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CINEMAウォッチ『ブリューゲルの動く絵』

こんにちは、アートナビゲーターのまつながひろみです。
今回は、美術作品をテーマとした映画を1本、ご紹介します。
ブリューゲルの動く絵』(監督レフ・マイェフスキ、2010年)です。


キリストの死こんな型破りな映画を、よくもまぁ、完成してしまったものです。ウィーン美術史美術館が所蔵するブリューゲルの絵画に《十字架を担うキリスト》という大作があります。これはキリストの物語をブリューゲルが16世紀の風俗に置き換えて描いた作品です。この作品にはご覧の通り、たくさんの人々のさまざまな行為が“静止したシーン”として画面全体に描かれています。
ピーテル・ブリューゲル(父)
《十字架を担うキリスト》1564年
キャンヴァス・油彩 124×170cm
ウィーン美術史美術館蔵

映画は、16世紀フランドル地方の村人たちの日常を、ゆっくりゆっくり描いていきます。竹馬で歩いたり、単調な音楽に合わせて野原で踊ったり。神に感謝の祈りを捧げた後にパンを食べ、山羊を引っ張り外へ出て行く若夫婦。しかし、何の罪もない夫を、馬に乗った権力層の人々がいきなり叩きまくり、倒れた彼を高い輪の上に載せ、鴉に突っつかせる――人々はその行状をじっと見つめるだけ。描写はあくまでも淡々と進みます。

 
16世紀のブリューゲルが、キリストの物語を同時代の風俗の中に置き換えて描いたように、この映画の監督は、更にブリューゲルの時代を、現代のCG技術を駆使してなぞっていくのです。
ラスト近く、人々は一斉に《十字架を担うキリスト》の登場人物と同じ衣装、同じポーズを取ります。"動"であることが身上であるはずの映画が、"静"を描き出す一瞬です。大きな壷を抱いた中年の女性が、ぐらぐら、っと動いてしまうのが、ご愛敬。絵ではどうなっているか――探してみて下さいね。

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映画を観た後、改めて《十字架を担うキリスト》に眼を向けると、そこかしこに存在するあの輪。使われ方を思い出し、ぞくっとしつつも見つめずにはいられません。遠くの絞首台には、1人吊されているのが見えます。

またプロテスタントであった当時の北ネーデルラント(フランドルの一部)が、カトリックのスペインに支配されていた時代の雰囲気も読みとることができます(映画の中の暴力者たちは、実際には時代が違い、スペイン兵ではないそうですが)。

いつの時代にも理不尽な暴力はあり、それはシャーロット・ランプリング演じるところの聖母の悲しみにも重ね合わされることでしょう。
そして、この時代を経て、独立後の繁栄するオランダ−レンブラントやフェルメールの時代につながっていくのです。絵画をより深く鑑賞する一つの方法は、やはりその時代の歴史的背景や文化を広く知っていくことだと、今更のように実感する映画でした。


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プロフィール/高校の教員(国語)として、生徒たちの10年後…50年後の豊かな人生につながるとの確信から、美術を含む芸術について、様々な場面で彼らに紹介する機会を作っています。
皆さんにお勧めしたいのは、とにかく興味を持ったことは追求していくこと。ある日、あぁ、これはこういうことだったのか、と“腑に落ちる”一瞬が訪れることでしょう。

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