仕事をこなしながら普及活動にもあたっている。

「学校は遠方にも多く、全県から当館へ来てもらうには無理があります。そこで、県内の美術作品や文化財を所蔵する美術館や博物館に声をかけ、各館が所有する作品を収録した〈アートゲーム〉を作りました」
この〈アートゲーム〉収録作品は、各学校から訪問できる美術館や博物館の収蔵作品が必ず含まれており、その作品は実際に見ることができるという点に配慮して選ばれている。〈アートゲーム〉は、貸し出し希望の学校には無償で貸与される。

AC_set103枚が1組で箱に収められ、教師用と児童・生徒用カード、手引書で1パッケージに。

カードデザイン、作品に関する情報量、トランプのように4組色違いのパッケージ方法など、いたるところに子どもたちや学校現場への配慮がみえる。



AC_kids写真上は児童・生徒用カード、
下は教師用のカード。

AC_teacher

AC_game1手引書には〈アートゲーム〉の使い方である「ゲームのルール」と収録作品のデータを掲載。
写真上は「共通点はどれだゲーム」、下は「なりきりゲーム」実践の様子。

AC_game2


「〈アートゲーム〉は、美術館でその空間や作品に触れ合うこととはまた違ったアート体験ができます。特にこのカードは地元のことを知るきっかけにも使えますし、コミュニケーション能力の向上にもつながります。今後は〈アートゲーム〉の存在を広く知ってもらうためにも、県内各地の美術館といかに連携して発信地となってもらえるか、という課題も出てきました。普及事業は試行錯誤の連続ですね」と土屋さんは話してくれた。


同館1館だけでは広報活動や貸し出し作業だけでも飽和状態になってしまう。展覧会事業での美術館同士のつながりは、巡回展で私たちもよく見聞きする。しかし、予算も人員も削られ続ける美術館にとって、普及事業にもこの横のつながりが今後ますます重要になってくると思われる。
(画像提供=長野県信濃美術館 東山魁夷館)

取材・テキスト/染谷ヒロコ(「美術検定」関連書籍編集) 

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次回は信濃美術館 東山魁夷館の普及事業のなかから、特別支援学校との連携事業についてレポートします。

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